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第8話:誰に対する嫉妬なのか。




 ジョルダン様が私とスタークスの関係に『やきもち』をやいています。

 スタークスと私の関係とは何でしょうか?


「ええっと、私が一方的に…………いえ、相思相愛とは思いたのですが、如何せん気持ちを確認する方法がありませんので、悔しいかな一方的にですね。一目惚れをして三年です!」

「一目惚れ…………君には好きな男がいたのか」


 ――――ん? 男? まあ、男ですわね。オスですが。


 ジョルダン様が何を言いたいのか、いまいち分かりません。

 ジョルダン様もスタークスが好きなんですよね? と確認しましたら「そっちじゃない」と溜め息を吐かれてしまいました。


「あら、あららら」

「照れているところ、申し訳ないが、情報を整理したい」


 ジョルダン様がいたく真剣なお顔でそう言われましたので、居住まいを正して前のめりで聞く体勢を取りました。


「君はスタークスに惚れている」

「はい!」

「三年前に一目惚れをした」

「はい!」

「……だが、私の事も好きだと言うのか?」

「え? はい。ジョルダン様が大好きですが、それとこれとは別というか」


 ジョルダン様のお顔がどんどんと苦々しいものになっていきます。

 なんだかヤヴァい気がします!


「あ、あのっ、たたたたしかに、オスも男性と考えますと、愛を囁いていたら不快に思いますものね」

「――――オス!?」


 ジョルダン様が天変地異でも見たようなお顔です。

 今日は普通に天気が良く、気温も過ごしやすいですが。


「まて、オスとはどういうことだ。スタークスは御者だよな?」

「へ? スタークスは美しい毛並みの白い馬ですが!?」

「「……」」


 私はぽかーん。

 ジョルダン様はトマト。


 何やら双方で盛大に勘違いを起こしていたようです。

 ジョルダン様がカフェのテーブルに突っ伏して、何やらボソボソと呟いています。

 個室なのでこういった気を抜いた姿を見せてもらえている気がします。

 何を言われているのかしら? と、よーく耳を傾けると少し聞こえてきました。


「…………に嫉妬………………なぜ馬……心配…………阿呆すぎる」

「阿呆でごめんなさい!」

「は? いや、違う!」


 阿呆だと聞こえたので慌てて謝りましたら、ジョルダン様がガバリと頭を上げられました。

 阿呆なのは自分なのだと。

 よくよく確認をせずに、責め立てるような事を言って申し訳ない、そう言いながら深々と頭を下げられました。


「うふふふ。ジョルダン様もそんな勘違いをされるのですね」

「……面目ない」

「新たな一面を見られて幸せです」


 ジョルダン様が少し恥ずかしそうに笑いながら席を立たれました。

 真横に来られたので私も立とうとしましたが、そのままでと耳元で囁かれました。

 そして、頬に柔らかな感触と、チュッというリップ音。


「私はそろそろ仕事に戻る。店員には伝えておくから、友人と沢山食べなさい」

「はい! ありがとうございます!」

「ん……ソフィ、愛してるよ」


 ジョルダン様が耳元でそう囁かれたあと、颯爽と去っていかれました。

 そしてその二十分後に友人が到着したのですが、私の顔の赤らみは引かないままでした。




「……物凄い勘違いをされましたわね」

「でしょでしょ! ジョルダン様、可愛かったです」


 二人でケーキをもりもりと食べながら、話題はあっちこっちへと移動していきます。


「マクシム様、未だに婚約者が見つかりませんの?」

「そうなのよー。あ、これ美味しい」

「え、早く半分!」


 一人一個ずつ食べていると、お腹いっぱいになってしまうので、全て半分個です。

 今日は全制覇してやる! くらいの勢いで食べています。


「ところで、ここまで食べといてなんだけど、支払いは本当に大丈夫なの?」


 友人が食べる手を止めることなく聞いてきます。

 流石、私の友人です。


「好きなだけ食べなさいって」

「わお、太っ腹ね」

「私たちは違う意味でそうならないように気をつけないとね」

「……いまソレを言わないでくれる?」


 友人にジトリと睨まれてしまいました。


「お客様、お茶の追加をお持ちしました。ノーザン伯爵様より花束が届いております。それから、もし食べる余裕がありそうでしたら、当店の裏メニューも薦めて欲しいとのことでしたが、いかがされますか?」

「「食べます!」」


 裏メニュー。なんですかその魅惑の響きは。

 店員さんが退室したあと、渡された小さな花束に付いていたメッセージカードをちらりと見ました。


『今日は勘違いをしてすまなかった。ソフィ、愛している』


 ジョルダン様の手書きでした。

 花束が小さいのは、私がこのあとも移動したりするからでしょう。

 どこまでも細かな気遣いが嬉しくて、花束からそっとメッセージカードを外し、ハンドバッグに仕舞い込みました。


「凄いわね、私にも花束があるなんて……」


 友人には私より少し控えめの花束。

 そこにまで気遣いをされるのが凄すぎます。


 その後届いた裏メニューの『丸ごと焼きリンゴとバニラアイスのクリームチーズパフェ』というカロリーの爆弾を、友人とモリモリと食べました。

 今日の夕食は不要そうです。




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