「どうしてこうなったぁぁぁぁぁあああああ!?」
洞窟の奥でスポーンした一体の
どうして、こうなったか。
その答えは、最初のチュートリアルを見れば
*ー*
急いで帰って来た彼は、急いでベッド横で充電しているVRC(Virtual Reality Connection)を頭にかぶりながら専用のイスに座り込む。
10秒も待てば、慣れ親しんだ奇妙な感覚と共に真狼は電脳の仮想世界の中に。
その中でも、真狼が割と凝って作成した待機ルームに到着した。
「あと、1分ッ!? あぶねっ!! もうすぐで間に合わなくなるところだった……。」
別に、多少遅れても誤差でしかない時間。
だがソレでも、間に合ったことに安心し胸を撫で下ろす。
そのまま目の前の待機画面を見る、あと一分で届くはずであるゲームの待機画面を。
気が遠くなるほど、少なくとも黒狼が感じたその1分。
タイマーの数字が動き、待ちに臨んだ時が訪れた瞬間に空中へ新たなパッケージが現れる。
タイトルは分かっての通り、『Deviance World Online』だ。
友人からβ版の体験を聞き、即座に自分もやると決めたゲーム。
大絶賛されたからこそ、それへの期待感は何よりも重く。
今までにないほどの緊張感、背筋を這う緊張に比例する高揚感に身を包ませながらパッケージを手に取りロードをする。
何の抵抗もなくロードされたパッケージは、一瞬の間を置き空間を書き換えた。
それは、まさに真狼が待ちに望んだ瞬間。
あらゆる幸福感が全身を駆け巡り、肌に顔に体に鳥肌という形で浮かび上がる。
一瞬の暗転とともに、いよいよ覚醒した視界がとらえたのは
その下に佇む1人の
周囲は
あまりの物珍しさと共に隠し切れない興奮を伴って呆けた思考は、だが無数の小説を読み鍛え上げられた頭脳が言葉を出そうと動き始める。
だがそれより尚早く、管理NPCが言葉を告げた。
「『Deviance World Online』へようこそ!! 我らが世界において異邦となる旅人よ。」
透き通る様な、では表現できない。
それはまるで、春先に仄かな暖かさを持って降る雪の様な声に微かな緊張を持って答える。
女神の美声、蠱惑の魔性。
言葉では表現できない、絶対的な情報量に少年は圧倒されてしまう。
「えっと、よろしく……?」
言葉が出ない。
他者と話すことに不慣れという訳では無いが、絶世の美女が目の前に立っているというあまりに不可解な現実に脳は処理し切れ無い。
故に真狼は多少しどろもどろになりながらも、ありきたりな返答を返す。
「はい、よろしくお願いします。」
そんな緊張している様子がありありと窺える真狼に対して微笑み、優しく返答を返す様はまさに女神と言うに相応しい。
何も言われていない、だが黒狼は自然と彼女を女神と錯覚した。
息を飲み込んでしまう、時間すら忘れそうな中。
「では、早速キャラメイクをしましょうか。」
しかし、そんな夢見心地はその一言を聞いただけで砕け散る。
あまりに人間離れした美しさから人間性を見出していたが故に、人間でないという事実がはっきりと浮き出た事が認識を明確に浮き彫りにした。
幾ら人間と等しい人間性を持とうが、所詮はAI。
人間にはない……、いやこの場合は
そう思ってしまえばどれほど眉目秀麗、深窓の令嬢如く麗しい見た目をしていようと興奮は冷めてしまうモノ。
中にはそれすら受け入れる剛の者もいるが生憎と、真狼にはそれほどの異常性も無ければ好き者でもない。
何を目的としてコレを始めたかを再認識し、未だ微笑み掛ける女神にやる事を聞く。
「ああ、まずは名前か?」
高圧的で無いにしろ、相手をただのコンピュータと認識したが故の合理性を持った声色で聞く。
正直、ただのコンピュータには興味はない。
そんなことより、早くゲームをやらせろと深層心理がそう叫ぶ。
「はい、どの様なお名前が宜しいでしょうか?」
高圧的な質問に答える様に、真狼の前に名前の入力欄が現れた。
いつも通り、良く自分が使用するユーザーネームである【
己が名前に含まれる文字、それを雑に繋ぎ合わせただけだがシンプルが故に使いやすいと言えるだろう。
「そのお名前で宜しいでしょうか?」
決定ボタンを押すと目の前のAIが反応した。
ああ、と頷くと別画面が開きそこの名前という欄に【
「では、黒狼様。次は種族をお決め下さい。」
「種族? 人間以外もあるのか?」
「はい、ヒト族以外にもエルフ族、ドワーフ族、ビースト族、デミヒューマン族、アンデッド族、アンヒューマン族が御座います。」
次々と告げられる言葉と共に、黒狼の周りにそれぞれの種族の姿が現れた。
視線を向けるとそれぞれの長所や短所が書かれたタブが現れ、その中でも一般的に人外と呼ばれるデミヒューマン族、アンデッド族、アンヒューマン族に興味が向けられる。
「一つ聞きたいんだけど、この中で一番プレイ人口が少ないのはどの種族?」
「……はい。今の所具体的な人数は言えませんがアンデッド族が最も少ないですね。」
その言葉を聞き、どうせやるならば奇をてらったプレイをしたいと思っていた黒狼はアンデッド族に即決した。
ナンバーワンよりオンリーワン、人としての安直且つ簡単なプレイより人外と言う一癖も二癖もありそうなプレイの方が彼の好奇心を強く揺さぶる事となったわけだ。
「本当によろしいのですか? アンデッド族にはデメリットがございますよ?」
「大丈夫だ、問題ない。」
フラグの様なセリフと共にYesとボタンを押す。
すると、見本の様に現れていた様々な種族の姿が消え一目見てアンデッドだと分かる様な種族が大量に現れる。
「どれがよろしいでしょうか?」
アンデッド族……、不死者に類するモノはキワモノのキワモノであるが故に最初の選択の段階から10個程の選択肢が示されている。
どれらも一長一短、ピーキーな性能を発揮すること間違いなしの説明が書かれている。
それぞれの説明を読み込み、じっくり思案する黒狼だがその思考は管理AIこと女神の声によって遮られた。
「お悩みの様であれば、お先にスキルを決めてしまいますか?」
「そんなことできるんですか!?」
即座に食いつく黒狼。
現状、袋小路に迷い込んでいるのは黒狼なのだ。
ならば、打開策として挙げられた提案に乗るのも吝かではない。
「では種族は一旦保留としまして、此方がスキル一覧です。」
そう説明すると同時に、新たな画面が現れて大凡1000個のスキルが表示される。
「この中からお好きなモノを10個お選びください。」
「10個……、か。」
オウム返しの様に呟き、スクロールをしながらスキルを選んでゆく。
全て初級というべきか、初心者用なのは間違い無いのでゲーム内でも比較的簡単に取れるであろうモノしかない。
ならば、その中でも取得の難しそうな魔力系統や錬金術系統を優先して確保するべきだろう。
そうすれば、自ずと自分の向かう方向性が見えた様な気がし始め最終的に黒狼はアンデッド族のスケルトンにすると決定した。
そこからは取得したスキルの効果を確認しつつ、自分に最終確認を行う。
本当にコレでいいのか? と。
「ま、ダメかどうかは未来の俺が決めるだろ。」
ウジウジ悩んでても仕方ない、ゲームとは所詮その場その場の自由で構成される。
結局はゲーム、現実ではない。
なら、やりたい様にやれば良い。
その行動の結果は、未来の誰かが評価するだろうから。
そう結論付けて、ポップアップされていた画面に映る決定ボタンをポンポン通してゆく。
あれだけ悩んでいたモノも一度決めて仕舞えば一瞬で決まっていってしまう。
「よし、こんなところか。」
そうして完成したステータスはこんな感じとなった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
*ステータス*
名前:
性別:男
種族:アンデッド族 (スケルトン)
生命力:ー(なし)
耐久力:10 *種族特性です
魔力:20
スキル
魔力視 Lv.10 *種族特性です
状態異常無効 Lv.ー(上限) *種族特性です
錬金術 Lv.1
調合 Lv.1
闇魔法 Lv.1
光魔法 Lv.1
魔力操作 Lv.1
魔力活性 Lv.1
解体 Lv.1
鑑定 Lv.1
暴走 Lv.1
棒術 Lv.1
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
一部ヤバそうなスキルが見え隠れするが基本的には後衛型魔術師と言ったスキルの割り振りだろう。
と言うより、それ以上に言うべき言葉がない。
「準備はできましたか?」
「あ、はい。できました。」
そう答えると、女神の背後に空間が開く。
「では、旅立ちなさい。異邦より訪れた旅人よ。その道に幸あらん事を。」
その言葉に嬉しく思いながら、空間を潜る。
その先は燦々たる日光に照らされた穏やかな平原で……。
「ん? 日光……?」
次の瞬間、キルログが流れリスポーンまでの時間が表示される。
幸いにも、10秒で済んだリスポーンまでの時間。
死んだ理由は考察するまでも無い。
何度か、リスポーンを繰り返して最終的に洞窟に辿り着き黒狼はこう叫ぶ。
「どうしてこうなったぁぁぁぁぁあああああ!?」