≪白い空間≫
気付いたのはいつだろうか。
僕が作り出した『
どの
だけども、どの
――おかしい。
僕は何度も首を傾げた。
バグチェッカー達に調べさせると、とんでもないことがわかってしまった。
イオだ。
イオ・センツベリーという
僕は頭を抱えた。
「イオがバグるなんて思わなかった……クソ!」
僕は白い地面を蹴とばす。
消したはずのデータが生き残り、
僕が世界に散りばめたイベントをクリアし、正常ルートを歩んでいない
物語が完結出来ない――。
これは大問題だ。
僕は素晴らしく、美しい物語を作り上げなければならないのだ。
清廉潔白、正義のために戦う勇者が悪い魔王をやっつける。
その後、勇者はヒロインと幸せになってフィナーレとする。
そんな物語を作り、終わらせなければならない。
だって、それが僕の役目だからだ。
もう『失敗』は許されない。
――拳花幻想奇伝。
中華ファンタジーを意識したがダメだった。
――バトルマスター兄弟。
バディもののゲームだったが失敗した。
――ドラゴンファンタジア・サガ。
竜騎士の物語だが構成が甘く詰まった。
僕が途中で作りながらも物語がめちゃくちゃになり消した作品群。
どの物語にも、僕の構成とは外れたキャラクターが行動を起こし破綻させていく。
全ては『バグ』のせいだ。
意志などいらないのに、勝手に自我を持ち行動していくキャラに僕は怒りを覚える。
満足できない物語に僕はやがて落胆して消していく。
そう、リセットさせるのだ。
今回の『Ground Brave Quest』も消してしまおうか?
ラスボスである魔王ドラゼウフは死んだのだから――。
「いや、それだけは許されないだろう」
僕は思いとどめる。
物語を消してしまうのは簡単だ。
しかし、これ以上の未完結は
あいつが喜び満足する物語を作り上げなければならない。
そうしないと僕はいけないのだ。
何とか辻褄を合わせて完結させてやる。
「こうなれば、イオを魔王とさせ『ラスボス』にしてやろう」
僕はそう決心した。
魔王を倒した勇者は、自らの力に溺れ世界征服を宣言する。
闇堕ちした勇者がラスボスというのも面白いものだ。
これならカスタマーも喜んでくれるだろう。
「大聖師様……これは?」
僕に話しかけてきたのはジル。
優秀なバグチェッカーだ。
彼には勇者の仲間の魔法使いであるという役目も与えている。
「勇者試験の最中さ」
今、戦闘のテストプレイをしている。
次の勇者はどんな困難も乗り越えられるように強力にしたい。
そのためにキャラメイキングでは、最初から強力な技や魔法を繰り出せるように調整した。
所謂『ヌルゲー』と呼ばれるものになるかもしれないが、それはそれで仕方がない。
「あの角が生えた妖魔……只ならぬもののようですが」
「ジル、あれは君達が倒す予定だった『魔王ドラゼウフ』さ」
「ま、魔王……ドラゼウフ……」
「うん。ただし、オリジナルより少し強化している」
僕の目の前には作り出した勇者が十名ほどいる。
全員イグナスと顔立ちが似ているが少し違う。
髪の色が青や赤、黒などカラフルだ。
持つ武器も剣だけはなく槍や斧だったり、魔法が得意なもの、特技が各々違ったりするなど個性を持たせた。
ただし、感情は持っていない。
目に光りはなく人形の状態だ。
感情は持たせるのは後だ。
まずはこの
変に今の段階で感情を持たせてしまうと、キャラが恐怖を覚えて冒険から逃げ出す可能性がある。
現に作り出した勇者でそういうヤツがいた。
もちろん、そんな臆病者は主人公失格なのでバグチェッカーに消してもらったが――。
「ぐわあっ!」
青髪の勇者が死んだ。
魔王ドラゼウフにより素手で殺された。
「ごばぁ……はァ……があ!」
続いて、赤髪の勇者が死んだ。
ドラゼウフの風属性の呪文により殺された。
「さ、流石に厳しいのでは? 勇者試験の最終課題の相手が魔王ドラゼウフなどと……」
ジルの苦言が聞こえた。
でも、戦闘開始から数ターンは立つ。
魔王ドラゼウフのダメージは蓄積され、そろそろ倒されてもいい。
どの勇者が生き残るかはわからないが、ここまで生き残った
――全てを微塵にせし闇の烈風よ……肉と骨、全てを焼き尽くし切り裂け!
「お?」
魔王ドラゼウフが何かを詠唱している。
あれは僕が実装した合成呪文に違いない。
「ドラグトルネード!」
黒い獄炎の竜巻が周囲で巻き起こった。
あれは闇・火・風の三属性を混ぜ合わせた合成呪文『ドラグトルネード』だ。
魔王ドラゼウフにしか扱えないように設定している。
「こ、これは……全滅!?」
ジルが叫んだ。
僕がキャラメイキングした勇者達は死体も含め、あっという間に消滅してしまった。
「少し無茶だったかな」
僕はジルを見る。
ジルの顔は鉄仮面のように表情を崩さないが、足が少し震えていた。
彼はイグナスと順調に旅をしていれば、あのバケモノと戦うことになっていたからだ。
でも、それは仕方がない。
彼自身も僕が作った存在、勇者と共に物語をクリアしてもらわなければならない。
「まさか、恐いと感じたのかい?」
「い、いえ……」
「そうだよね。ラスボスだった存在に恐怖を覚えてもらっては困る。君は勇者を正常ルートに導くバグチェッカーでもあるが、勇者の頼もしい仲間である魔法使いなんだ、臆病者なヤツなんていらないからね」
「は、はい……」
「今日の勇者試験はやめだ。キャラメイキングを含め、調整などのバランスを考えなきゃな」
勇者達は全滅した。
僕がそう諦めたときだ。
「はあああああッ!」
若い男の声が空間に響いた。
僕とジルは驚いて辺りを見渡した。
だけでも、そこには魔王ドラゼウフしかいない。
「大聖師様! 上です!」
ジルが天を指差した。
そこには黒髪の勇者がいた。
左右の手には剣が握られている二刀流だ。
「ハッ!」
黒髪の勇者は魔王ドラゼウフを十文字に切り裂いた。
「ぐぶっ!」
魔王ドラゼウフの体から黒い血がほとばしった。
会心の一撃だ。
「た、倒した……」
ジルは目を見開いた。
あの魔王ドラゼウフを倒した勇者がとうとう現れたのだ。
「合格! これなら安心して冒険に出せる!」
僕は嬉しくて指を鳴らした。
強くてニューゲームというわけではないが、無双するであろう主人公が現れたからだ。
「ハハハハハッ! いいぞ最高だ!」
だって、ラスボスとして用意した魔王ドラゼウフを倒したからだ。
それも少し強化したラスボスだ。
彼なら
「君の名前を考えなきゃな」
その前に、この勇者の名前を考えなければならない。
二刀流の勇者。
そう、彼の名前は――。