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第46話 それからの日々



 死なない体。それで自分の体を無頓着に思われるのは、嫌だ。


 本当にわかってくれたのかはわからないが、アピラはこれ以降目に見えて危険な行動はやめてくれた。

 実際にはありえないことだが、俺がアピラを嫌うというのは、アピラにとっては耐えられないらしい。


 長い、二人旅。時間は無限にある。

 野宿をしたり、宿を取ってそこで寝たり……一日中歩くだけで終わってしまったり、商売に追われてあっという間に過ぎてしまったり。


 行動自体は、これまでと変わらない。

 だが、誰かと一緒に居るということが、こんなにも心地よいものだと……実感した。


「よし、アピラ、今日も一日頑張るか!」


「はい! やってやりますよー!」



 ――――――



 …………アピラが"不死"の『スキル』を授かったあの時から、十年ほどの時が経った。


 俺とアピラは今、とある国で商売をしている。俺は何度か来たことはあるが、アピラは初めて。

 目を輝かせて、その場で飛び跳ねん勢いであった。


 俺は何度も来たとはいっても……同じ場所にたどり着くのは、長い年月をかける。それだけの年月が経てば、以前訪れたときとは大きく変わっていく。

 物珍しさに興味惹かれるのは、なにもアピラだけではない。


 十年の時が経つ間に、四度ほど場所を転々とした。

 長く居座った場所もあれば、俺やアピラの『スキル』が狙われ騒ぎが大きくなってしまう前に、さっさと発った場所もあった。


「賑やかな国だね、レイ!」


 俺に背中を見せながらはしゃぐアピラは、その場に立ち止まり、上半身を振り向かせ、俺に笑いかける。

 これまでアピラと訪れたどの場所よりも、人の賑わいが活発だった。


 アピラは、二十五歳になったばかりだ。

 本当は豪勢に祝ってやりたかったのだが、この国に向けての旅路中だったため、ささやかなお祝いしかできなかった。


 アピラは、それで充分と言ってくれたが。

 この十年で、アピラは美しくなった。髪も背も伸び、肉体的な成長はまだ少しずつはあるようだ。


「わぁー、見て見てレイ!」


 それと、変わったといえば喋り方。昔は、俺の名前にさん付けだったり、敬語だった。

 だが、いつからかそれをやめ、俺をレイと呼び、より親しく語りかけるように、なった。


 これで対等な立場だ、とでも、言わんばかりに。


「じゃ、宿を見つけるか。そんで、今後の方針を決める」


「おー!」


 何度も繰り返していれば、アピラも最初にやるべきことがなにか、わかってくる。

 宿を見つけ、店を出す場所を探し、今後の方針を決める。面倒でもある作業だが、アピラは楽しいと笑っていた。


 今でも宿の部屋は二人部屋を一つだ。

 俺たちは想いを伝えあったとはいえ、健全な付き合いをしている。なので、ベッドも二つ。


 宿を決め、食事を取る。食事中や、食後に軽く今後の方針を話し合う。

 そして、次の日からは早速、開店の準備だ。


「レイさん、今回はなにをするの?」


 これまで四度場所を変えてきたが、最初の二度はアピラに慣れさせるために同じ薬屋をした。

 薬の調合なども、教えるためだ。


 その後の二回は、違うことをやった。薬屋だけでなく違うこともやるんだと、アピラは戸惑うどころかウキウキしていた。

 そして、あっという間に覚えていくのだ。物覚えがいいな。


「さて、今回は、料理屋をやろうと思う」


「わー、やったー!」


 今回やるのは、料理屋。

 以前から、アピラにご飯を作ってもらう機会が増えたのだが、これがなかなかうまいのだ。アピラの料理も店頭に出せば、売れること間違いなしだと思う。


 人前に出せる腕前はあると思うし、アピラもやる気だし。

 当初の予定通り、料理屋をやることになった。


 場所は、運がいいことに大通り。

 空き家となっていた建物もそれなりに広く、アピラの他に従業員を雇ってもいいかもしれないと思えるほどだ。


 そして、一日を店内の準備、メニューの考案などに費やし……いよいよ、開店の日を迎えた。


「さあ、いらっしゃいませー!」


 新しく開店した、料理屋。しかも、呼び子を請け負ってくれたのはアピラだ。

 贔屓目なしに、美人へと成長したアピラが表に立つ。彼女がお客を呼んでくれれば、それだけでもかなりの集客を見込める。


 だが、ずっとアピラに呼び子をさせるわけにもいかない。

 最初の数分だけ呼び込んでもらい、ある程度のお客が集まってきたところで、俺の手伝いをしてもらう。

 最初のうちは、興味本位で来る人たちばかりであまり多くはないからな。


「どうぞー!」


 そうして、お客に料理を提供していく。

 どうやら好評だったようで、評判は評判を呼び、またたく間にお客は増えていく。


 数日が過ぎた頃には、かなり有名な料理屋となっていた。ありがたいことだ。

 いろんな人たちの、喜んでいる顔を見ていくというのは、やはりいいものだ。


 ……そんな、ある日だ。俺は、予想もしなかった出会いを、いや再会を果たすこととなる。


「いらっしゃいませー!」


 商売がうまくいっているので、数人の従業員を雇った。アピラの負担も少しは減っただろう……

 そんなアピラの明るい声が、このときも響いていた。


 その、直後のこと。


「えぇっ!? …………れ、レイー! ちょっと来てー!」


 と、なにかに驚いたかのように金切り声を上げるアピラ。

 俺を呼ぶその声は、驚きはあるがそこに喜びの感情が混ざっているように感じる。クレーマー登場とかでは、ないようだ。


 調理を任せ、俺はアピラの所へ。

 アピラが来るわけではなく、わざわざ俺を呼ぶなんて……いったい、なにが……?

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