「レイ、レイ!」
「どうしたんだアピラ、そんな興奮して……」
「こ、こんにちは」
興奮するアピラを落ち着かせようと、声をかける……その最中、別の声が割り込んでくる。
それは、アピラの正面にいた人物のもの。顔が見えるように、アピラは横にずれた。
その顔を見て、俺は、一瞬黙り込み……その顔を、思い出す。
「り、リーズレッタ、さん!?」
「どうも、レイ様」
そこにいた人物……その顔を見て、俺は驚いた。
これは、アピラがあんな声を上げるのも、確かに納得だ。
顔見知り……それも、俺とアピラ共通に、記憶に深く残っている人物。
リーズレッタさんが、そこにいた。レポス王国ではない、この場所に。
一瞬、誰だかわからなかった。
だってそうだろう、彼女と別れてから……あれからもう、十三年になるだろうか。
それだけの時間があれば、人は、変わる。
「お、驚いたな……また、会うなんて」
「私もです」
うっすらと微笑む彼女は、女性としての魅力がはるかに上がっていた。
長かった白髪を、肩付近でバッサリと切っていた。今は、セミロングヘアといった髪型だ。
凛とした佇まいはおとなしさを見せ、どこか落ち着いた雰囲気を見せていた。
だが、彼女への注意点を引くものは、他にある。あの頃と変わった容姿もそうだが、それ以上に……彼女のお腹が、ぽっこりと膨らんでいた。
「その、お腹……」
「えぇ、赤ちゃんがいるの」
その告白に、アピラは「きゃっ」と短く歓喜の悲鳴を上げた。
俺も、驚いた……リーズレッタさんは、妊娠していたのだ。彼女は少し、気恥ずかしそう。
ということは、そうか……結婚、したのか。十三年だもんな、そりゃそうか。
「おめでとうございます、リーズレッタさん」
「おめでとう!」
「ふふ、ありがとう」
思わぬ再会。できれば、ゆっくりと語らいたいが、そうも言っていられない。
ここは料理屋で、俺は店主で、彼女はお客様だ。旧知の仲でも、店をほっぽっておくわけにはいかない。
……そう思っていたが、タイミングがいいというべきか、客足が減ってきた。
それに……
「ここは俺らに任せてくださいよ!」
他の従業員たちが、自分たちがやっておくのでと、俺たちに自由な時間をくれた。
まだ数日の付き合いなのに、いい人たちだ。近々ボーナスをあげよう。
ということで、空いている席に座る。リーズレッタさん、その隣にアピラ。正面に俺だ。
リーズレッタさんが頼んだのはパスタで、作ったのはアピラだ。
「……うん、おいしい」
「よかった」
アピラの作った料理は好評のようだ。嘘偽りのない笑顔に、アピラも嬉しそうだ。
食事中、俺たちはたくさんの話をした。お互いのことを、話し合った。
リーズレッタさんは、今から三年前にレポス王国の兵士をやめたらしい。
理由は……いわゆる
『好きです! 私と結婚を前提にお付き合いを!』
とある旅人がリーズレッタさんに一目惚れし、何度もアプローチをかけたらしい。
当初、自分にアプローチしてくれる男性がいることに嬉しく思いつつも、誘いを受けるつもりはなかったらしい。
だが、日々続く猛烈な熱意に、次第にリーズレッタさんも折れ……最終的には、プロポーズを受け入れた。
リーズレッタさんが兵団をやめることに、誰もが賛成していたわけではないし、多少の反対はあった。
だが、リーズレッタさんの部下や、未だ現役として兵士をやっているガルドローブさんの後押しもあり、兵士をやめたのだという。
優秀な兵士だが、強い反対もなかったのは、最近は治安も良く、兵士が活躍する機会が少なくなっているかららしい。
その後、リーズレッタさんはその旅人とレポス王国を出て、俺とアピラのように各地を旅して回っていたようだ。
「けど、子供ができたの。だから、この国に住むことになって……今では、新居だってあるのよ。今度遊びに来て」
「うん、行こうレイさん!」
「あぁ、必ず」
リーズレッタさんは、自分の幸せを見つけたんだな。
あの時、俺に告白してくれた女性が、今や一児の母になろうというのだ。
なんだか、不思議な気分だ。
「レイ様とアピラちゃんは、相変わらず旅を続けているのね?」
「えぇ。ていうか、いい加減レイ様はやめてくださいよ」
「あは、なんだか癖で……喋り方も、なんだか少し変かも」
久しぶりに会って、お互いに距離感を掴みそこねているのか。
しかし、アピラだけは平常運転だった。
「でも、リーズレッタさんが幸せなら、よかったよ〜。私、ずっと気にかかってて」
「それを言うなら、私もよ。まさかこんなに大人っぽくなってるなんて……あのアピラちゃんが、『スキル』を授かって、なんだか不思議だわ」
「ふふん! 私ももう、立派な大人なんだよ!」
「ふふ、そうね」
変わらないアピラの様子に、リーズレッタさんも安心したようだ。
それから、なぜか俺とアピラとを、チラチラと交互に見つめていた。
「それで、その……二人はもう、付き合ってるのよね?」
「ま、まあ……」
「ふーん。まさか、かつて自分が好きだった人と、妹みたいに感じていた子が、ねぇ」
「……あげませんよ?」
「あっはは、もう吹っ切れてるわよ!」
俺とアピラは、付き合っている……
いくら『スキル』の問題もあるとはいえ、自分を振ったくせに他の女とくっつくなんて、とリーズレッタさんは思っていないだろうか。
そんな心配もあったが。
リーズレッタさんはもう吹っ切っているようで、笑い飛ばしてくれた。
「でも、レイ様も気をつけないとだめですよ?」
「と、いうと?」
「だって、アピラちゃんこんなに美人になっちゃって。きっと、たくさん声をかけられているわよ?」
ぅ……なかなか、痛いところを突いてくるな。
そう、リーズレッタさんの言ったように、アピラは実際、他に数多くの男から声をかけられている。
しかも、隣に俺がいてもお構いなしに、だ。
きっと、俺のこと、弟がなにかだと思われているのだろう。
だが、アピラはそんなことは、気にしない。
「大丈夫ですよ、私はレイ一筋だから」
「お、ヒューヒュー」
「いやどんな冷やかしだよ」
「確かに、しつこく声をかけてくる人もいるけど……そういうときは、こうするの!」
と、アピラは立ち上がり、俺の隣にやって来る。
そして、俺の腕を抱きしめ、ニコリと笑顔を浮かべて、言うのだ。
「この人が、私の大切な人です、ってね!」
「果報者ねぇ、レイ様は。大切にしないと、だめよ?」
「もちろん、わかってるよ」