――イグナスは宝箱を開けた、なんとカタストハンマーを手に入れた。
「これお前が装備しろよ」
「俺が?」
俺の名前はガルア・ブラッシュ。これでも一応戦士だ。
勇者イグナス・ルオライトのパーティに加入している。
今日は迷宮の森で、イグナスから呪いの武器『カタストハンマー』を渡された。
当たれば会心の一撃であるが命中率は1/3……曰く付きの武器だ。
「イグナス、これを武器に俺は戦えと――」
「いいから装備しろっての、いつまでたっても鋼の剣じゃあダメだろ」
イグナスは金髪碧眼、いわゆる美青年だ。
だが人格は勇者と呼んでいいのかわからないほどだ。
俺にまともな武器を渡さず、行く先々のダンジョンで手に入れた呪いの武具を装備させる。
パーティから抜けたい気持ちがないと言えば嘘になる。
でも、それは出来なかった。
イグナスは、世界を恐怖に陥れる魔王ドラゼウフを倒すために旅する勇者。
そして、俺はその勇者直々に選ばれた戦士だ。リーダーに従うのがパーティメンバーの役目。
一刻でも早く魔王を倒し世界を平和に導きたい、ここは勇者イグナスに従い我慢するしかない。
……とはいうものの納得が出来ない。
「そろそろ、まともな武器や防具を装備させてくれよ」
説明すると、今の俺の装備はこのようなものだ。
腰に差す黒鞘に入ったのは鋼の剣、冒険途中の武器屋で買った既製品だ。
そして、頭から順に述べると人骨を模ったスカルヘルム、体には赤黒い血のような色をした鎧ブラッドアーマー、左手に持つ黒いドクロの紋章が刻まれ暗黒の盾を持つ。
武器以外は全て呪われた装備だ。
体にはずっと倦怠感がある。
恐らくは呪われた防具のせいだろう。
いつしかずっと、俺はそんなものをイグナスに渡され続けている。
――武器まで呪いの装備を渡されてはたまったものではない。
クエストをクリアした後、金さえ払えば街や村にある教会で呪いは解ける。
……がそこまで体が耐えられるか不安だ。
「ガルアは勇者の意見に反対なの?」
亜麻色のショートカットの少女が詰め寄って来た。
ああ……まただ。俺は頭を抱える。
彼女の名前はミラ・ハーリエル、パーティのサポート役である僧侶だ。
ミラはイグナスのことが好きなようで、いつもヤツの無茶な意見に同調する。
「イグナスの言う通り、さっさと装備しなさいな」
俺はチラリと黒い長髪の男を見た。
彼は同じパーティメンバーのジル・ディオール、魔法使いだ。
赤いローブ姿が強さを醸し出していた。
普段は物静かだが、確かな魔法と溢れる知識で幾度も冒険の窮地を救ってくれた。
「先を急ぐぞ」
ジルは興味もなく、先へと進んでいった。
迷宮の森深くにいる『青の暴君』と呼ばれる凶悪なドラゴンを倒すためだ。
「ちょっとジル!」
「いいからコイツを装備しろ、いいな!」
イグナス達は無理矢理、俺にカタストハンマーを渡すとジルの後をついていった。
残された俺はカタストハンマーを片手に握る。
その悪魔的なデザインは、明らかに呪いの装備であることを雄弁に物語っていた。
(この音……やはり呪われていたか)
嫌な音が俺の頭に鳴り響いた。
案の定、カタストハンマーは呪われていたのだ。
今日も俺は呪いの武具を装備する。