死なない体。それで自分の体を無頓着に思われるのは、嫌だ。
本当にわかってくれたのかはわからないが、アピラはこれ以降目に見えて危険な行動はやめてくれた。
実際にはありえないことだが、俺がアピラを嫌うというのは、アピラにとっては耐えられないらしい。
長い、二人旅。時間は無限にある。
野宿をしたり、宿を取ってそこで寝たり……一日中歩くだけで終わってしまったり、商売に追われてあっという間に過ぎてしまったり。
行動自体は、これまでと変わらない。
だが、誰かと一緒に居るということが、こんなにも心地よいものだと……実感した。
「よし、アピラ、今日も一日頑張るか!」
「はい! やってやりますよー!」
――――――
…………アピラが"不死"の『スキル』を授かったあの時から、十年ほどの時が経った。
俺とアピラは今、とある国で商売をしている。俺は何度か来たことはあるが、アピラは初めて。
目を輝かせて、その場で飛び跳ねん勢いであった。
俺は何度も来たとはいっても……同じ場所にたどり着くのは、長い年月をかける。それだけの年月が経てば、以前訪れたときとは大きく変わっていく。
物珍しさに興味惹かれるのは、なにもアピラだけではない。
十年の時が経つ間に、四度ほど場所を転々とした。
長く居座った場所もあれば、俺やアピラの『スキル』が狙われ騒ぎが大きくなってしまう前に、さっさと発った場所もあった。
「賑やかな国だね、レイ!」
俺に背中を見せながらはしゃぐアピラは、その場に立ち止まり、上半身を振り向かせ、俺に笑いかける。
これまでアピラと訪れたどの場所よりも、人の賑わいが活発だった。
アピラは、二十五歳になったばかりだ。
本当は豪勢に祝ってやりたかったのだが、この国に向けての旅路中だったため、ささやかなお祝いしかできなかった。
アピラは、それで充分と言ってくれたが。
この十年で、アピラは美しくなった。髪も背も伸び、肉体的な成長はまだ少しずつはあるようだ。
「わぁー、見て見てレイ!」
それと、変わったといえば喋り方。昔は、俺の名前にさん付けだったり、敬語だった。
だが、いつからかそれをやめ、俺をレイと呼び、より親しく語りかけるように、なった。
これで対等な立場だ、とでも、言わんばかりに。
「じゃ、宿を見つけるか。そんで、今後の方針を決める」
「おー!」
何度も繰り返していれば、アピラも最初にやるべきことがなにか、わかってくる。
宿を見つけ、店を出す場所を探し、今後の方針を決める。面倒でもある作業だが、アピラは楽しいと笑っていた。
今でも宿の部屋は二人部屋を一つだ。
俺たちは想いを伝えあったとはいえ、健全な付き合いをしている。なので、ベッドも二つ。
宿を決め、食事を取る。食事中や、食後に軽く今後の方針を話し合う。
そして、次の日からは早速、開店の準備だ。
「レイさん、今回はなにをするの?」
これまで四度場所を変えてきたが、最初の二度はアピラに慣れさせるために同じ薬屋をした。
薬の調合なども、教えるためだ。
その後の二回は、違うことをやった。薬屋だけでなく違うこともやるんだと、アピラは戸惑うどころかウキウキしていた。
そして、あっという間に覚えていくのだ。物覚えがいいな。
「さて、今回は、料理屋をやろうと思う」
「わー、やったー!」
今回やるのは、料理屋。
以前から、アピラにご飯を作ってもらう機会が増えたのだが、これがなかなかうまいのだ。アピラの料理も店頭に出せば、売れること間違いなしだと思う。
人前に出せる腕前はあると思うし、アピラもやる気だし。
当初の予定通り、料理屋をやることになった。
場所は、運がいいことに大通り。
空き家となっていた建物もそれなりに広く、アピラの他に従業員を雇ってもいいかもしれないと思えるほどだ。
そして、一日を店内の準備、メニューの考案などに費やし……いよいよ、開店の日を迎えた。
「さあ、いらっしゃいませー!」
新しく開店した、料理屋。しかも、呼び子を請け負ってくれたのはアピラだ。
贔屓目なしに、美人へと成長したアピラが表に立つ。彼女がお客を呼んでくれれば、それだけでもかなりの集客を見込める。
だが、ずっとアピラに呼び子をさせるわけにもいかない。
最初の数分だけ呼び込んでもらい、ある程度のお客が集まってきたところで、俺の手伝いをしてもらう。
最初のうちは、興味本位で来る人たちばかりであまり多くはないからな。
「どうぞー!」
そうして、お客に料理を提供していく。
どうやら好評だったようで、評判は評判を呼び、またたく間にお客は増えていく。
数日が過ぎた頃には、かなり有名な料理屋となっていた。ありがたいことだ。
いろんな人たちの、喜んでいる顔を見ていくというのは、やはりいいものだ。
……そんな、ある日だ。俺は、予想もしなかった出会いを、いや再会を果たすこととなる。
「いらっしゃいませー!」
商売がうまくいっているので、数人の従業員を雇った。アピラの負担も少しは減っただろう……
そんなアピラの明るい声が、このときも響いていた。
その、直後のこと。
「えぇっ!? …………れ、レイー! ちょっと来てー!」
と、なにかに驚いたかのように金切り声を上げるアピラ。
俺を呼ぶその声は、驚きはあるがそこに喜びの感情が混ざっているように感じる。クレーマー登場とかでは、ないようだ。
調理を任せ、俺はアピラの所へ。
アピラが来るわけではなく、わざわざ俺を呼ぶなんて……いったい、なにが……?