多勢無勢で勝てる気満々だったのか、考えもなしに突っ込んでくる兵士たちを、一瞬にして全滅させた。
弱すぎるとため息を吐きながら、倒れる部下たちに文句を垂れる隊長らしきオッサンに近づく。
「このっ! 化け物めっ!」
剣が振り下ろされるが、片手で受け止めて、真っ二つに折る。
「ひぃいいい! 俺の愛剣がぁ!」
泣き喚く、隊長の顔面を鷲掴みにして、低い声で言う。
「言っとくけど先に剣を突き出したのはお前らの方だからな? こっちは正当防衛をしただけで、戦うつもりは初めからなかったんだよ……なあ? 分かるか?」
「はっ……はっ……い」
「人を傷つける奴らも嫌いだが、それより嫌いなのは俺の大切にしている人を傷つけようとする連中だ。俺の後ろにいる子に傷を負わせるようなら、殺すからな?」
怖い顔で脅すと、隊長は地面に倒れた。
下半身が濡れている、気絶からの失禁とかダサすぎる。
服のホコリを払いながら、申し訳ない顔でカリーナを見る。
「ごめん……こんなことになっちゃって」
彼女に知られてしまった。
王国に狙われるほどの危険人物であることを。
「俺は……」
カリーナを危険にさらしてしまうかもしれない。
もう、一緒に居られない。
「闇魔法使いなんだ。使っちゃいけない魔法を使って、大勢の人を傷つけてきた。これは、その償いをするための旅なんだ。だけど……やっぱり罪からは逃げられないらしい」
「ラインベルさん……」
「俺と一緒にいない方がいい。君まで巻き込んでしまうかもしれない」
この町には孤児院がある。
カリーナはまだ子供だ、事情を離せば受け入れてくれるはずだ。
だから、ここで別れるのが正しい選択なんだ。
「いやだ! 嫌だ嫌だ!!」
カリーナは泣きながら抱きついてきた。
華奢な女の子とは思えないほど、力強くだ。
「ラインベルさんがどんな人だって関係ないよ! いい人だって、悪い人だって、どっちでもいい! 記憶を失った私に優しくしてくれた! 名前をつけてくれた! 寂しかったけど嬉しかった! だから私を置いて行かないで! 一人にしないで! うわあああああああん!!」
一人……そうなんだ。
カリーナも孤独なんだ、俺と同じで。
記憶のない彼女にとって、あの日が始まりなんだ。
生まれたばかりのヒヨコのように、初めに目に映った俺を、親のように思っているんだ。
「カリーナ……ごめん」
「どんなひどい目に遭っても、私がラインベルさんを守る! それぐらい強くなる! だから……ずっと、ずっと私と一緒にいてください!」
涙目で、懇願するカリーナの頭に手を置いて、優しく撫でた。
彼女だけだ、俺の正体を分かっても傍にいてくれようとする人間は。
「俺も……君と……」
溜め込んでいた感情を抑えきれず、吐き出す。
「一緒にいたい」
この世界に転生して、ずっと孤独だった。
この肉体の持ち主ラインベルの罪を、なんで俺が償わなければいけないのか、何度そうやって彼を憎んできた。
だけど、ようやく報われたような気がした。
本音を言うことができた。
騒動の後、宿屋に戻って出発の準備をする。
休みたかったけど、この町には長居できない。
”闇魔法使いラインベル”の悪名の届かない、安寧の地を目指そう。
一人ではなく、相棒のカリーナと共に。
「行こうか、カリーナ」
「うん! ずっと一緒だからねラインベルさん!」
遠くを見つめるカリーナの横顔に、どこか見覚えがあった。
可憐でもありながら凛としていて、いつか偉大なことを成し遂げるんじゃないかと惹きつけられる表情。
―――”勇者カリーナ”
(なわけないか……本物のカリーナが記憶喪失で行き倒れていたストーリーはゲームにはなかったはずだ。多分……)
「ラインベルトさん、そんなジッと見られると恥ずかしいよ……私の顔になにか付いてる?」
カリーナは顔を赤らめて、照れながら言った。
いかん、あまりにも勇者と姿が重なって凝視してしまった。
「いや、なんでもないよ。さあ、行こうか」
カリーナの手を握りしめて、見果てぬ地への一歩を踏み出す。
俺たちの旅は、始まったばかりなんだ――――