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死亡

 寝て起きて歯を磨いた後、VRCを装着。

 そのまま、気合を入れるかのように一言。


「さて、やるか。」


 ボソッと呟きベットに寝転がる。

 襲いかかってくる睡魔を馬鹿にしつつ、VRCを起動。


「お? 通知が来てるのか?」


 一旦、自分が作り上げた仮装部屋に入ると通知が何件か。

 その中の一つが真狼の友人からのものだった。


「DWOで会いたい? 俺も会いたいけどさ、実際問題合えるのかねぇ?」


 物理的にも状況的にも合えるのかどうか、確かに難しいところだろう。

 真狼はしばらく悩んだのち、一旦断る内容を入れる。


「よしコレでログイ……、返信早っ!? って、案外普通に了承したか。」


 若干申し訳なく思っていたが、友人も別に本気で誘っていたわけでは無い様子で有りあっさり了承した。

 その後、幾つか話していると何か欲しいアイテムがあるかと聞いてくる。


「欲しいアイテムねぇ……、いや他力本願はどうかと思うし遠慮しとくか。それに、クランを運営しているらしいしなぁ。迷惑をかけたくはない、な。」


 欲しいアイテムは無数にあるが実際もらってやるゲームが自身の望んだっものかと言われると違うだろう。

 その結論を弾き出した真狼は、サクッと返信メールを送るとゲームを開始した。

 もちろん、ゲームタイトルはDWO……。


「麻雀楽ちぃぃぃぃぃいいいいいい!!!!」


 などではない、オンライン対戦機能のある麻雀で真狼は数時間遊んだのち思い出したかのようにDWOを開始する。

 全く、こいつはなんなのだろうか……?


*ーーー*


 DWOにログインした彼は麻雀での敗北に奥歯を噛み締めながら、少し天井を見つめる。

 知らない天井だ、いやいやまさか。

 知っている天井ではある、知らなくてもいい天井でもいいが。

 纏まる事のない、取り止めのない思考。

 漏れ出る呻き声、やはり仮想通貨を用いた賭博はやるべきではない。

 いや、それ以前にだ。

 テンションが上がったからといって必ずしも勝てるわけではないのは事実なのに、何故こんな馬鹿なことをしたのか?

 後悔の念に駆られ、呻き声しか出ない。


「よし、早速やっていくか。」


 いや、普通に声が出たようだ。

 究極的に切り替えの鬼らしい、この男は。

 というか、次の活動に想いを馳せて笑みすら浮かべている。

 不気味、といっても問題あるまい。

 そんな感想を抱かせつつ、彼はツルハシを担ぎながら採掘ポイントを回り始める。

 昨日掘った石は全部沙石に代わっており黒狼が思いついた窯を作る素材が足りないのだ。

 前回捨てた分を回収しても、まだまだ足りない。


「えっこら、ほいこらっと。昨日より量が多くなってるのは僥倖僥倖、石工スキルの効果か? 採掘ポイントも気持ち多くなってるように思えるし。」


 インベントリに石を入れながら機嫌良く採掘を進める。

 たまに訪れるゴブリンやスライムは槍による攻撃で対処し、そちらの素材も集めてゆく。


「スライムも真ん中の石だけ抜けば体がアイテムになるんだな。」


 偶然の賜物であるが、獲得できるアイテムが増えたことに喜ぶ。

 もしかしたら肉体が溶ける類の攻撃をするのかもしれないが、謎に溶ることがない。

 多分状態異常無効がその効果を発揮しているのだろう、幸運にも。

 そんなふうに、採掘を20分ほど進めて……。


「インベントリがもう一杯か。よし、撤収だな。」


 と言うわけで、拠点に戻る。

 採取したアイテムの内訳は石約68kg銅23kgとなかなかな量だ、まともに加工できれば大きな問題など発生しない程度の量でもある。

 インベントリを得たのは黒狼にとって幸運だったのは間違いない、手に持つなんてことをしていたのなら地獄みたいな状況になっていただろう。


「さて、早速作るか。」


 拠点から少し離れた場所で大量の石材を組み合わせる、適当に円形を意識して大きな石を積み上げて。

 作成している代物は言うなれば石窯であり、初期的かつ比較的簡単に作れる窯と言えるだろう。

 最初に積み上げた石には隙間が多数窺え、このままでは熱が篭ることはなく温度はそこまで上がらない。

 そこで、残りの石を砕き沙石で細かい穴を埋める。

 さらに新たに得たスライムを上から被せ細かな穴をきっちりと埋めていく、それらの工程を窯の頂点に穴が開くようにしながら作成した。


「鑑定結果も石窯ってなってる。スキル無し、レシピ無しでも作れるんだな……、なんかついでに石工のスキルも上がって……、アクティブスキルで『変形』? 効果は……、石系アイテムの形を多少変えられる?」


 2〜3時間ほどかけ、作り上げた石窯を見てそう呟く。

 そして、新たに得たスキル効果を見て実際に使ってみたところ……。


「見た目は言うて変わってないけど性能が変わってるらしいな。」


 そう呟き、軽く喜ぶと早速使ってみようとする。

 インベントリに入れていた棍棒を燃料として放り込み、火打ち石と打ち金で火を灯そうとし……。


「あれ? 全然付かないぞ?」


 大変苦労していた、それもそうだ。

 とは言え、10〜20回も繰り返せばゲーム的システムで火もつく。

 燻る火を見ながらその棍棒を窯に入れる、燃え上がれよ〜と念じながらふと浮き上がった疑問。


「と言うか、ここ洞窟だし燃え上がるのか?」


 今更な疑問を上げるが、その疑問は10分後には氷解する。

 そう、見事に燃え上がったのだ。

 若干の不安はコレによって消え去り、まずは窯を作る時に使ったスライムの水分を消し去るため空焚きする。

 棍棒は生木では無かったようで煙もそこまで出ず、火は大きく燃え上がり


「あ、やべ。」


 黒狼は死んだ。


*ーーー*


「あー、そういや俺にとって光は天敵だったのを忘れてた。」


 溜息を吐きながらそう呟くと、インベントリを確認する。

 というか、弱点を忘れるなと言いたくなる話だ。

 ギャグ漫画見たく、そこまで容易く死ぬのは許容してはいけないだろう。


「死んでもインベントリのアイテムはそのまま、ということは火がアレ以上広がることは無いか。」


 安心しながら、槍を取り出す。

 自作の槍、結構な笑みを浮かべつつ満足げにリスポーンした洞窟で軽く振る。


「さて、出来ることは分かったんだ。燃料集めと洒落込もうじゃねぇか。」


 ニヤリと笑い、先へ進もうとした途端。

 背筋が凍る、地獄が如き深淵の冷気が背筋を這う。

 漆黒にして真黒、狂気にして恐怖の根源。

 所在なき絶望、意思なき怖気。


「なんでいる? 黒騎士。」


 怯えと恐怖、捻り出した強がりは震える体を押さえつける。

 駄目だ、逃げ出しては。

 その思いから地面を強く踏みつけ、睨みつけるが如く相手を見る。


「今回は飛び出して来なかったか。」

「いや、何でいるかって聞いてるんだよ。」

「なに、しばらくこの世界に居なかったようだからな。そして、現れてみては何か忙しそうに駆け回る。コレは何かと思って尋ねた次第だが……、アレは窯か?」

「ああ、そうだけど文句があるのか?」


 落ち着いてきた、息を整える。

 いや、息など元からしていないはずだ。

 では何を整えている? 一体何を?

 今度は恐怖ではなく疑問符が頭を支配し、そのまま口に手を当て風が出ているのかを確認。

 骨の触覚では分からないことから、他の手段を探そうとし黒騎士を再度目に入れた。


「何をしているのだ?」

「あ、いや何も。」

「そうか、奇行を行い出してとうとう恐怖により発狂したかと思ったが問題ないようだ。」


 黒騎士の言葉に自分の奇行を再度自覚し、少し顔を背けた上で唸りつつダッシュで逃げようと動き出し。

 直後、正面の黒騎士が魔法陣を展開し恐るべき量の光を叩きつけられたことで消失した。

 十秒経過、洞窟の中で復活した黒狼は目の前にいる黒騎士を見て諦めたように息を吐く。

 どうや常識の埒外の存在らしい、先ほどの行動も予備動作に入った瞬間に放たれたものであるため先ず先ず直接的な戦闘は無意味に等しいようだ。


「なぜ逃げようとした?」

「何となく、というかさっきの攻撃は何だよ。」

「貴様がスケルトンであればさぞ光には弱かろうと思ってな、それに何度も光が原因での即時復活を観測している。推測など容易い話だ、そしてここに来たのもそれが理由の一つである。」

「勿体振らずに早く言え。」


 目論見を崩されて若干不貞腐れている黒狼、半眼で睨みつつ文句を言い放つ。

 それに対して黒騎士は黄泉の冷気が如き深淵を纏いつつも、特に攻撃的な行動を取る様子はない。


「そう焦るな、内容は簡単だ。闇魔法を鍛えてみろ、適正自体は低くないはずだ。」

「闇? 何で? あ、いや、そう言うことか!! 闇によって光を遮るのか。」

「そう思うのならそう思えば良いだろう、眼に映る真実など常に忘却し消えていくが故。」


 それだけ言うと、黒騎士は黒狼の前から消える。

 そのまま黒狼は自分が拠点にしている遺跡に戻ろうとしばらく走って、そして最後の曲がり角へと近づいた途端。

 一気にHPの半分が削れ、次の瞬間には死亡していた。


「え、まさか部屋に戻れないタイプですかい?」


 答えは明白だ、故になぜそうなったのかのみを説明しよう。

 そもそも黒狼の種族、アンデッドの中でもスケルトンはその性質から面白い特性がある。

 そう、光に対して弱いことだ。

 光とは即ち、神聖の証明にして既知の立証。

 未解明にして未確実を拒絶し、不浄なるものを浄化するという概念が存在している。

 そしてスケルトン含むアンデットとは、不浄であり生と死の間を立証せぬ種族。

 つまり、光は天敵となる。

 どの程度天敵かといえば、蛍の光よりも薄暗い空間だったとしても黒狼は数秒もなく死ぬ。

 例え月すら上がらぬ漆黒の世界の中であっても、今の黒狼は死ねるわけだ。

 だからこそ、黒狼が感知できないほど微弱な光の中でも黒狼は死んでしまったというわけになる。


「大人しく、闇魔法を鍛えるか。」


 涙ながらに、魔法を使うためMP欄を確認する。

 一度死んだため全回復しているが、本人はその事実を半分忘却しつつダークボールを生成。


「お、MPが増えてる。コレで効率が良くなる、やったぜ。」


 そう言うわけで、ダークボールを発生させ手で鞠玉のように遊び壁にぶつけて消失させる。

 くだらない遊びを幾許か、持ちうるMPを全て使い切り少し回復するまで待ってからライトボールを生成。

 二度目からは最低限ライトボールを出せる魔力を残しつつ、同様の作業を何度も行えば……。


「レベルUPか、案外遅かったな……。」


 当然と言ったように、スキルレベルが上昇する。

 一安心、だがすぐに終わらすのもどうかというもの。

 飽きるまで同じ工程を繰り返し、レベルも上がらず飽きたので黒騎士の言う事を信じ何か変化があるはずと早速部屋を飛び出して……。

 そのまま、炎が消えていることに気付く。


「あ、もう消えてたか。」


 自分の努力は何だったのかと言うやるせ無さを抱えつつ、拠点に置いていた石の器に銅の鉱石を砕いた物を入れる。

 なぜか短時間で完全に消えているが、その理由を深く考察する気はない。

 どうせゲーム的な便利機能だろう、そんな雑な当たりをつけつつ石の器をセットする。


「とりあえず、原始的な方法で銅を溶かすか。」


 誰に向けるまでもなく言うと、先程作り上げた器に山のように銅の鉱石を盛り窯の中に置いていく。

 効率の良いやり方なんぞ知らないため、程よく温まりそうな配置にすると再度火打ち石で火を付けた。

 当然、同じ失敗は二度もしない。

 そんな意気込みと共に、失敗することを確信しつつ菩薩のような表情で今度は棍棒を加工し作り上げたおが屑を中に放り込み火がつきやすくする。


「もーえーあーがーれー」


 などと意味をない事をしながら火打ち石で火を付け、燃え上がる様子を見た。

 よく燃えている、棍棒も入れているからすぐに燃え尽きることはないだろう。

 半そんな安心と共に、息を吐いた瞬間。


ピロン♪


「ん? 通知音?」


 一瞬驚き、そしてステータスから通知を見ると内容は火魔法の取得。

 火を扱ったからなのかと納得した瞬間、黒狼は死んだ。

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