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第45話 世界を見て回りたい



 ……俺とアピラは、想いを通じ合わせた。その後、気絶した男たちを縛って固定。

 そのままにして、村に帰還。場所を伝えて憲兵に突き出した。

 どうやら人攫いの部類の人間たちだったようで、これまでにも数多くの被害を出していた。


 アピラの胸元は、矢を引き抜いても痕が残ることはなかった。

 引き抜く瞬間痛そうにしていたから、痛みはあったのだろう。だが、それが命を脅かすことには繋がらなかった。


 "不死"というのは、傷痕も残らないものなんだろうか。それとも、傷薬のおかげだろうか。

 結局、薬草を取ってくることはできなかった。だが、仕方ない……また、次の機会にしよう。

 ストックがなかっただけで、今日明日どうしても必要、というわけではないのだ。


「ふぁ……なんか、眠いや」


「あぁ、もう今日は休みにしようか」


 結局、夜通しをかけて戦ったりと、命のやり取りをした。村に戻ってきた頃には朝日が登り始めていた。

 予期せぬ徹夜になってしまい、俺もアピラも眠気が限界だった。


 なので、急遽店を休みにして、その後は寝た。まるで泥のように、眠り……次に目を覚ましたときは、夕方だった。

 すっかり、ぐっすりと眠ってしまったようだ。


 あまり深くは考えていなかったが、今日は一緒のベッドで眠ってしまったようだ。

 隣を見ると、俺の横腹にぎゅっとしがみつくようにして、アピラが眠っていた。


「……」


 こうして見ていると、とても一度死にかけたようには見えない。穏やかな、寝顔だ……

 見ているこっちまで、安心する。


 ……それからの俺たちの関係は、大きく変わった……わけではない。

 確かにあの夜、想いが通じ合ったわけだが、お互いになにを言うわけでもなく、日々を過ごしていった。


「レイさん!」


「なんだ、アピラ」


「えへへ、なんでもないです」


 それでも、お互いの距離が前より縮んだのは、感じていた。


 それに、俺たちの生活スタイルが変わるわけでもない。数年おきに、居住を移動する……これは、変わらない。

 その理由として、俺自身の問題の他に、アピラのこともあるからだ。


 "不老"とは別に"不死"の『スキル』。

 それは、永遠の命を得るというもの……人によっては喉から手が出るほどに欲しいものだろう。


「もしかしたら、アピラを捕まえて、解剖して調べよう、みたいな奴が現れてしまうかもしれない。

 ……いや、脅かしてごめん。泣くなって」


 死なない、ということは、なにをすることも可能……ということだ。死んだ方がマシ、ということをされるかもしれない。

 アピラに、そんなことをさせるわけにはいかない。


 それに……


「私、世界を見て回りたいです!」


 これまで通りの生活スタイルで、世界を回ることを伝えると、アピラはこう答えた。

 自分の特異な『スキル』が狙われる可能性を考えているのかはわからないが、異論がないなら、今まで通りでいこうと思う。


 というわけで、その後数年を同じ村で過ごすことにした。命を狙われたのだ、すぐにも移動するべきなのかもしれないが……

 狙ってきたのが、ただの人攫いだという点から、滞在に決めた。


 襲ってきたのが例えば王族の命を受けた誰か、とかなら考えただろう。


「いらっしゃいませ」


 人々とそれなりに交流しながら、商売をして、暮らしていく……

 これまでと同じだが、違うのは、アピラという一人の人物がいるからだろう。


 アピラは、あの告白以降好きだと口にすることは少なかったが、代わりにスキンシップが増えた。

 が、それは手を繋ぐとかそういうもので、いきなり抱き着いてきたりとかは、しない。


 ……いや、たまにしてくる。


「ふふ、なんだか、二人ならなんだってできそうですね!」


 たまにアピラは、そんなことを言う。俺と居れることが嬉しいのだろうか……俺だって、アピラと一緒ならなんだってできそうな気がする。

 それに、アピラはその言葉通り、俺のためになんでもしてくれている。


 ……それが、一つの悩みの種だ。なぜなら、村を発ってしばらくのこと。

 旅をしている最中、以前と同じように俺のことを狙ってくる連中がいるのだが……俺が危ないとわかるや、自分の身を盾にして、守るのだ。


 文字通り、身を盾に、だ。


「だって、私死なないですし……」


「そういう問題じゃ、ない!」


 ……どうやらアピラは、自分の命の重さを重要に考えなくなってしまったようだ。

 死なない、死ぬような痛みはあってもすぐに元に戻る……そうした要因が、アピラの行動を軽くさせていた。


 もちろん、普通の人間でも、死ぬほどの傷を負っても死なないこともある。

 そうした場合は、傷薬で回復するわけだが……


 俺としては、自分の身を盾にする行動はやめてほしい。

 そりゃ、俺のために身を張ってくれるのは嬉しい。それだけ俺を想ってくれているのだと、わかる。


 だが、実際に身を張ってほしくなどないのだ。


「そんなに命を軽々しく思ってるなら、アピラのこと嫌いになってしまうぞ」


「……わかりましたよ」


 いくら死なないとわかっていても、だから無駄に痛がっていいわけではないだろう。

 そりゃ、アピラに助けられなければ俺も危ない場面はあった。が……それはそれ、これはこれだ。

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