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第42話 レイとアピラの戦い



「アピラ!?」


 後ろから、刺さっているものは……矢だ。細い矢が、アピラの左肩を突き刺している。

 アピラも、俺も、森を抜けたことで油断していた。森の中から、狙撃されたのか?


 くそっ、情けねえ……!


「アピラ、こっちに!」


 アピラに引かれていた手を逆に引き、木を盾にするように隠れる。

 矢の刺さった角度からして、ここに隠れておけば大丈夫なはずだ。


 念のために、傷薬だけは持ってきていた。向こう側を警戒しつつ、薬をアピラの左肩に塗る。


「痛いけど、我慢してくれ」


「ん……っ!!」


 傷薬を塗るためには、突き刺さったままの矢を抜かなければいけない。

 なので、アピラには矢を抜いた衝撃を抑えてもらう必要がある。


 矢を、思いっきり引き抜く……アピラは、自分の服を噛み、激痛に耐えるように歯を食いしばった。

 すぐに、傷薬を塗り込んでいく。


 矢を抜いた瞬間にあふれ出す血。

 しかしこの傷薬は、血を固める作用がある。止血し、これ以上血が流れるのを防ぐ。


「ふ、ふっ……」


「よく頑張ったな、アピラ」


 傷薬を塗り込み、治療に成功。

 よし、これで、矢を受けた傷は癒えたはずだ。


 だが……


「見つけぜ、"不老"の」


 気づいた時には、すっかり囲まれてしまっていた。数にして九人……全員、武器を持っている。

 アピラの治療を優先させた結果、こいつらに追いつかれてしまったわけだ。


 かといって、アピラをあのままにしておくわけにも、いかなかった。


「こいつを捕まえれば、俺たちゃ大金持ちだぜ」


 リーダーらしきスキンヘッドの男が、笑う。

 この野郎、誰かに雇われたってわけじゃなさそうだ……俺を捕まえ、誰でもいいから金持ちに売る。そういう考えだ。

 知識を欲しがっている金持ちなんて、腐るほどいるからな。


 囲まれてしまったが……こんな状況、いくらでもあった。

 その度に、俺は切り抜けてきた。


「……レイさん、私、やれます」


「……無理はするなよ」


 小声で、アピラが話しかけてくる。傷薬を塗ったため血は止まった、

 とはいえ、まだ少しは安静にしておいてほしいところ……だが、そうも言っていられない状況だ。


 せめて自分の身だけでも守ってくれれば、楽になる。あまり無理はしないように告げ、アイコンタクトを送る。

 互いにうなずき、俺はまず正面の、スキンヘッド男に突っ込む。


 男は動揺することなく、手にしていた槍を構える。

 この距離で、長い得物……よほど、扱いに自信があるのだろう。リーチ内に飛び込めば、あの槍の餌食になってしまうわけだ。


「お、らぁ!」


 突っ込む……すると、予想通りに男は槍を突き出してくる。

 鋭い先端が俺の目を狙い、迫りくる……それを、俺は目に突き刺さる寸前で、右に体ごとずらし、槍をかわす。


 突っ込んできた相手に、槍を放てば相手は避けきれずに突き刺さる……そう、思っていたのだろう。

 俺の反応速度に、少し驚いた様子だ。だが、それだけ。


 俺が体をずらした右側から、別の男が二刀の短刀を振るい、迫る。

 腰を落とし、それもかわすが、髪の毛の先が切られる感覚があった。


「よっ!」


「!?」


 しゃがみこんだ勢いで、短刀使いの足元を払う。男はバランスを崩し、それを俺は見逃さない。

 男に体当りし、別の男に体ごとぶつけ、吹き飛ばす。


 スキンヘッド男が、背後から迫る。

 肩越しに男の動きを確認すると、槍を棒術のように振り回している。槍の先が掠った木々や草が切れていく。


「ったく、こういうの苦手なんだよ」


 丸腰の状態で、長い得物を相手にするのはよろしくない。リーチの差が、全然違うからだ。

 だが、この程度の差、なんてことはない。


「よっ、はっ」


 一歩一歩下がり、槍をかわしていく。しかし、かわしきれないものが頬や腕に、切り傷が刻まれる。

 このままでは、やられるのも時間の問題……そう、男は思っていることだろう。そこに、隙が生まれる。


 槍の先端……刃のついたそれを、俺は手掴みで、受け止める。

 刃を素手で受け止めたんだ、当然皮膚に刃が食い込み、手のひらから血が出る。


「っ……」


「なに!?」


 男も、それは予想外だったのだろう。動揺はさらなる隙を生む。俺は、それを見逃さない。

 男の手から、槍を強引に奪う。


「そら!」


「ぐっ……!」


 奪い取った槍、それを男の腹に打ち込む。刃のある部分を持ち、持ち手を打ち込んだのだ。

 本来の使い方ではない。だが、気絶させるだけならば充分だ。


「悪いな、俺は薬屋なんでね」


 手のひらはじくじくと痛む。だが、すぐに傷薬を懐から取り出し、それをさっと手のひらに塗り込む。

 傷は、みるみる塞がっていく。

 肉を切らせて骨を断つ……あまり使いたくない戦法だ。痛いから。


 その後、奪い取った槍で、他の連中も片付けていく。


「レイさん!」


「おー、アピラ」


 ざっと六人を倒した時には、アピラは駆け寄ってきた。

 アピラの方も、きっちりと他の男を倒している。恐ろしい子だよ、ホントに。


 なんにせよ、これで狙ってきた連中は撃退した。

 憲兵にでも、突き出すとするか。


 ……ん?


「そういえば、矢の……」


「! レイさん!」


 倒した連中……その中に、アピラの左肩に矢を放った人物が、いなかった。

 気づくのが遅すぎた……気づいた頃には、俺はアピラに突き飛ばされていた。


 そして、次に見たのは……俺の前で、アピラの胸元に、矢が突き刺さる場面だった。


「アピラー!!」


 ……吐血し、うっすらと微笑むアピラは……俺に手を伸ばすようにして、倒れていった……

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