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第32話 お別れと初めてのこと



 いつもならば、国を出れば、また、一人になる……

 しかし、今回は違う。


「アピラは、知ってたのか。リーズレッタさんのこと」


「……うん」


 アピラは、俺が国を離れるというのを、いやだいやだと駄々をこね、ついてきた。

 大きくなったと思っていたアピラは、まだ子供だった。


 ……なんで、連れてきてしまったんだろうな。現在、アピラは十二歳。あと三年で、俺と同じ歳になる。

 そして、そのうちに歳を超す……そうなれば、いくら俺を慕ってくれているアピラだって……


「……っ」


 ……そうなる前に、離れればいい。それだけだ。

 嬉しいことを言ってくれたリーズレッタさんだって、きっと自分だけが歳を取っていくというのは、我慢できないこととなるだろう。


 これで、よかったんだ。アピラも、あと三年のうちに、アピラの方から俺から離れるようになるさ。


「アピラこそ、よかったのか?」


「もう、それ何回目?」


 アピラは、俺についてきた。ということは、当然これまでの暮らしを捨てることになる。

 教会で暮らし、できた友達。親同然に育ててくれた人たち。彼らとの、別れを意味していた。


 もちろん俺は、何度も確認した。それでいいのかと。だが、答えは一つだった。


「私の答えは、変わらないよ」


 ノータルトさんは、アピラが決めたことならと止めることはなかった。

 他の子供たちは、アピラとの別れを寂しがっていたが。


 ……今生の別れになるかもしれないのだ。アピラはそれを理解していたのだろう。

 一人一人と、長い時間抱き合っていた。


「後悔なんかするようなら、レイさんと一緒には行かないよ」


「……そっか」


 まだ小さいのに、覚悟が決まっているんだな、アピラは。

 正直、俺よりもよほど強いんじゃないかと思う。


「じゃあ、行こうか」


「うん!」



 ――――――



「はぁ、はぁ……」


「アピラ、無理しないでいいんだぞ」


「……大丈夫。レイさんは……」


「これでも、バカみたいな時間旅をしてきたし、鍛えてるからな。筋肉は嘘をつかない」


 ……旅の最中、アピラはよく息切れを起こしていた。

 活発な、遊びたい盛りの子供とはいえ、さすがに国の外に出て旅をする体力というのは、なかなかつくものではない。


 無論、疲労を回復させる薬もある。

 それを使えば、休憩なしに移動することもできるが……あまり、使いたくないのが本音だ。

 というのも、薬で疲労を飛ばす、という方法自体が、よろしくない。


 疲労回復薬は、確かに疲労を回復させる。だが、本来人の体というのは、眠ったり休んだり、自然と体が回復させるものだ。

 なんらかの理由で、どうしても徹夜をしなければならない時など、緊急の用事以外に使うことをおすすめはしていない。


「私、大丈夫だから!」


 アピラも、それがわかっているからか、薬を貰おうとはしなかった。

 それでも、自分からついていくと言った手前、俺にペースを合わせようとしている。


 ついていくためなら、俺の足手まといになるくらいなら……薬を使おうと考えるのも、遠くはないかもしれない。


「んー、おいしー!」


 旅の最中、宿などは当然ない。なので、野宿だ。

 同時に、食料も調達することになる。


 野生の獣を見つけ、仕留め、それを食べる。木の実などでもいいが。

 もう数え切れないほどの旅を繰り返してきたから、どんな獣が体力がつくか、どんな獣が食べても問題ないか、などはわかっている。


「レイさん、ご飯上手だよね! 作ってくれる料理おいしかったもん!」


「それなりに旅はしていたからな。ただ、これは料理なんて大層なものじゃないさ」


「三千年をそれなりって言うのはレイさんだけだよ」


 獣の丸焼き……ただ、焼いただけでなく調味料を加えるだけで、味は大きく変わる。


 これは、塩の味を再現した粉薬だ。

 世界とは広いもので、いろんな所を訪れ、いろんな草や木の実を調合し、作ったもので、元の世界のものの味に近づけることができる。


 薬は、人体を回復させるものだけではない。食用としても、あるものだ。

 ただ焼いただけの獣肉が、調味料一つで様々な味に変わる。

 俺がこの三千年、食に飽きを感じなかったのは、このおかげだろう。


「すぅ……」


「……」


 旅を始めた頃こそ、外で寝るということにアピラは抵抗感があったようだが、数日を過ごすうちに慣れたようだ。気持ちよさそうに、眠っている。

 こんなにも無防備にすやすやと。俺を、信頼してくれているんだろうな。


 夜は、獣が寄ってくる。

 だから、この獣除けの香りを放つ、薬……獣が嫌がるにおいを、出している。これを置いておけば、獣はにおいを嫌って寄ってこない。


 もちろん、人体に影響はない。一応見張りをしてはいるが、獣が寄ってくる気配はない。

 よって、俺も寝ることにする。


 いざとなったら、気配で目が覚める。これでも、危機察知能力にはそれなりの自信があるんだ。


「……すぅ」


 ……そうして、移動の日々が過ぎていく。数日が過ぎた。何日経ったのかは、数えていない。

 ただ、人が住んでいる場所が見えるまで、歩き続けるだけだ。


 そして、たどり着いた。

 レポス王国を出て、ようやく目にした別の村。村は、国よりも入りやすい。国だと、多くの場所で入国審査などがあるからな。


 これから数年は、この村で過ごすことになるだろう。

 アピラは、初めて見る別の村に、目を輝かせながらキョロキョロしていた。旅人であると、バレバレだな。


 こうして、俺と共に旅をしてくれる誰かと別の場所を訪れるなんて……初めての、ことだ。

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