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マジック

 洞窟から遺跡へと変化しゆく道なき道を歩み、最終的に一つの扉の前にたどり着く。

 いや、まるで誘導されたかのようにモンスターに追いやられたとでも言い換えるべきかも知れない。

 先へ進めば進むほど、歩けば歩くほど闇は深くなりモンスターは強くなった。

 そんな強くなったゴブリン数体、彼らから逃げた先にあったこの扉。


「……、運営って俺のことを監視しているのか?」


 ただの自惚である、だがそう思うのも無理はない。

 実際は、モンスター系統を選んだプレイヤーにはそれ以外のプレイヤーよりレアだったり有用なアイテムがチュートリアルミッションで配布されるだけである。

 そう、例えばなど。

 まぁ、結局そういうアイテムも担当の女神AIが配置しているだけだが。


「とりあえず鍵を開けて……、見るまでも無いか。」


 鍵を持ち、挿そうと思うまでもなく触れただけでガチャリと大きな音を立てて自然と開く。

 何がどうなってるか、一切わからないがとりあえず鍵は開いた。

 扉に手をかけ、ゆっくりと押す。


「……、お邪魔しまーす。」


 黒狼的にはもう少し、謎解きやフィールドワークを楽しみたい所だがゲーム的にはそれは許してくれない様で予想の10倍近く手厚い対応を行われている。

 そんな錯覚を覚えつつ、中を覗くと


「しかも、中は埃だらけとかどうなんだよ。」


 埃まみれの様子を見て呆れ、だがその中でも唯一誇りがない場所が存在していた。

 本棚、重厚な装飾が施された革の書籍。

 ソレが所狭しと並んでいた、そう一切の埃を被らず。


「魔法的な何かなんだろうけど、あそこまで埃がかかってないのはどうなんだよ? おいおい、現実味がなさすぎるぞ?」


 異様に綺麗な本棚に収められている本をいくつか鑑定し、またもほとんど内容が表示されないのを見て溜息を吐く。

 そして最も近くにあったモノを手に取り、パラパラと中身を見た。

 内容に関しては解読不可能な文字で綴られており、理解するのには相応のスキルか多量の時間を要求されるのは間違いない。

 再度、呆れつつ本を本棚に戻す。

 他の本を幾つか手に取るが、その鑑定結果も中身も碌に理解出来ないという答えに変化なし。


「クソゲーかな? クソゲーだよ、クソゲーだったよコンチクショウ!! そもそも日光で即死する種族がある時点でクソゲーでしかねぇよ!!」


 誰に問いかけるまでもなく、虚空にその問いかけツッコんで近くにあった埃だらけの椅子に座る。

 何も考えずに、天井を眺めること数秒。

 何かを決心した様に立ち上がると、こう叫ぶ。


「とりあえず掃除するか。」


 そういうと、溜まった埃を箱鞄を使って扉の外へと押し出す。

 掃除し始めて約5分、近くのロッカーに入っていた箒を発見しキレながら約10分後。

 5畳程度の部屋は、ソレはもうすっかり綺麗になった。


「最初から箒を探せばよかった……。」


 若干の後悔の念に駆られながら、綺麗になった部屋を一瞥する。

 石レンガで作られた部屋は無骨ながら、中にある様々なアイテムは錬金術や魔術を学ぶには十分すぎるモノだ。

 最も学ぶ方法など教えられる事はないわけだから、全部独学になるのは間違いないが。


「とりあえずスキルを発動できるか試して……、ほう?」


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魔法

 呪文

 ・ダークボール 消費魔力:10

  鑑定結果:効果

   闇属性の球を発生させる。

 ・ライトボール 消費魔力:10

  鑑定結果:効果

   光属性の球を発生させる。

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「なんとも、まぁ。ありきたりだな。」


 魔法を発動させようと思考した時に開かれたタブを見てそう呟く。

 書かれた呪文は二つのみ。

 どちらも、効果に対する詳細な内容は表記されておらず知りたいのならば自力で探せというスタンスの様だ。


「とりあえず、【ダークボール】」


 ありきたりな呪文を唱え、手のひらの上に現れる様に意識しながらそう唱えると立派な黒い球が手の上に現れる。

 なんの変哲もない球であり、唯の黒い球だ。


「おら、よっと。」


 とりあえず質量を感じさせない球を壁に投げてみると、壁に当たった時に弾けそのまま消失した。

 え? というように固まり、そして口を開く。


「え、これだけ?」


 マジマジと球が炸裂した場所を眺めるがなんの変化もなく、さっきの黒い球はまるで無かったかのような有様だ。

 だが、ステータスを開き、魔力の欄を見ていると10減っているのが伺え自分が魔法を発動させたのが現実である証明となっている。


「じゃ、ライトボールもいけるな。【ライトボール】」


 呪文を唱え掌の上にライトボールを出した瞬間謎のダメージが発生、開いていたステータスの耐久値表記が一瞬で0となり体がポリゴン片に変化する。

 徐々に変化する体、冷徹な思考は焦りと共に無駄に慌てて。


「マジかッ!?」


 回避手段を講じようと画策するも次の瞬間には、死亡判定が発生していた。

 いつの間にか白い空間に飛んでいる、周囲を見て息を吐きながら口を開けたり閉じたり。


「……、マジかぁ……。」


 白い待機空間で、やけっぱちにそう呟く。

 嘘だろう、という思いと何故そうなったのかの理由はおおよそ理解した。

 理解しているからこそ、言葉が出ない。


「まさか、光耐性反転がここまで厄介とは……。自分の魔法でも容赦無しにダメージ入んのかよ。しかもあの減り方を見る限り完全にオーバーキルだろ。」


 グチグチ文句を言いつつ、リスポーン耐久時間が過ぎるのを待つ。

 先程よりも長く感じる時間、欠伸を噛み殺しぼーっとすることほんの少し。

 ポップアップしたステータス画面を叩きリスポーンを行う。


「おっ。」


 リスポーンした場所は先程までいた洞窟。

 偶々、ここに来たのかもしくは何らかの意図が働いているのか。

 どちらにせよ、幸運と思いつつ先程置いて行った素材をかき集めつつ持っていく。


「これで全部……、採掘ポイントが復活している? 大体10分ぐらいで復活するのか?」


 多少の驚きを含ませながら、最初と同様に素材を剥ぎ取っていく。

 最初よりレア度の高いモノは取れず、見た目も非常に悪い物がチラホラありあまり品質は良くなさそうだ。

 黒狼もそう思ったのか、一応全部取ったものの果たして復活したら直ぐに取っていいのかと頭を悩ませる。


「……、そこら辺は検証班がwiki作成してくれるだろ。」


 他力本願ここに極まれり。

 まぁ、1プレイヤーとしてはその行動は悪いわけでもない。

 と言うか、すべて1人でやろうとする方が余程異質である。


 とりあえず、新規で得られた素材を抱えウッキウキで扉まで向かう。

 死んだ時に偶々扉を開いていたため一抹の不安も消え、扉の中に入った。

 中には骨が一本落ちている、それを見て黒狼は顔を傾ける。

 どうやらこのゲームでは死ねば自分の装備していたものの一部か、自分自身が落ちるらしい。


「あ、そうだ。」


 ついでとばかりに、自分の死んでいたところに落ちていた骨に鑑定をかける。

 どんな鑑定結果が出るのか興味がある、そんなワクワクした顔で感知結果を覗く黒狼。


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鑑定結果:骨の骸

 ・スケルトン族の骨。闇属性との親和性が高く光属性と反発する。

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 最も、現れた情報は分かりきった物であり知識の再確認が正しいだろう。

 ただ、素材に属性相性が存在するという事を知れたのは有用である。

 また素材同士の相性などもあるのだろうかと思いを馳せた、仮にでも錬金術を入手しているのだ。

 そういうことに気を遣いながら、史上最強装備を作るのも面白いかもしれない。


「と、いっけね。」


 思いを馳せるのはいいが、手が止まるのはいただけない。

 手を動かしながら取得したアイテムを掃除された部屋に並べていく。

 元々整理整頓されていた部屋であり、物を置くときも場所が決められていたこともあってある程度適当においても乱雑な印象はない。

 それどころか、非常に良く整理された部屋のように思えてしまう。


「こんなもんでいいかな?」


 頑張ったと汗をかくはずもない額を拭い、椅子に座る。

 そして、ため息を吐くとボケーとしながら全身の力を抜き呟く。


「何しようか……。」


 魔法を扱おうにも光魔法は即死し、闇魔法を使えば2回で魔力切れする状況下では碌な練習にはならないだろう。

 他のスキルも詳細を把握している訳ではない。

 いや、それどころか字面だけを見て選んだというのが正解だ。

 そんな中ならば、何をしようか迷うのも当然と言えるだろう。


「どうせだし、錬金術でもやってみるか。」


 無駄に素材だけは集まっているのだ。

 さわりでもやって見るのも悪くないだろう。


 そんな安易な思考をもとに、錬金術のスキルを発動させ専用のタブを開く。

 中には、数百のレシピが書かれており早速心を折りに来ているのが良くわかる。


「検索機能あるよな? あるな。よし、それなら問題ない。」


 何が問題ないのか知らないがプレイに問題無いらしく慣れた手付きで適応にポチポチ触っていく。

 自分が今持っている素材で何が作れるのか、軽ーく調べてみたところ……。


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レシピ

作成可能アイテム:洞窟蜘蛛の槍

 概要

  洞窟蜘蛛の脚を加工しゴブリンの棍棒と合成させた物。


 使用するアイテム

  洞窟蜘蛛の脚 1

  ゴブリンの棍棒 1

  ヒナゴケ 5


 ステータス

  攻撃力:10

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「武器、か。」


 少し意外そうに呟き、レシピを読み込む。

 正直、ゴブリンの棍棒ではその能力に不安があったのが事実。

 武器として完成してくれれば行幸といった感じではある……、が。


「失敗したら壊れるのかぁ……。うん、辞めだ辞め。武器無しでもまだ何とかなるだろうけどなぁ……。」


 武器が無かったらあまり上手く立ち回れない。

 と言うか、この扉周辺では二、三体まとめて出てくる事もあるのだ。

 まだ問題無いが武器が無く処理速度が落ちて、キルされて仕舞えば唯の笑い種だ。


「とりあえず、棍棒集めるためにもゴブリンを狩るか。」


 やるべき事と、目標が出来たのならばやるだけだ。

 そう言う訳でいくつかのアイテムを手に取り黒狼は洞窟へ戻っていった。

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