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第6話:口が裂けても言えない。




 連日、ジョルダン様が我が家を訪れています。

 んがっ! 私とのおしゃべりは三十分ほど。お父様とのおしゃべりは、三時間! しかもお父様の執務室で二人っきりで!


「由々しき事態だわ。まさかの『お義父さんとこんなことになるなんて♡』パターンだとは! せめて『義弟と裸のおつきあい☆』でいて欲しかった!」

「…………は、どうしてそう変な妄想ばかりするんだ」


 ――――あ、やっべ!


 部屋の中をウロウロと歩きながら情報整理をしていましたら、なんだか不機嫌なジョルダン様降臨。

 部屋のドアの建て付けが悪くて半開きなのを忘れていました。


「妄想は情報整理に入るのか?」

「妄想ではありません!」

「…………詳しく説明しなさい」


 ――――あ、本気でやっべ!


 連日、何時間も、ジョルダン様はお父様に逢いに来ます。

 二人っきりで執務室で内緒話。

 ジョルダン様が帰った後のお父様は、ご機嫌に鼻歌を歌いながら執務しているふりを続けています。


「鼻歌は知らないが、普通に執務されていると思うんだが?」

「……とにかく! 異様にご機嫌なんです!」

「フッ。それは良かった」


 ジョルダン様が柔らかく微笑まれました。

 これは確定ですね!


「……何を確定させたんだ」

「浮気ですわ! 密室でお父様と『あはぁん』なこひょほいひゃいへす」


 話している途中なのに、ジョルダン様に鼻をギュムッとつままれてしまいました。

 変な声しか出ません。


「んははは。すまんすまん。ソフィ、家のことやお義父上のことが心配だからそういった妄想で誤魔化しているんだろう?」

「え? へぁ……そうかも?」


 なんだかいい方向に勘違いされましたので、その線で行こうと思います。


「私とソフィの未来を脅かすものは、全て排除する。安心しなさい」


 ブラックジョルダン様です。闇の帝王が降臨です。

 国家転覆とか狙えそうなほどに悪役のような笑顔です。

 いつもの爽やかスポーツメーンな感じに戻って欲しいです。

 闇の帝王はどう考えてもセメではないですか!

 ジョルダン様はウケなのに!


「ソフィィィ?」

「もももも申し訳ございませんっ! つい! つい、出来心で!」


 軽く説教されてしまいました。




 そんな出来事から数日後の夜でした。

 いつも通りの質素な夕食を皆で食べていましたら、お父様が食後に話があると言われました。

 食後の薄いお茶を飲みながら、この一ヶ月ほどにあったというお話を聞いたのですが、我が家の借金は全て無くなったそうです。

 意味がわかりません。


「ノーザン伯爵のご提案で、過去の書類を調べ続けていたんだが、本来は我が家が背負わなくていいものまで入り込んでいてな」


 それを国に申し出たところ、受理されたそうです。

 そしてその分を残りの返済にあて、余った分が戻ってくることになったのだと。


「これで、この苦しい生活から抜け出せますのね……」


 お母様がハンカチで目元を押さえながら、歓喜に声を震わせていました。

 ふと気になって戻ってくる額を聞きました。


「おおよそ、私の給与の三年分くらいだな」

「「……」」

「お前たち……その、思ったより少ないな、みたいな顔をするのやめてくれないか?」


 いやだって、思いのほか……ね?


「なっ、何にしても、良かったですわね!」


 良かった良かった。我が家の修繕が多少進みそうで。

 三年分では多少しか修繕できませんが、とは口が裂けても言えないなぁ、と思いました。




 後日、ジョルダン様にお礼を伝えると、温かな笑顔で「良かったな」と言い、頬にキスをくださいました。

 『お義父さんとこんなことになるなんて♡』パターンではなかったようでホッとしました、なんて口が裂けても言えない状況です。


 キスは嬉しいので、もう一回!とアンコールしましたら、くすくすと笑いながら、またキスをしてもらえました。今度は左手の薬指に。


「ジョルダン様、大好きです!」

「ん、素っ頓狂な妄想を繰り広げる君だけど、私も愛しているよ」


 ――――あら?


 仕方なさそうに笑われました。

 思ってたのと着地点が違いますが、まぁいいです!

 今日も私とジョルダン様はラブラブです!


「結婚したら、しっかりと分からせてやらないとな」

「へ? 何か仰られました?」

「んー? 気にしなくていいよ」


 なぜ、夜の帝王顔なのでしょうか?

 再度落とされた左手薬指へのキスは、なんだかとてもねちっこかったです。




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