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ep13.使い捨ての村

 俺には二つの選択肢がある。

 魔王を名乗るイオの仲間になるか、ならないか。

 それはシンプルな「はい」と「いいえ」の二者択一。


 はい

 いいえ


 その答えは――。


「その前に聞きたいことがある」


 イオの誘いの答えを出す前に一つ疑問がある。


「勇者と呼ばれていた存在と言ったな」


 そう、魔王を名乗りながら自らを『勇者』であると言った。

 勇者と魔王、その二つは相反する存在。

 太陽があれば月がある、剣があれば魔法がある。

 全く異なる性質を持つのだ。自然の摂理に逆らう。


「ああ、言ったよ」


 イオは迷いなく答えた。

 俺の頭の中は混乱した。

 それが意味することはどういうことなのか。


「今、君に詳しいことは教えられない」

「何故だ?」

「言ったら君が余計に混乱するだろうし、現実を受け入れられないからさ」

「お前の言ってる意味が理解出来ない。俺に何を求める」


 混乱し続ける俺にイオは微笑みながら答えた。


「世界を変える勇者になってもらいたい」

「俺が勇者だと?」

「そうさ、この無意味な輪廻を繰り返す世界を変えてくれる存在になる」

「輪廻を繰り返す世界?」


 イオとの会話、ずっと理屈の通らない話ばかりだ。

 勇者だったものが魔王を名乗ったり、輪廻を繰り返す世界だのと――。


「それよりも、先程の答えだ。君の選択はどちらなんだい?」


 迫られる解答。

 勿論、俺が選んだ行動は一つ。


 ▶ いいえ


 ただ一つ。

 イオは石仮面のような無表情な顔となった。

 しかし、それは一瞬のものですぐさま先程と同じような微笑みを作った。


「ボク達はこの世界の物語で生きる人形。やはり、君も与えられた役割を演じるしかないか」


 与えられた役割、イオはまたもや意味深なことを述べる。

 そして、何か呪文を唱え始めた。


「蒼き天の守護者よ、我に道を示し給え――」


 イオの両手が淡い青い光に包まれる。

 これは瞬間移動呪文の――。


「セレスティアルゲート!」


 目の前にゲートホールが現れた。

 これはセレスティアルゲート。

 熟練度の高い魔法使いしか扱えない呪文だ。

 いつかの冒険の途中、イグナスが魔導書を読みながら習得しようとしていた。

 ただし、当時のイグナスはまだ未熟だったようで身につけることは出来なかった。


 何でも条件とする魔力がなかったらしい。

 所謂、レベル不足。

 俺達の冒険も途中だったので仕方がない。


「ふふっ……」


 しかし、このイオは相当な手練れだ。

 詠唱中も全く隙を見せず、俺に警戒しながら唱えていた。

 魔王を自称するだけはある。


「このセレスティアルゲート――下手な人が使うと、自分も相手もどこへ飛ばしてしまうのかわからない」

「何が言いたい。俺をそのゲートへぶち込もうというのか」


 俺はやや半身に構える。

 どう攻撃してきても、すぐに反応できるようにしている。

 素手は専門家の武闘家には敵わないが、それなりに体術は心得ている。


「まあ、さっき言ったのは冗談さ。君に見せたいものがある」

「な!?」


 イオはそう述べると、自分が作り出したゲートへと飛び込んだ。

 呆気にとられる俺はただただ案山子のように棒立ちするしかない。


「ついてきなよ。真実の一部を君に見せよう」


 ゲートからイオの声がする。


(どうするか……)


 迷う俺はゲートを見つめるだけ。

 どうするか、動くか、いやこれは罠かも――。

 そうやって考えているうちにゲートはどんどん小さくなってくる。

 早くしないとゲートが閉じてしまう。


「真実か……」


 俺は迷いながらもゲートへと飛び込んだ。

 淡い蜃気楼のような青い光が俺を包む――。


          ***


「ここは?」


 気付くと俺がいたのは見覚えのある村だ。

 自然豊かな気に囲まれた村は家があり、畑が耕されている。

 周りを見ると武器屋や防具屋、更には宿屋。

 どれもが簡素な作りで素朴、静かな雰囲気だが心地がよい。


「おかしい……」


 そう、おかしい。

 この村には人が全くいない。

 人どころか犬や猫などの動物までいない。

 人の息遣いが聞こえないのだ。


「どうなってるんだ」


 俺は辺りの家を調べた。

 それはイグナスの後について回っていた時と同じように。

 だけども、どの家にも人が住んでいる様子はない。

 民家も、納屋も、武器屋も、防具屋も――。


「この違和感は何だ?」


 俺は宿屋に入った。

 宿の雰囲気はどこか見覚えがある。

 木で出来た家具、まるで急ごしらえで作られたような――。


「ま、まさか!」


 俺の全身に稲妻が走った。

 知ってはいけないこと、気づいてはいけないことを理解したのだ。

 ああ、何ということだ。『見覚えのある村』ではない。

 俺は確実にこの村を訪れている。


「そのまさかだよ」

「イオ!」


 俺の背後にイオがいた。

 百戦錬磨の修羅場を潜り抜けたこの俺、戦士ガルアの背中に立っていたのだ。


「ここは、君達が青い暴君を討伐するように依頼した村さ」


 イオの言う通りだ。

 何故、俺は来たときにすぐ気づかなかったのだろう。

 ここは俺がイグナスから追放を言い渡された場所であり、イグナスを殺してしまった村だ。

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