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第33話 アピラとの生活の日々



 別の村での生活。アピラにとっては、初めての別の村。

 ここに来るまでの道のりは決して楽なものではなかったが、たどり着いた瞬間に疲れは吹き飛んだのだろうか。アピラは疲れを感じさせない様子だった。


 ただアピラには、怖い思いをさせた。

 野生の獣に関しては、獣除けの薬や、俺もそれなりに腕に覚えがあるから、大した脅威ではなかった。問題は、人だ。

 というのも、道中、野盗に襲われたのだが……それが、あろうことか顔見知りだったのだ。


 以前、俺が『スキル』"不老"の持ち主だと知り、俺が持つ知識を奪おうと、襲ってきた。

 その際、返り討ちにして命までは奪わなかったのだが、まさかあんな所で再会するとは。



『ひぃ!』



 おかげでアピラには、怖い思いをさせた。彼女を人質に取られないため、彼女の側にいたまま、戦ったが……

 守る者がいる戦いというのは、なかなかにキツいものがあるのだと、実感した。なんとか野盗は倒したが。


 その際、悪さができないように両手両足を折って放置しておいた。

 くっついたあとはわからないが、その時はその時だ。


 野盗の件。それでアピラは怖がりこそしたが、泣くことはなかった。

 むしろ……



『レイさんを守るために私も強くなりたい』



 なんて言う始末だ。心強いな。


 俺を守る云々はともかくとして、護身術は知っていても損はないだろう。

 そう思い、旅の最中にも護身術を教えることにした。

 アピラは小さい女の子だが、だからこそ覚えていて損はないのだ。


 ……そして、次なる目的地につき、宿を確保した今。


「うわぁ、広い!」


 今回借りた宿は、レポス王国で俺が借りていた宿よりも、なかなかに広いものだった。

 一人用ではなく、二人用の部屋にしたことを除いても、なかなかに豪華であった。

 村であるために国よりは小規模だが、なかなかいい場所だ。


 さすがに、別々の部屋にする余裕はなかったし、アピラも俺と一緒がいいと譲らなかった。

 まあ、アピラも女性っぽくなってきたとはいえ、まだ子供だ。間違いはないだろう。


 その日は、旅の疲れを癒やすためにも宿で休息。荷物を置き、食事をした。

 やはり、人の手で作られたご飯は温かくていい。アピラは、俺の作る獣飯もおいしかったと言ってくれたが、あれは料理と呼べるものではないしな。


「明日から、頑張らないとね!」


 ベッドは二つ。寝る直前、気合いたっぷりのアピラはそう言った。


 そう、別の場所についてから、やることは多い。

 商売を始めるための店となる建物の確保、店の準備、開店日時の計算など……やることが、たくさんだ。


 とはいえ、今日はさすがに疲れが溜まっている。

 久しぶりのベッドだし、アピラはすやすやとすぐに眠ってしまった。俺も、すぐに睡魔が襲ってきた。


「おはようレイさん! 私、今日から張り切っちゃうよ!」


「……朝から元気だな」


 アピラは、非常によくやってくれていた。


 初めての土地、知らない人々……環境が変わり、困惑しているはずだ。

 だが、それを感じさせないほどに明るい。俺が初めて、別の土地に足を踏み入れたとき、どんな気持ちだったっけ。


 アピラは、レポス王国のレポス教会にて、年下の世話をよくしていたという。

 そのおかげだろうか……店に来る客層は、初めのうちは子供が多かった。物珍しさからだろう。


「いらっしゃーい、今日も来てくれたんだねー!」


 そんな子供たちの相手を、アピラはしてくれていた。子供の相手なら任せて、と言わんばかりに。

 その結果として、子供たちの親へと話は繋がり、人伝に評判は広がっていく。


 店を開いて数日としないうちに、あっという間に店にお客が押し寄せるようになった。

 そして、閉店すれば宿に帰り、休む。そんな日々の繰り返しだ。充実していた。

 アピラにも、無理をしてないかを聞いてみると……


「なんでだろ、ちっとも疲れないんだよね。四六時中、レイさんと一緒だからかな!」


 白い歯を見せ、にししと笑いながら、そんなことを言ってくれる。

 考えてみれば、レポス王国ではアピラは教会暮らしだった。教会と店とを、行き来していたのだ。


 だが、今は違う。同じ宿に泊まり、店に行き、帰ってくる。

 だから、こうして一緒にいれる時間は、アピラと出会ってから数年越しに叶ったものである。


「いらっしゃいませー!」


 翌日も、その翌日も、そのまた翌日も。アピラは、よく働いてくれた。

 最初は呼び込みだけだったのを、だんだんと掃除、品出し、レジ会計などと、ものを覚えていった。


 俺の方は、今更成長なんてしないが……なんていうか、最近手記に書くことが増えたような気がする。

 村を獣の大群が襲ってきたが追い払った話。

 盗賊が金品を盗みに店に侵入したがアピラが捕まえた話。


 アピラに気がある男の子が俺に、



『アピラちゃんをください!』



 なんてことを言ってきた話。どれも、いい思い出だ。


 特に、アピラに想いを寄せる男の子の話。獣人の子供で、犬耳が生えていた。

 少しモフらせてもらった。


 あの告白は、なんというか不思議な感じだったな。まるでアピラの父親になった気分だった。

 お前に娘とかやらん、とか言ってみたかった。だって、俺にも子供、レニィはいたが……我が娘は、男っ気がまったくなかったのだ。


 まあ、俺はアピラの保護者という点では正しいかもしれないが……父親ではないし、アピラもなんだかんだ子供ではない。

 結局は本人の気持ちが大事だ。それを男の子に伝えたところ、なんと翌日に告白し……



『ごめんなさい』



 見事に、玉砕したらしい。

 絶望した表情を浮かべた彼に、俺は、アイスを奢ったんだったかな。


 アピラと出会ってから、ただ書くことが義務化しつつあった手記が、書くのが楽しみになった。

 一日の終わりに、印象深かった出来事を書き連ねる。


 誰に見せるものでもないし、なんのために書いているのか。

 思い出に浸るため……ろくな思い出は、ないのではないか。そんな毎日を、アピラが塗り替えてくれた。

 今日も楽しい出来事があったのだと、教えてくれた。


「レイさーん、お客様が呼んでますよー!」


「あぁ、わかった」


 今日も今日とて、時間は流れる。

 一日が始まり、忙しない時間を過ごし、そして一日が終わっていく。忙しくも、充実した日々。


 いつしか、アピラが居るのが当たり前になっていた。

 だが、その生活もそろそろ終わりにしなければならない。


 この村に来て、二年以上が経過した。アピラももう、十四歳……成人、一歩手前となっていた。

 俺と、もう歳が変わらないほどに、成長していた。


 もう、いろいろと決めないといけない。……そう、思った。

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