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加工

 採掘祭りを始めてから30分ほど。

 装備詰め合わせの中にあったツルハシで採掘ポイントを殴りつけると小さな岩石がドロップする。

 それを鑑定もせずに、そのままインベントリに入れようとして……。


「おや? もう重量制限?」


 重量制限に、普通に引っかかった。

 100キログラム、そこにだいぶん余裕があるようにみえ実際はそこまで存在しない。

 こんな風に適当に入れれば、当然すぐに満杯になる。


「え、早くない? まだ30分だぞ?」


 疑問に思いながらインベントリのアイテム一覧を見てみると確かに重量制限に引っかかっている。

 内訳をよく見てみると100kgのうち、その約半数が石で埋め尽くされている。

 先述の通り、でしかない。


「……あー、そう言うことか。察したわ、そりゃポンポン出る訳だ。」


 小石でも数を揃えれば馬鹿にならない重さになる、塵も積もればなんとやらだ。

 必死で、と言うわけでもないが普通にそこそこ頑張っていたら100kgなど簡単に集めれてしまうだろう。

 しかもその行動を何時間にも渡り行っていた、超えていないほうが不思議な話となる。


「……、レシピ見てたら案外使い道あるし一旦持って帰るか。」


 自分のうっかりで少し恥ずかしく思いはしたが、別段気にすることでもないと思いこみそして折角だし何か作ってみようかと拠点に戻りはじめる。

 道中に出てくるスライムやゴブリンは例に漏れず大して強くもなく、スキルを手に入れた黒狼の敵ではない。

 あっさり叩き潰すと扉の中に入り、錬金セットを広げる。


「作成可能可能レシピは……、器とかがメインか。ふむふむ、石器ナイフとかもあるんだな、どうせ性能は低いんだろうけど。とりあえず作るか。」


 と言うわけで、錬金セットの中にあるアイテムで色々加工しゆく。

 だが、碌な物は作れず加工中に壊れるか石判定しかされないほどに造形が酷い物ばかり。

 しかし、悪い事ばかりかと言うとそう言うわけでもなく……。


「【造形】【加工Ⅰ】【石工】スキルが手に入るとは……。俺のさっきの苦労は何だったんだ……、トホホ。」


 と、スキルが三つも手に入った。

 案外、簡単に手に入るスキルを見て黒狼も若干涙目になっている。

 こんな事ならばもっと早くに採掘しておくべきだった、そんな後悔はツルハシの入手方法を思い出したことで飲み込まれた。

 しかし、文句は出てくる。


「欲しい時に出てくれたら文句は無いんだけどなぁ。」


 全くもってその通り、しかし望んでいるときほど望んだものは出てこない。

 コレが物欲という物だろうか? いや、コレが物欲でなければ何なのだろうか。


「失敗したやつは……、砕いて適当な場所に撒いとくか。生産過程である程度消えるだろうしな。」


 と言うわけで失敗した石をハンマーで砕き始め、一つの石に対し10〜20回ほど砕けば砂利と言う表記に変化し、20〜30回で沙石と言う鑑定結果に変化する。


「お? スキルレベルUP? えーと、スキル名は……。石工? やっぱりコレ、錬金術じゃなかったか。」


 なんとも言えない雰囲気を漂わせながら、彼は沙石をインベントリに入れる。

 最も加工時に出たロス故に石全体の重量が2〜3kgほど低下しており、元々の狙いは達成できたと言えるだろう。

 一息だけつけば、そのままゴミを全部捨てた。


「沙石って、何かに使えるんだろうか……。あー、レシピは有るけど加工するのに必要なアイテムもスキルも無いのか。」


 レシピを見ながら現時点で作れるアイテムはないと結論づけるとよく通る道に沙石をばら撒き骨の素足で整える。

 利用方法はそこまで思いつかなかったので、そのまま道にしようと言う魂胆だ。


「ふぅ、大分インベントリが空いたな。」


 額を拭い、疲れた風を醸し出しながらインベントリタブに目を向ける。

 次に表示されているアイテムは岩肌を壊していた主な目的である銅鉱石だった。


「さて、コレを加工したいんだが……。まぁ、無理だよなぁ。」


 レシピ欄を見ながらやはりと呟く。

 ぶっちゃけな話、錬金セットの中に銅を融解させるほどに火力を出せる代物が存在しないのだ。

 銅の融解点は1,085℃であり、そんな温度はある程度の設備がなければ出すのは難しい。

 2000年代に作られたガスバーナーで有れば余裕で発生させられはするが、黒狼の持つ設備及び道具は石器が精々。

 1000℃を超える熱を発生させようとするならばやはり素材不足が目立つ。


「必要な設備すら隠されてんのってふざけてんだろ……。当てはまるのは……、精々移動式簡易錬金窯か? それも鉄製の時点でお察しだし……、大人しくコレは保管しておくか。」


 と言いながら、幾つか加工の仕方は思いついていると言えば思いついている。

 その設備を作れるのかと言えば首を傾げざるを得ないが。


「他のアイテムは……、全部ドロップ品だな。コッチは放置でいいか。」


 そう言いながら、ドロップ品を部屋の隅に置くと軽く溜息。

 というか、ため息を吐く他にできることがない。


「要求される設備もさることながら、レシピ見る限り複数のスキルも要求されてるだろ? とりあえず現時点で出来る事は打ち止め臭いし、再度採掘しようにもなぁ……。」


 もし、あの考えが正解ならば採掘してから30分も経過していない現状では碌な素材が取れないだろう。

 下手をすれば採掘ポイントが復活していないかもしれない、いや絶対に復活していない。

 それに他に採掘ポイントは確認しているが、場所が遠いと言う欠点もある。

 はっきり言おう、やることが無いのだ。


「うん、しゃーない。一回ログアウトして沙石の使い道を調べるか。」


 そういうと、ログアウトボタンを押す。

 一瞬の浮遊感ののち、黒狼はこの世界から去った。


*ー*


 一旦、例の仮装部屋を通った後生身の体で現実世界に帰還する。


「良いコラショっと。」


 VRCを外し、背筋を伸ばしながら運ばれたジュースを手に取り一気に煽った。

 喉越しは良い、程よい刺激とアルコールに類似したなんともいえない風味が喉を潤す。


「疲労感がすごいなぁ……、何にもしてないはずだがねぇ?」


 はぁ、と溜息を吐くとジュースを運んできたに空いたグラスを渡し近くに置いてあるデスクに向かった。

 ぶっちゃけ、こんな旧機に頼らずともVRC内部で調べればいいのだが物質的食事を継続的に行わないと胃が驚いて吐き戻してしまう。

 だからどうしたという話だが、健康に気を遣ってという欺瞞まみれの思考故にこうして物質的な食事は欠かせない。


「さて、起動起動っと。まずは……、銅の融点までは行かなくてもせめて変形するぐらいの温度は知りたいな。後は1000年代以前の加工技術か?」


 目の前に投影されたディスプレイを見ながら淡い暖色の明るい灯りが付いた部屋でキーボードを打つ。

 時間にして一瞬、検索用のタブに表記されたモノをスライドさせながら見ていくが……。


「あー、くっそ。創作系しかでやがらねぇ。wikiじゃ……、まぁ加工に使われた道具なんて出てこないよなぁ……。」


 歴史の解析までは出てはくるが、加工に用いられた道具までは出てこない。

 なにしろ現代の道具など下手な金属の硬さを凌ぎ、Siを主体としKやCaやNaを混合した上でH2OとCを一定の割合で入れたコンクリートに近いプラスチックの類似品。

 重さも決して重くなく、身の回りの道具はこれで作成される。

 旧時代の道具や機構など使ってすらいないのだ、故にようやってまとめ上げるサイトですら碌に情報が出てこない。

 大量絶命のタイミングで電子的情報源が大きくなくなったのも、古い施設に関する情報を失わせる一員となっているのだ。


 しかし黒狼にとってはその事実は不都合、高度な加工を行うわけでは無いにしろ最低1000℃まで出せる窯は欲しい。

 そう言うわけで、窯の作り方をメインで調べたところ……。


「ぽい物なら……、或いはって感じだな。問題は燃料と火種……、いや火種に関しては火打ち石と打ち金があったから直近は問題ないか。燃料は……、棍棒で代用可能か? 使えるか知らないけど。」


 雑に締めくくるとPC状のナニカのメモ機能を起動、やることを締めくくる。

 書いている内容は再度見ないだろう、だって黒狼の記憶力は決して低くないのだから。

 ただ書いたという行動に意味がある、書いたことを記憶しつつベットに潜り込んだ彼は。


「とりあえず寝て、朝からやり始めっか。」


 と言うと、12時を回った時計を確認し掛け布団を纏いながら眠りに付いた。

 凍りついている火星であっても、人間とはこんな風に生きている。

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