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人工物

 洞窟の奥へと進むこと数秒、当然のように配置されているゴブリンをさっくり倒すと現れたドロップ品を拾う。

 とはいえ、鑑定するまでもなく見れば分かる通りの棍棒が落ちている。

 多少の経験値になるか? と言う願いとも取れぬ思考と共に鑑定を行った。

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鑑定結果:棍棒

 耐久値:10/20

 ・装備品 非常に質の悪い棍棒。

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 鑑定結果、そこに何の不思議もない。

 だがそれはそれとして、これは武器だ。

「ほえー、コレで処理も楽になるな。しかし、撲殺って案外殺意が高くないか?」

 武器を手に取り、そのように呟きながら装備することを意識。

 途端に、そして唐突にファンファーレが鳴り響いた。

 唐突さゆえに少しは驚いたが、理由は明々白々。

 分かり切った事であったのに驚くのは馬鹿馬鹿しいと自分で自重しつつ、鳴り響くファンファーレと現れるテキスト及びボックスを適当に眺めた。

 特に変なことはない、精々が現れたアイテムの違いだろう。

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鑑定結果:スキルオーブ(地図)

 ・スキル 自身の活動した場所をマッピング可能

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 辺なことはない、だがソレはそうとして面白い物が現れた。

 人生とは分岐路の連続、迷いなくして人生なし。

 だが迷いとは寄り道であり、寄り道は無駄である。

 その無駄を省くのは地図であり、自分の道筋を照らすものもまた同じく地図である。

「さっき以上に面白そうなものが来たな……、こりゃ。」

 ゆえにこそ、そんな感想を抱く。

 スキルオーブというレアそうなアイテムが現れたこと、そして有用そうな地図スキルに関心を向けつつなんの気無しに触るとアナウンスと共に地図スキルを獲得したことを告げられた。

 脱力、共に溜め息を吐く。

「……、コレじゃ達成感もクソも無いな。」

 ただ与えられた物を得た結果のファンファーレなど、達成感も感動もクソも無い。

 当然の話である、だからこその脱力ではあるが。

 ゲームという無駄、そこに求めるのは苦労であり達成感。

 形作られた虚飾の努力、だが努力したという過程があるからこそ楽しめる話でもある。

 こんな形で与えられるだけなど、退屈極まる話。

「はぁ……、先に進むか。」

 軽くため息を吐き、再度進む。

 種族スキルである暗視のお陰で暗闇は問題にならず、襲い掛かってくるモンスターも大した強さでは無い。

 新たに現れたモンスターを、棍棒で二、三発シバけばあっという間にポリゴン片と化す。

 時には簡単に殺せない対象もいるが……、そこは只管に動きながら叩けばいい。

 失敗はない、そんな簡単に死ぬほど弱くはない。

 ヤケに極彩で彩られた世界を歩く、その姿は正しく深淵ウォーカー・オ歩きブ・ジ・アビス

 骨だけの癖に、風格は非常に素晴らしい。

「弱えェ……、ただ頻度はいい。退屈しない程度に来るのは好きだぜ?」

 別に強い敵を望んでいたわけでは無いが、簡単に倒せると言うのもまたどうかと言う物。

 最初の緊張感は2分程で消え、ここから何をしようかと言う思考で脳が埋め尽くされる。

 だが同時に、その思考の端で靄が掛かっている様にも思えた。

 当然のことに気づいていない? 五感が鈍っている。

「錬金術も試し……、お?」

 洞窟の中に白骨の骸を見つけたのはそんな時だった。

 一瞬、体が硬直しそして軽く睨む。

 次に鑑定を行い、ソレの正体に首を捻る。

「なんだコレ?」

 鑑定結果は簡単にも、白骨の一つのみ。

 正体につながりそうな情報は周囲の布切れしかなく、その他は全て消えて……、いや全て消えている。

 風化しているのだろう、一体何年ここに存在していたのか。

「コレは……、杖か? 全く、これだけ意味深に残っているなんてなァ?」

 大きな宝石が嵌まった杖を手に取り、鑑定をかける。

 いや、鑑定を行おうとし体が硬直した。

 なんだ? 何の違和感がある?

 虚の眼孔、虚飾の現、不破なき死骸。

 残留思念? いいや、そんな半端な物ではない。

「気色悪いが、俺好みだよ。」

 口角が上がり、テンションが上昇する。

 厨二病? 大いに結構、楽しませるのなら何でもいい。

 黒狼は雑食なのだ、こと面白いと感じる事柄に関しては。

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鑑定結果:宝杖

 ・深淵に向おうとした魔術師が作り上げた杖。いくつかのスキルが付与されている。

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 ピコン♪

 鑑定を行った瞬間、謎の通知音が鳴りプレゼントBOXが現れる。

 どうやら、経験が積まれたようだ。

「ん? あ、スキルのレベルアップ通知か!!」

 コレはコレはと、喜びつつ先にスキルレベルアップの通知を確認していく。

 経験が認められるのは嬉しいものだ、敬虔な信徒のように神に祈りたくもなる。

 いや、祈る気はないが。

 神は賽を投げやしない、神は全てを知った気になり全てを台無しにする。

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通知:初レベルアップ

 プレイヤー『黒狼』がスキルレベルアップを達成したことを祝します。

 称号『技能の経験を得た者』を配布します。

 以降同様の通知は届きません。

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鑑定結果:鑑定 Lv.2

 ・鑑定対象の情報がやや詳細に分かる。

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 結果の観測、だがその内容は芳しくない。

 考えなくとも、いや思考を巡らせずとも分かる程度の情報。

 これは失敗だったか? そんなふうな思いは口にも出てくる。

「……、微妙? 概要だけなのがより詳細……、データでも出してくれるのか?」

 そう思い、骨を鑑定してみても先程と記されていることは変化なし。

 他のアイテムも同様に、しかし結果に大差はない。

 期待の大きさ、ゆえの失望感は否めないだろう。

「現状では効果を実感できないな……。」

 多少はガッカリしながら、しかしこのように安易にレベルアップできたことから成長しても効果も薄いと思い直し今度はプレゼントBOXを出すためステータスを開く。

 今度こそ面白いものが入っているといい。

 そんな願いを思いつつ、現れたボックスを開く。

「さて……、今度は何が入っているんだ?」

 さっきからいいアイテムが出ているこの現状で悪いアイテムが出るはずないと確信し、黒狼はかなり期待しながら開けてみた。

 蓋が開く、中からアイテムが飛び出し即座に鑑定を用いる。

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鑑定結果:⬛︎⬛︎鍵

 ・⬛︎⬛︎鍵であり⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎の先に存在する⬛︎⬛︎に入るのに必須アイテム。

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 その鑑定結果、ソレを確認した時に黒狼は溜息を吐く。

 同時に出てくる言葉、怒りを呆れと困惑を含んだソレ。

「はぁ?」

 一部虫食いとなっている鑑定結果に、レベルアップで何が進化したのか疑いつつその効果にも疑問を呈する。

 どこかを開ける、または入るのに必要なのは鍵である限り必然的なものであり態々鑑定結果として表記する理由がない。

 となれば、答えは一つ。

「まさか、コレ……。ゴミスキルか?」

 そう結論付ける。

 実際問題、〇〇のスキルが使えるなどの表記以外は基本的に見た目そのままの内容を書いているだけのスキルでありそこまで有能と思えるような事もない。

「枠一つ無駄にしたかなぁ……。」

 ネタスキルを取っている時点で今更感があるが、それはそれ。

 と言うかネタプレイを行なっている以上、無駄を許容すれば下手をすれば地獄を見ることになる。

 無駄になっていないことを願いつつ、黒狼は思考のリセットを行った。

「ま、いっか。」

 現実的な思考をゲームにまで引っ張るのは息を詰まらせる、無駄を許容すれば地獄を見るとは言ってもこの現状こそ地獄そのもの。

 失敗したかどうかは今ではなく、結果が決めることである。

 その結果が出るまでに無駄と省き余分と切り捨て後に化けることが発覚した場合どうしようもなくなるのは目に見えている。

 まぁ、その結果はいつ出るのか不明だが。

 そんなふうに考えつつ頭の中の優先順位を一つ下げ、洞窟の奥へと目を走らせる。

 ギギッ。

 丁度、視線の先にモンスターがいる。

 またゴブリンか、そう思い棍棒を握り直し。

 そして、その奥から現れたスライムに驚いた。

「へぇ。」

 ラインナップが多少変化したところで行動は変化しない。

 一発目でゴブリンを殴りつけ、二発目にゴブリンに手を差し込み腑をひっぱり出す。

 それでポリゴン片となるゴブリンを視界に入れながら逃げようとしているスライムに棍棒を投げ飛ばした。

 ーーーッ!?

 声に出ない悲鳴をあげるスライムはギリギリで棍棒を避けるが、次に襲ってきた蹴りは避けられない。

 サッカーボールのように蹴り飛ばされたスライムは天井に激突し破裂する。

「討伐、完了っと。やっぱしあんまり強くはねぇな。」

 はぁ、と息を吐く。

 戦闘をしたいからとゲームを始めたわけでは無いがある程度は楽しみたい。

 矛盾しているようで矛盾していないその欲求を持て余しつつ、何年かぶりの……ゲーム内とは言え……本格的な運動でも案外動けていることを好ましく思う。

「いや、俺が強すぎるのかもしんねぇ……、なんてな。」

 冗談混じりに呟き、ただの自己満足を否定するとスライムから落ちた小石を拾う。

 自己満足など、ただのエゴ。

 エゴエゴするのは、周りに人間がいる時でいい。

「鑑定結果もただの石……、か。普通のゲームなら魔石とかが定番なんだがな。」

 首を傾げつつ、こんな事があるのか? と10秒弱悩む。

 そして、近くに落ちている同じ大きさぐらいの石と見比べてみると……。

「少し……、周囲に透明な何かが……、いや透明度が高い……、か?」

 薄らと色が薄いような気がすると言う結論を出す。

 暗視の効果で暗いところであろうが真昼のようにはっきり見える。

 つまり、黒狼の見間違いという一つの問題を除けばほぼ確実にこの石はただの石では無いのだ。

 だが、取っておくにしてはあまりにもどうでもいい要素ではある。

「とりあえず、分かるところに置いておくか。」

 そういうと、壁肌が飛び出しているところにポンとおく。

 正直、ー重要な要素でもないだろうものにあんまり時間は掛けたくないのも事実といえば事実。

 一応、頭に留めておくだけにしてサクッと洞窟の奥へと進む。

 ーーー進む事、約10分ーーー

「なんか、人工的な作りだな……。」

 何体もゴブリンを叩き、スライムを蹴り飛ばしながら進んだ先にあったのは何の変哲もないただの洞窟だった。

 唯一の相違点は、その道にある程度明るくなければ分からないであろうと思われる程度の誤差。

 つまりは、人工的な要素が洞窟にちらほらと窺える事だ。

 最も、黒狼はそのような物を発見して言ったわけではない。

 もっとわかりやすくある物、簡単に言えばさっきまで歩んでいた洞窟と一線を画す程に歩きやすい道を見て言ったのだ。

 暗ければもう少しは分かりにくかっただろうが生憎と、彼は暗視持ち。

 そのような、ハンデは持ち得ない。

 進展があることに顔を喜ばせながら、歩みを進め始めた。

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