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ワールドクエスト

 黒騎士と出会って、数時間。

 拠点としている隠れ家を中心として地下マップをほぼほぼマッピングし終えた黒狼は、隠れ家の椅子に倒れ込んだ。


「つーかーれーたー。」


 何の気なしに始めた事だが、魔物の種類などの情報や狩りを行う時にどの道を使えばいいかを確認できたのは中々に有用な事だ。

 どうせ碌には使わないが、このような地道な行動も嫌いではない。

 いわばクラフトゲームでモンスタートラップを作って素材を余らせるようなもの、ぶっちゃけ無駄であり時間の無駄に等しい。

 だが楽しめればソレでいい、快楽主義者である黒狼はそんなふうに思いながらもふとした疑問を脳裏に浮かべる。


「しっかし、魔物の種類が少なくないか……?」


 呟くように疑問提起し、その理由を考えた。

 掲示板では軽く数百種類のモンスター情報が出ている、その上同種族であっても瑣末な差異があることも確認されているらしい。

 未だ20時間も経過していないというのにも関わらず、だ。

 そんな狭い範囲で多様な生態系を築いているにしては明らかにおかしな話がある、こんなにも狭くはあるが広い洞窟に存在しているモンスターの種類が精々20種もいかないこと。

 しかもその殆どは、途中からバッタリ消えていく。

 考えなくともわかる、あの黒い騎士が何か手を回しているはずだ。

  行けるところはある程度行ったにしてはレベルも低く碌な装備も持ってない、そんな自分があっさり倒せる程度の敵しか現れなかったと言うのは幾許か不思議な話。


「かと思えば、あの蜘蛛が居るしなぁ……。運営は何を考えてんだか……。」


 はぁ、と息を吐きステータスを開く。

 この空間は不気味だ、そもそも外に出られる道が一つしかないのも不安要素の一つ。

 高さ2メートル程度の大きな地下洞窟が広がっているなどど、まるで人為的な坑道にすら思えてしまう。

 しかしそう考えればまた別の疑問も浮かぶ、その疑問に納得のいく回答は間違っているという確信がある。

 結局結論は出ない、故に自分は名探偵でもなければ刑事でもないし解明者でもないと無理矢理言い聞かせた。


「お? 通知がきてる。なになに……、アイツからのメールか。フレンド申請も送られてるし……。とりあえず受諾はしといて……。」


 ささっと受諾のボタンを押し、適当な文字をメールで送る。

 1分も経たないうちに、何かのURLが送られ『ヤベェwww』と言う文言が付け足される。


「なんだコレ……? 公式サイトの動画か?」


 どうやら有名動画サイトに繋がっていたようで、そこから黒狼にとって未見の動画が流れる。

 未知、というか内容はNPCの中でも強いらしい奴らの動画だ。

 PVとしての出来はそこそこだろう、悪くはない。

 魔法や剣、槍や弓を用いて派手な戦闘行動を行なっているその姿。


「ほぇー、興味ねぇ。」


 しかし、その程度では彼の興味をそそらせることはできない。

 開始5秒ほどで動画のタブを消してささっと返信を送ると、通知欄のタブを消す。

 そして、欠伸をすると立ち上がり……。


「いい加減、初心者ミッション終わらすか。」


 呑気に、そしてハッキリと告げる。

 実は残る二つの内、スキル取得を終わらせる方法に関しては目処がついている。

 というか探索中にスキルを一つ取得したことから、行動経験でスキル取得は獲得できると判明している。

 故に本格的な問題となりうるのは、アイテムの獲得だろう。

 同一アイテムは計上されないらしく、この何もない空間で入手できるアイテムの数など高が知れている。

 半分ほど達成はしているが、自作アイテムを禁じられている以上相当厄介な状態になってしまっていた。


 とはいえ、深刻な問題ではない。

 スキルの取得と並行して探せば問題ないだろう、問題があるとすればやる気だろうか?

 その程度であれば問題となろうはずがない、恐らくはであるが。


「スキルの取得かぁ、とりあえず魔法出して遊んだらなんかゲット出来るか?」


 魔力操作とか魔力変化とか……、そう思いながらダークボールを出して手の中で遊び出す。

 しばらくすると、ゴムボールのように弾性を持たせることもや質量があるかのように重量を演出することが出来ると気付きさながら子供のように時間を忘れて遊んでいたら……。


 ピコン♪


 いつの間にか1時間程度経過しているとともに、その音が聞こえた。

 語るまでもない、スキル取得による通知だ。


「お、ゲッチュ。何々……、スキル名は魔力操作?」


 早速、ステータス経由でスキルの説明を閲覧する。

 とはいえ、大体の予想は付く。

 恐らくは名称そのままの代物だろう、その思考とともに現れた画面。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

魔力操作

 魔力に属性性質を付与する。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 予想通り、とでもいえばいいだろうか?

 いや、その本当の意味を知れれば予想以上ではあるだろう。

 だが、黒狼はソレを知らない。


「おー、なんか便利そうだな。」


 だからこそ、こんな反応でダークボールを弄んでいた。

 しかし、悪い効果ではないことは確実。

 普通に喜びながら、適当な壁にダークボールを投げつける。

 投げつけられたダークボールはあっさり破裂し、そのまま消失した。


「よーし、二つ目完了っと。取得条件が経験取得なのは確定したし次は何すっかなー。」


 うーむと悩みながら、そのまま筋トレでもしようかと地面に手を着く。

 骨の状態で筋トレなんぞ意味があるのかは、問うても仕方がない。

 意味があるのか無いのか、それは結果が決めること。


「さて、やるか。イチっ!! ニっ!!」


 そうすること約20分。

 骨の体故に疲労感は無いが精神的な怠さを抱えつつ100と数え切った瞬間に同様にピコン♪ と通知音が流れる。


筋力強化Ⅰ? 俺、スケルトンだけど獲得できたのか。」


 筋力? となりそうだが、最後に幽と入っているので通常のものでは無いのだろう。

 そういう風に納得すると、今度は少し外に出て地面に転がっている石を拾う。


「投擲スキルを狙うか。どうせ実装されてるんだろ?」


 誰に聞かれるまでもなく、空に消える問いかけを行い石を壁に投げつける。

 此方もおよそ100回。

 それだけの数を繰り返した途端、先ほど同様通知音が流れ己が投擲スキルを獲得した事を知らせる。


「予想通り、だな。さ、次だ次。」


 あっさりとした反応を残し作業的に残り7つのスキルを獲得しようと画策、時間にして2時間半ほどかけて終わらせた。

 獲得したスキルは以下の通り


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槍術

 アクティブスキル

 ・インパクト Lv.1


 効果 槍を持った時に行動微補正

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調合

 アクティブスキル

 ・混合 Lv.1

 ・分離 Lv.1


 効果 薬品系アイテムを扱う場合に微補正

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

棍術

 アクティブスキル

 ・強打 Lv.1


 効果 棍棒系アイテムを持った時行動微補正

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

言語ーーーーー語

 効果 ーーーーー語を読めるようになる(微補正)

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跳躍力増強Ⅰ

 効果 跳躍行動時、微補正

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腕力増強Ⅰ

 効果 腕力に対して微補正

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

視覚強化Ⅰ

 効果 視覚に対して微補正

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 数時間経過し、大抵のスキルを入手した黒狼は一息をつき地面に寝転がる。

 そして、天井を見つつ……。


「あー、疲れたー。」


 頭を天井に上げつつ、首を左右に揺らす。

 そして、顔面に落ちてきたプレゼントボックスを見据え開けるために手を伸ばした。


「また、スキルオーブかよ……。」


 アイテムを期待していた黒狼的には余り嬉しくは無いものだったが、貰い物に贅沢を言うのもまた違う。

 手に取るといつも通りスキルオーブは溶け消え静かに通知が鳴り響く。


 ピコン♪


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

インベントリ(0/100kg)

 効果 アイテムを入れることが出来る。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 流れるように確認した表示、ソレを確認した時黒狼は思わず飛び起きた。

 これは、こんなのは。


「大当たりじゃねぇか!! スキルオーブなんて言ってごめんなさいッ!!」


 大いに興奮して、そのまま様々なアイテムを適当に放り込む。

 今まで悩みに悩んでいたアイテム問題が一気に解決したのだ、興奮しない方がおかしい。


「いやぁ、ラッキー!! こんなの序盤で獲得できるとか神ゲーかよ!!」


 作業によって疲れた心が一気に全回復する、テンションが天元を突破する。

 目に炎が宿り、一気に活動的になった。

 やる気が爆発的に上昇し、もう一つのミッションで獲得したツルハシを手に取る。


「よっしゃ、祭りじゃ祭りじゃ!! 採掘祭りじゃァァァアアア!!!」


 テンションはマッハで天元突破、やる気は無限に向上中。

 槍を手に取り、探索で見つけた様々な採掘ポイントを巡る旅に黒狼は今出……、


「待て。」


 ドンガラガッシャーンドンデンドーン!!


 無かった。

 部屋を出てダッシュで走った先にいた黒騎士が足を引っ掛けて来たのだ。


「神からの言伝、最低限の任務は果たさねばならぬのでな。この短期間でスキルを10個手に入れたと言うのは……、まぁ認めて良いか。」


 そう言うとクエストクリアと、アナウンスが流れる。

 だが黒狼は目を半眼にしながら、思いっきり睨んだ。


「えぇ……。」

「ほれ、受け取るがいい。人の魂を持った魔物よ。」

「は、はぁ……。」


 生返事を返しつつ渡された幾つかの本と道具を受け取る。

 ソレより採掘したいという思いが強いのだ、早く退けと怨嗟を送りつつアイテムを見た。


「ああ、神からの言伝も受け取っていたな。ほれ、よく読んどけ。」


 そう言うと、また何も言わずに踵を翻す。

 渡すのは、ただの手紙のみ。

 あまりに気軽に動く様子に、呆気に取られたというのが本音だ。

 そのまま見逃しそうになり、だが一瞬で冷静になった黒狼は。


「ちょっと待て!! お前、何者なんだよ!!」

「……、さぁな。」


 投げかけた声は届かず、黒騎士はそのまま気配が消えた。

 影に溶けた、そう一瞬錯覚し見紛えたと奥歯を食いしばった瞬間。

 ガシャンと音を立てて黒騎士が足を止め、視線も向けず言葉を続ける。


「私の正体が知りたくば、私が守る先に行ってみよ。最も、それは私を倒さねばならんがな異邦の者よ。」

「へぇ、参考までに聞きたいけどレベルって今幾つなの?」

「何の指標にもならん数字を教えたところで意味はない、が絶望を伝える為にあえて言おう。私のレベルに等しいそれの数は128、おそらく今を生きる人類の中で比類し得ることが難しいほどのレベルを持っている。」


 それだけ言うと、今度こそ歩みを進める。

 止ることなどない、視線も意志も向けることなどない。


「12、8……。絶対最初にエンカウントしていいnpcじゃ無いだろ……。」


 若干の絶望感を孕ませ、そう言葉を続ける。

 間違いなく、戦いにならない。


「と、そういやアイツ……。神からの手紙とか言って渡したやつがあったな。」


 記憶を反芻し、手紙を開く。

 すると、アナウンスが鳴り響いた。



ーーーワールドクエストが発生しましたーーー


ーーーこのクエストは秘匿されますーーー


ーーーワールドクエスト名『ーーーー』……、開示要請が受理されませんでしたーーー


ーーークエスト内容が秘匿されましたーーー


ーーークエスト詳細情報が秘匿されましたーーー


ーーーこのクエストを取りやめることは出来ませんーーー


ーーーこのクエスト達成時には多大な報酬が贈られますーーー


ーーーこのクエスト失敗時には失敗報酬が送られますーーー


ーーーこのクエストを行うことによるデメリットはありませんーーー



 アナウンスの嵐、計9つのアナウンスはまるでようやく黒狼の物語が始まり出したかのような言い方をしている。

 いや、実際に始まったのだ。

 今、この瞬間に。


「ワールドクエスト……、だと?」


 驚愕と動悸、動悸とともに瞳孔が開き。

 慌てて開いた、黒騎士からもたらされた手紙をみる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 拝啓、黒狼様へ。

 まず最初に異邦の貴方が種族として闇に属する者であったことを祝福しましょう。

 そして、遅まきながら私の自己紹介を。

 私は、『月より闇と魔を司る純潔の神』の【Ἄρτεμις】です。

 そして、邪神として封じられています。

 貴方にお願いしたいのは私をその幽閉から解き放つこと。

 協力してくれるので有れば黒い鎧を着ている彼に尋ねてください。

 きっと有益なコトを教えてくれるでしょう。


 それとは別に、か弱き貴方がこの世界に生まれた事を祝してささやかなプレゼントを贈ります。

 貴方の異なる人生に祝福あらん事を……。


 神が言ってしまってはダメでしょうけどね……。

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「ナニコレ?」


 物語が始まった、そんな確信を抱いたはいいもののだ。

 なんか重大そうな事を託された当の本人は間抜けな声を上げ、首を捻っていた。


「さっきのアナウンス的にストーリー的な奴なのか? やる気でねぇ。」


 しかも、やる気もないらしい。

 こんなやつに重大なクエストを託して、本当に良かったのだろうか?


「しかも、統一語とも旧英語とも違う文字使われてるしなんだよコレ。名前教えるとか言って何も教えてねぇじゃん。」


 文句をタラタラと立てながらも、図太く渡された道具をインベントリに放り込む。

 貰い物は従前に活用するつもりのようだ、本当に図々しい。


「やらなくてもいいって書いてたし、気にせず採掘するか!!」


 そう言ってスキップしながら、そのままに黒狼は採掘ポイントへ向かう。

 本人の愚かな行動、その代償を知るのは遥か先だ。

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