夜の帝王にどうにかお帰りいただいて、王室専用庭園内の散策をしました。
国花であるキングダムローズは派手な見た目とは違い、甘く柔らかな香りがします。
そして、その国花の近くに縁がピンク色をしている白バラがあります。こちらは少し小ぶりです。花びらは百枚近いとか。
このバラはプリンセスローズといい、歴代の王妃様の象徴になっています。
触れられるほど近くで見たのは初めてです。
「わぁぁぁ。なんと言えばいいんでしょうか? 可愛いとも違うし、美しいけれどもっと瑞々しい感じです。……可憐、でしょうか?」
「そうだな。可憐が似合うな。少し待っていてくれ」
ジョルダン様がふっと柔らかく微笑まれて、私達の少し先で作業をしていた庭師さんにごそごそと何かを話しかけました。
庭師さんが大きく頷いて、パチンパチンとプリンセスローズを切っていきます。
そして、ササッと新聞で巻きジョルダン様に渡しました。
「これを、君に……ソフィに渡したかった」
差し出された六本のプリンセスローズ。
ゆっくりと両手で包み込むように受け取りました。
「……いい香り」
「六本のバラの花言葉、わかるかい?」
「っ――――!」
一本は、『あなたは私の運命の人』
二本は、『この世界にあなたと私の2人だけ』
バラは本数でも花言葉があります。
ジョルダン様のくださった六本は、『あなたに夢中』
「私のプリンセス。私は君に夢中になっている――――」
クッと顎を持ち上げられ、唇の端に触れるか触れないかの口付け。
触れたのは一瞬だったはずなのに、数十秒くらいはあったように感じました。
「……そろそろ、戻ろう。お父上が心配される」
「っ、はい」
嬉しくて、恥ずかしくて、心臓が破裂しそうなほどドキドキとして、家に帰り着くまでジョルダン様のお顔が見れませんでした。
部屋に戻り、花瓶にプリンセスローズを活けたあと、ベッドにダイブしました。
ギッシギシ、メギッと音が聞こえたのは無視します。ぶっちゃけ、メギッの音はヤバいやつですが、今はそれどころではないのです。
「し、心臓が………………潰れるっ!」
ここ最近のジョルダン様は、とても甘々です。
お見合い当初のあのツンツンした感じが全くありません。
兄が同席したりすると、あの時のツンツン感にはなりますが、私に向ける目は甘々です。
砂糖を吐きそうです。
「ふぐぅぅぅぅ」
足をバタバタと動かしていましたらバキィィィッと大きな音が聞こえ、ベッド全体がグラリと揺れました。
慌てて床を見ると、ベッドの足元の方の脚が床にめり込んでいました。
我が家がボロボロのせいなのか、私が暴れたせいなのか、私の体重のせいなのか…………前者であることを祈りたい。それはそれでどうかと思いますが。
「ソフィ! すげぇ音がした――――ぶはははは!」
煩い兄、登場です。
「板と工具持ってくるわ」
こういうところは優しいんですよね。
そして、自力で直そうとするあたり、我が家って本当に貴族らしくない。
兄が床の補強をしている間、ちょっとおしゃべり。
「ジョー団長、最近やたら機嫌いいんだよなぁ」
「騎士団ではどんな感じですの?」
「あ? 無表情で書類を鬼のような速さで捌き、無表情で鬼のような特訓メニューを突き付け、無表情で死屍累々になった騎士たちを睥睨して、追加メニューを言い渡す感じ?」
待って、ジョルダン様がエグい。
そしてそれに悶える兄もエグぅい。
ジョルダン様って結構体格がいいんですよね。太くはないけど、かなり筋肉質なんだろうなぁと服の上からでもわかります。
そんなところも素敵だなぁと感じるポイントです。
兄のほうが俄然ムキムキではありますが、兄は…………脳も身体も筋肉なので色んな意味でマイナスです。
「団長、頭もめっちゃ良くてなぁ。先回りで色々用意してたりさぁ、心が折れる直前に優しさ見せたりさぁ……ずりぃんだよぉ」
そこはちょっとわかります。
ジョルダン様って、本当に先回りが上手なんですよね。
カフェデートの時、ちょっと足りないなでもなぁ、とか迷っているといつの間にか追加のデザートが現れてて「これも人気らしい。ソフィ、半分ずつ食べてみないか?」とか言いつつ殆どを私に下さるんですよね。
「お前の食い意地が凄いって話か?」
「違うし!」
今日のデートも、事前に許可を取っていてくださったり、石に躓いた瞬間には既に腰が抱かれていたり、水たまりを踏みそうになった瞬間にサッと腕を引かれて軌道修正されたり――――。
「お前の壊滅的な鈍臭さの話か?」
「違うし!」
とにかく!
ジョルダン様は素敵だって話なんです!
「そうか? お前がどんくさ――――」
「お兄様、煩いです」
「お前なぁ。床直してやってんのに」
「そこだけは感謝します」
とにかくっ!
床は直ったので万事解決。
来週のジョルダン様とのデートも楽しみです!