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第3話:ジョルダン様とデート。




 ジョルダン様との婚約が決まり、生活が一変しました。

 縫い繕い物をしたり、お料理日常の食事を作るだけの日々はお仕舞いです。


「やぁ、ソフィ」

「ごきげんよう」


 ボロッボロの我が家の玄関ポーチに、キラッキラしい金髪翠眼ジョルダン様。

 対比が酷いです。

 ジョルダン様は、お仕事がお休みの日は必ずデートのお誘いに来てくださいます。


「今日は、植物園に行こうかと思っているが、大丈夫だろうか?」

「わぁ! はい、大好きです!」

「っ……ん」


 なぜかジョルダン様が頬を染めて嬉しそうに………………あぁっ! そ、そういった意味ではなかったのに! いえ、ジョルダン様の事も好きですが、って……どどどどどうしましょう!?


「ソフィ、手を」


 差し出された右手に左手を重ねましたら、するりと指を絡められました。

 エスコートではなく、恋人繋ぎ!

 巷で流行っているらしい、男女が指を絡めて繋ぐという、噂の!


「ソフィの手は小さいな……」

「ジジジョルダン様の手は大きくて温かいです」

「ん――――」


 ふわりと微笑まれたジョルダン様に、チュッと手の甲にキスを落とされました。

 今日は、絶対に手の甲は洗いませんっ!




 馬車に三十分ほど揺られて、王都の中心部にある植物園に到着しました。

 花の匂いが風に溶け込み、柔らかく私達を包みます。


「わぁ、いい香り」

「うむ。見晴らしも素晴らしいな」


 ゆっくりと歩き植物園を堪能していましたら、立入禁止区域に近付いていることに気が付きました。


 植物園内はほぼ自由観覧なのですが、一部区画に王族のために育てられている花々の庭園が存在しています。

 そびえ立つような柵で囲われており、侵入者を防ぐための騎士も配備されています。


「そちらは立入禁止では……」

「ああ、知っているのか」


 ジョルダン様はにこりと微笑みながらも、歩みは緩めませんでした。


 立入禁止区域に近付いただけでも怒られるのでは、とドキドキしていたのですが、門の前に立っていた騎士様がジョルダン様に敬礼をしている姿を見て、そういえば……と思い出しました。

 ジョルダン様は騎士団長なので近づいても怒られないのですね。


「いや、普通に近付いたくらいじゃ怒られないからな?」

「ええ?」


 ですが、兄がボコボコにされるからな! とよく言っていますが。

 禁止区域ではみんなピリピリとしていて、ネズミ一匹取り逃さないとか。


「……あのバカ、ろくなことを喋らないな」

「違うのですか?」

「あぁ。そこまで警戒するのは、王族や要人が訪問している間だけだ」


 なるほど確かに!と納得していると、ジョルダン様が騎士様に恐ろしい発言をされました。


「王太子殿下に許可を頂いている。証明書だ」


 証明書。王太子殿下の、許可。

 中に入るための!?

 つまり、中に入っていいということですか!?


 ぽかーんとしている間に、手を引かれてさくさくと王室専用庭園に入ってしまっていました。

 ジョルダン様が中にあるガゼボを指差し、座ろうと言われましたが、恐れ多すぎます。


 ガゼボは、王国の象徴の鮮やかな赤色のキングダムローズで彩られ、周囲には多種多様の花々が『私が一番よ』とでもいったふうに咲き誇っていました。


「凄い…………綺麗です」

「ん。美しいな」


 二人寄り添って座り、花々を眺めます。

 爽やかさと甘さの混じった匂いは、どこまでも心を落ち着けてくれました。


「ソフィ、後悔はしていないだろうか?」


 急にジョルダン様が心配そうなお顔で聞いて来られます。

 後悔とはどういった意味なのでしょうか?

 はて? と首をひねり、ジョルダン様に続きを促しました。


「私は君と過ごせてとても幸せだ。が、君は毎日やることが多く忙しそうにしていると聞いた。そんな日々の一日を私で潰していいのかと。少し心配になった」

「それは……その…………」


 毎日忙しくしているのは確かです。理由は、ただ家事全般をやっているだけなのですが。

 我が家は最低限の雇いの侍女しかおらず、掃除や料理にまでは手が回りませんので、自分でするしかないのです。


 割と好きでやっているところもありますので、不満はないのですが。ジョルダン様に余計な心配をかけてしまっていたとは。

 そもそも、その情報のソースは兄ですよね。あの脳筋、何を余計なことをっ!


「私は、ジョルダン様にお会いできる日を、いつも楽しみにしているのです…………」


 なので、遠慮とか気遣いとかで会えなくなるのは、寂しすぎます。


「っ……尊いとは、こういうことか!」


 ジョルダン様が片手で蟀谷こめかみを押さえ俯かれてしまいました。

 大丈夫でしょうか。

 もしや、また頭痛でしょうか。

 兄がなにかやらかす度に、頭が痛いと唸られていますが、もしや何かのご病気では!?


「…………いや、本当に痛いのではなく……いや、痛いんだが…………悩ましいという意味合いが強いものだ」

「ご病気とかでは?」

「ない」


 きっぱりハッキリと言われてホッとしました。


「良かったぁ。ジョルダン様が倒れられたら、甘いものが喉を通らなくなりそうです」

「……それだと普通に食事はすると受け取れるのだが?」

「ご飯はちゃんと食べませんと! ジョルダン様の看病が出来なくなるではないですかっ!」


 ぎっちりみっちり看病して、何が何でも全快にしてみせます!

 そう拳を握って熱弁しましたら、首の後ろをクッと引かれ、ジョルダン様の胸にしなだれ掛かるような格好にされました。


「じょ、じょるだんさまぁ!?」

「君は本当に、かわいい」


 ちゅ、と頭頂部に感じる柔らかな熱。

 そして耳元でジョルダン様が低く唸るように囁かれました。


「煽りすぎだ。このまま唇を奪いたくなる」


 ――――えっろ!


 夜の帝王です! 夜の帝王が降臨されました!

 夜の帝王が何かはよくわかりませんが、何かすごそうなヤツです!


 煽った認識はありませんでしたが、とりあえず夜の帝王は召喚してはいけないと学びました。




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