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第5話:アゼルマン家の経済状態。




 デート翌日の夕方、なぜかジョルダン様が我が家を訪問されました。

 サロンにお通ししましたら、不服そうなお顔をされてしまいました。

 コレはもしや、私の部屋で二人きりになりたいとか――――!?


「マクシムから聞いたが、ソフィの私室の床が抜けたのは本当か?」


 ――――違いました。


「……持参金不要としたから、金銭の余裕は出来ているはずだが」

「あっ。お気遣いには感謝しておりますし、同時に大変申し訳なくも思っております」 


 慌てて礼をしながら謝罪しましたら、両腕をガシリと掴まれました。


「っ、違う!」

「へ?」


 ジョルダン様がへニョリと眉を落とされ、少し悲しそうでいて困ったような表情をされました。


「すまない、一番に伝えるべきことを間違えた。怪我はないか?」

「え? はい! ピンピンしてます!」

「ん。良かった」


 ふわりとジョルダン様に抱きしめられました。爽やかな柑橘とスパイスを混ぜたような香りと、温かく筋肉質な身体に包まれてうっとりと目を瞑っていました。


「修繕費を出すよ。婚前契約書に新たに組み込んでおこう」

「なっ!? いりませんっ!」


 ジョルダン様の胸をグイッと押し返しました。

 そんなことをしてもらいたくて、ジョルダン様と婚約しているのではないのに!

 家によってはそういった契約結婚もあるようですが、私たちは違うと思っていました。

 想い合って、愛し合って、結婚するのだと。


「私たちは、そのような関係だったのですか!?」

「え…………」


 ジョルダン様がきょとんとした顔になり、徐々に青ざめていきます。


「あ! いや! 違うからな? ソフィに安全に暮らして欲しいだけで、お父上や家同士での契約などないからな!?」

「……ほんとに?」

「ああ!」


 ぎゅむむむっと更に抱きしめられました。


「そもそも、アゼルマン家と契約しても何の旨味もないんだが……」

「………………聞こえてますが?」

「あ、いや、うん。…………ごめん。唯一の旨味は、君がいることだ」


 ジョルダン様は修繕費を出資したいと申し出て下さいましたが、それを受け取るのはやっぱり何か違う気がしてお断りいたしました。

 お父様が聞いたら卒倒されそうな気がしますが。


 そもそも、持参金を不要にしてもらえたので、浮いたお金があるのです。それを修理費に回したものの、屋根と外壁だけで限界だったのです。

 資金繰りはお父様のお仕事です。お父様が頑張ればいいだけなのです。

 ジョルダン様に背負わせていいものではありません。


「アゼルマン家程度の修繕費では負担にもならないのだが」

「…………聞こえてますけどぉ!?」

「いや、すまん。その、なぜこんなにも困窮しているのか不思議なところもあるのだが…………お義父上も、マクシムも潤沢とは言えないが国から給与が出ているだろう?」


 確かに、二人とも国に携わる仕事をしています。

 お父様はかなりの下っ端ですが、王城の文官。

 兄はかなりの脳筋ですが、騎士団。


 元々は、曽祖父の代からの打撃なのです。

 昔は領地を持っていたらしいのですが、運営に失敗し多大な損害を出し、国の支援制度を利用したものの借用額が大きく、未だに返済を続けている状況です。


「それは知っているが…………もう返済し終わっていてもいいはずなんだが」

「え? 我が家の事情を知っていたのですか!?」

「流石に、相手の家の経済状態を知らずに結婚などはしないからな?」


 おほぅ。知りませんでした。そして、私はジョルダン様のお家の事をあまり知らないのですが……。

 ジョルダン様のお父様が、なんだかお国の重要なポストにつかれている、としか。


「…………うん。だろうなとは思っていた。ソフィは今のままでいてほしいような、少しは知ってほしいような……悩ましい」

「ジョルダン様の事はいっぱい知っています!」


 好きな食べ物、嫌いな食べ物、好きな本、好きな色、嫌いな色、好きな訓練、苦手だけどみんなにバレないようにしている訓練、色々と知っています!

 ソースがほぼ兄なのがムカッとしますが。


「ふっ、ふはは。うん、そういうところが可愛くて愛おしいよ」


 頬にちゅっと優しいキスを落とされました。

 次いで目蓋、そして鼻頭にも。


「君との結婚が、待ち遠しいな」


 微笑みながらそう囁いた直後に、真顔に戻られてボソリと「もう少し詳しくアゼルマン家を調べるか」と呟かれました。

 お父様、何か悪いことでもしているのかしら?

 もししていたら、ジョルダン様にフルボッコにされそうな雰囲気ですわよ!?

 兄は、脳筋なので問題ないと思います。


「…………とりあえず、ソフィの中でのお義父上とマクシムの株が驚くほどに低いのはわかった」


 残念な子を見るような目で苦笑いされ、よしよしと頭を撫でられてしまいました。

 大変遺憾です!




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