……俺とアピラは、想いを通じ合わせた。その後、気絶した男たちを縛って固定。
そのままにして、村に帰還。場所を伝えて憲兵に突き出した。
どうやら人攫いの部類の人間たちだったようで、これまでにも数多くの被害を出していた。
アピラの胸元は、矢を引き抜いても痕が残ることはなかった。
引き抜く瞬間痛そうにしていたから、痛みはあったのだろう。だが、それが命を脅かすことには繋がらなかった。
"不死"というのは、傷痕も残らないものなんだろうか。それとも、傷薬のおかげだろうか。
結局、薬草を取ってくることはできなかった。だが、仕方ない……また、次の機会にしよう。
ストックがなかっただけで、今日明日どうしても必要、というわけではないのだ。
「ふぁ……なんか、眠いや」
「あぁ、もう今日は休みにしようか」
結局、夜通しをかけて戦ったりと、命のやり取りをした。村に戻ってきた頃には朝日が登り始めていた。
予期せぬ徹夜になってしまい、俺もアピラも眠気が限界だった。
なので、急遽店を休みにして、その後は寝た。まるで泥のように、眠り……次に目を覚ましたときは、夕方だった。
すっかり、ぐっすりと眠ってしまったようだ。
あまり深くは考えていなかったが、今日は一緒のベッドで眠ってしまったようだ。
隣を見ると、俺の横腹にぎゅっとしがみつくようにして、アピラが眠っていた。
「……」
こうして見ていると、とても一度死にかけたようには見えない。穏やかな、寝顔だ……
見ているこっちまで、安心する。
……それからの俺たちの関係は、大きく変わった……わけではない。
確かにあの夜、想いが通じ合ったわけだが、お互いになにを言うわけでもなく、日々を過ごしていった。
「レイさん!」
「なんだ、アピラ」
「えへへ、なんでもないです」
それでも、お互いの距離が前より縮んだのは、感じていた。
それに、俺たちの生活スタイルが変わるわけでもない。数年おきに、居住を移動する……これは、変わらない。
その理由として、俺自身の問題の他に、アピラのこともあるからだ。
"不老"とは別に"不死"の『スキル』。
それは、永遠の命を得るというもの……人によっては喉から手が出るほどに欲しいものだろう。
「もしかしたら、アピラを捕まえて、解剖して調べよう、みたいな奴が現れてしまうかもしれない。
……いや、脅かしてごめん。泣くなって」
死なない、ということは、なにをすることも可能……ということだ。死んだ方がマシ、ということをされるかもしれない。
アピラに、そんなことをさせるわけにはいかない。
それに……
「私、世界を見て回りたいです!」
これまで通りの生活スタイルで、世界を回ることを伝えると、アピラはこう答えた。
自分の特異な『スキル』が狙われる可能性を考えているのかはわからないが、異論がないなら、今まで通りでいこうと思う。
というわけで、その後数年を同じ村で過ごすことにした。命を狙われたのだ、すぐにも移動するべきなのかもしれないが……
狙ってきたのが、ただの人攫いだという点から、滞在に決めた。
襲ってきたのが例えば王族の命を受けた誰か、とかなら考えただろう。
「いらっしゃいませ」
人々とそれなりに交流しながら、商売をして、暮らしていく……
これまでと同じだが、違うのは、アピラという一人の人物がいるからだろう。
アピラは、あの告白以降好きだと口にすることは少なかったが、代わりにスキンシップが増えた。
が、それは手を繋ぐとかそういうもので、いきなり抱き着いてきたりとかは、しない。
……いや、たまにしてくる。
「ふふ、なんだか、二人ならなんだってできそうですね!」
たまにアピラは、そんなことを言う。俺と居れることが嬉しいのだろうか……俺だって、アピラと一緒ならなんだってできそうな気がする。
それに、アピラはその言葉通り、俺のためになんでもしてくれている。
……それが、一つの悩みの種だ。なぜなら、村を発ってしばらくのこと。
旅をしている最中、以前と同じように俺のことを狙ってくる連中がいるのだが……俺が危ないとわかるや、自分の身を盾にして、守るのだ。
文字通り、身を盾に、だ。
「だって、私死なないですし……」
「そういう問題じゃ、ない!」
……どうやらアピラは、自分の命の重さを重要に考えなくなってしまったようだ。
死なない、死ぬような痛みはあってもすぐに元に戻る……そうした要因が、アピラの行動を軽くさせていた。
もちろん、普通の人間でも、死ぬほどの傷を負っても死なないこともある。
そうした場合は、傷薬で回復するわけだが……
俺としては、自分の身を盾にする行動はやめてほしい。
そりゃ、俺のために身を張ってくれるのは嬉しい。それだけ俺を想ってくれているのだと、わかる。
だが、実際に身を張ってほしくなどないのだ。
「そんなに命を軽々しく思ってるなら、アピラのこと嫌いになってしまうぞ」
「……わかりましたよ」
いくら死なないとわかっていても、だから無駄に痛がっていいわけではないだろう。
そりゃ、アピラに助けられなければ俺も危ない場面はあった。が……それはそれ、これはこれだ。