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第11話:いつでもやらかすソフィ。




 婚姻届を提出して一週間経った日、届けを正式に受理しましたという書面と婚姻証明書を持ってジョルダン様が逢いに来てくださいました。

 この婚姻証明書があって初めて、結婚式を執り行えるようになります。

 少しずつ進めていた結婚式の準備もほぼ終わりに近付いています。


「無事に来月の結婚式を迎えられそうだな」

「はい!」

「何度、ソフィのに慌てさせられたことか……」

「え、あはは、うふふふっ?」


 はぁ、と大きな溜め息を吐かれてしまい、こりゃやべぇと愛想笑いをしていましたら、ジョルダン様がお腹を抱えて笑いだされてしまいました。


「この一年が、私の人生で一番濃い気がするよ。こんなにも慌てたり、焦ったり、笑ったり、心が締め付けられたり……本当に沢山の想いを抱いたよ。ソフィ、ありがとう」


 何がどうありがとうに繋がったのでしょうか?

 よくわかりませんでしたか、ドヤッと胸を張りましたら、ジョルダン様がまた楽しそうに笑いだして、ギュムッと抱きしめてくださいました。




 ◆◆◆◆◆




 ソフィと婚約して、色々なことが変わった。

 先ずは配属されたばかりの幼い騎士見習いたちとよく話すようになった。


 今までは理解できなかった幼い見習いたちの謎な行動が、手に取るように解るようになった。

 見ていると端々にソフィ臭がするのだ。




「……おい。気なるからと蜂の巣を棒で突付こうとするな。普通に死ぬぞ」

「ひょわっ! だだだだ団長!?」


 頭を軽く小突いて、手に持った木の棒を取り上げる。


「見つけたら、上官に報告して駆除だ。手伝いたければそう言え。解ったか?」

「はっ、はいっ!」




「…………まぁ、格好良くはあるな?」

「ここここここ、これはそのっ!」


 切株の中心に突き立てられた騎士見習い用の剣を見る。


「子供用の物語りにあったな。抜けたら勇者だ、みたいな伝説の剣」

「はぃぃ」

「いいか、憧れるのは解る。やってみたくなるのも、多少は解る」


 ソフィがそうだからな。


「だかな、剣は騎士の魂だ。これに誓いを立て、これで人々を護る。いくら見習い用の剣とはいえ、遊びには使うな。解ったか?」

「はいっ!」




 見習いたちの頭を撫でてやると、キラキラとした目で見てくるのも、何だか既視感で更に撫でてしまう。

 マクシムがニヤニヤとしながら話しかけてくるのは、イラッとするので殴りたい。我慢するが。


「団長、最近チビたちに懐かれてますね」

「なんでだろうな?」

「無自覚っすかぁぁぁぁぁ! 何だそれ、萌えるっヴゴフォェッ」


 マクシムが床でのたうち回っているが知らん。

 邪魔だから執務室から出ていけ。


「いや、王太子殿下から呼び出しがあったんで伝えに来たんですけどね」

「それを、先に言え!」

「えー? すんませぇん」


 こういうところだけはソフィとそっくりだ。

 いや、ソフィがそっくりなのか?

 …………それは嫌だな。

 ソフィは可愛らしいキャラメル色だ……くそ、マクシムも同じ色じゃないか。


「お前をどこか遠くの地に飛ばしたい」

「ええ!? なんでですか! こんなに愛してるのにぃ!」

「煩い」


 マクシムを床に沈めてから、王太子殿下の元へと向かった。




「――――は?」

「いや、だからな? 来月末に、隣国から使節団が急遽来ることになった。それの応対を私がやる」

「なぜ? 殿下が? 基本的に働きたくない派でしょう?」

「………………向こうの……第二王女も来るから」


 なるほど。

 数年前にこちらが王太子殿下と共に使節団として訪問したとき、本当に色々とあったからな。


「逢いたいから、と素直に仰られればいいものを」

「っ言えるか! お前が自分の婚約者に言ってみろよ!」

「いつも言ってますが?」


 王太子殿下がギャァァァ気持ち悪っ!などと叫んだ。

 殴っても良いだろうか?

 良いよな?


「団長、いくら従兄弟でも流石に殴っちゃ駄目ですって」

「チッ」


 拳を握りしめていたらマクシムに止められた。

 殴るのは諦めるとして、使節団か。

 ソフィにどう伝えようか。

 日程によっては、私たちの結婚式を一ヶ月ほど後ろ倒しにせざるを得なくなりそうだが。




 ◇◇◇◇◇




「――――ということで、後ろ倒しになる線が濃厚になってしまった」

「え! いやったぁぁぁぁぁ!」


 ここ最近、なんやかんやとお菓子を食べすぎていて、ドレスを試着したら妙に窮屈だったんですよね。

 どうしようとか焦っていましたが、一ヶ月の猶予が!

 ダイエットが出来ます!

 腹肉と脇肉を殲滅です!


「――――は?」


 このとき、完全にジョルダン様の事を忘れており、ただただラッキーだと声に出して喜んでしまっていました。

 ジョルダン様のお顔など、見もせずに…………。




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