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第28話 白髪の彼女はお礼がしたい



 他のお客さんの対応をしている間、アピラがリーズレッタさんと話をしていた。こうして見ていると、まるで姉妹のようだ。

 というか、以前のリーズレッタさんとは装いが違うのに、よくアピラはすぐに彼女だとわかったな。


 子供は案外、見た目以外で人を見ているのかもしれないな。


「えーっと、この薬はですね……」


 ……そうして、お客さんの足取りも、落ち着きを見せてきた頃。


「お待たせしました」


「あ、いえっ」


 アピラと話をしていたリーズレッタさんは、俺に振り向くと照れた様子で、うつむいていた。

 この人、こんな女の子っぽい感じだったっけ。いや女の子ではあるんだけどさ。


 やっぱり、鎧を着ている、脱いでいるで、公私混同を分けているのだろうか。立派な人だ。


「それでお姉ちゃん、まじゅつ師さんにお礼しに来たんだよね!」


「あ、アピラちゃんっ」


 なにを言おうか、もじもじしていたリーズレッタさんだが、その背中をアピラが叩く。

 ただし、背が足りないのでぴょんぴょんと飛び跳ねている状態だ。ちょっと微笑ましい。


 しかし、お礼と言われてもな……いらないとは言うが、結局それだと納得してくれそうにないし。

 とはいえ、別になにが欲しいわけでもない。お礼の言葉なら、充分いただいたし。


 うーん……


「じゃあ、今晩なにかご馳走してもらう、っていうのはどうだろう」


「えっ?」


 考えた結果、晩ご飯をご馳走してもらうことを思いついた。あんまり難しく考えすぎても、結局ジリジリと引きずってしまいそうだし。

 ならばいっそのこと、食事をご馳走してもらうことで精算してもらおう。


 その提案に、リーズレッタさんは少し悩んでいたが、軽くうなずくようにして、納得した。

 自分の望んだお礼とは違うが、俺から提案されたものを、拒否することはできないってとこだろう。


「わかりました。でも、本当にそんなことでいいんですか?」


「あぁ。むしろ、リーズレッタさんのオススメを頼むよ」


 そんなわけで、閉店後、リーズレッタさんのお礼として食事に行くことに。案内されたのは、あまり高そうにはない一軒のお店。

 高そうにない、というのは見た目の話で、別にリーズレッタさんが高いのを奢りたくないわけではないだろう。


 なんというか、趣がある……長年やってるお店って感じだ。彼女のオススメなのだろう。


「いらっしゃい。お、リーズちゃんじゃないか」


「こんばんは。おじさん」


「今日は非番かい。なんだ、彼氏連れてデートか」


「かっ、ち、違いますっ」


「え、子供……まさか、子連れかい!? 旦那さ……」


「ち、違います!」


 店主とは知り合いなのだろう、気さくに話している。常連なのか、他のお客さんとも知り合いのようだ。


 人の数はまばらなため、適当に席に座る。

 四人テーブルで、俺の隣にアピラ、正面にリーズレッタさんだ。


「このお店のオススメは、これです!」


 言って、リーズレッタさんがメニューを開き、ある料理を指差す。

 この世界に写真というものはないため、絵が描いてある。それは、ラーメンのようなものだった。


 リーズレッタさんのオススメということで、それを三人分注文することに。

 アピラは量が半分の、小さいのにしてもらう。


 料理が出来上がるまでの間、別のお客さんから話しかけられたリーズレッタさんは、少しからかわれたりしていた。

 その男は彼氏かとか、そんな小さな子供がいたのかとか。


 リーズレッタさんは、顔を赤くしながらも否定していく。その都度笑いが起きるあたり、どうやら彼女は人々に愛されているらしい。いいことだ。


「へい、お待ち!」


 しばらくして、出されたどんぶりに入っていたのは、絵に描いてあったのと同じ、スープとその中に入れられた麺だ。

 さらに、肉や卵、ネギも入っている。うん、これラーメンだわ。


 この香りは、醤油ラーメンに近いな。濃い色なのに、レンゲで掬えば透き通るようなスープ……それを飲むと、口の中に広がる温かい味。

 うん、醤油スープだ……おいしい。


 次に、箸で麺を取り、一気にすする。

 細い麺は柔らかく、つるつると喉の奥を通っていく。スープの味が染み込み、これは箸が止まらない。


 ふと隣を見れば、アピラが夢中で麺をすすっていた。そんなに急いで食べなくても、料理は逃げないというのに。

 その光景がおかしくて、つい笑ってしまう。


「おいしいですよ、とても」


「本当ですか? よかった」


 俺の言葉に、リーズレッタさんはほっと胸を撫で下ろす。彼女の食べ方は実に上品で、レンゲでスープを掬い、その上に麺を絡ませ、口に運ぶ。

 うーん、どこぞの貴族みたいだ。


 しかし、うまいな。俺も、一人でいろいろ料理を試作する。

 その際、元の世界の知識を活かし、ラーメンなんかを作ったこともあったが……


 本場には、到底及ばないな。本場がどこかは知らないが。


「んん、うまい。うまい」


「喜んでもらえたなら、よかったです」


 俺の食べっぷりを見て、リーズレッタさんは柔らかく微笑んだ。以前の、凛とした顔とはまたえらい違いだ。

 こっちの方が、なんかリーズレッタさんらしい感じがする。


 その笑顔に、思わず見惚れてしまったが……それをごまかすように、どんぶりを持ち上げ、スープを飲む。

 うん、うまい……いい店を、教えてもらった。


 ちなみに隣では、アピラも俺の真似をしてどんぶりを持ち上げ、スープを飲んでいた。

 どんぶりを落としてしまわないか心配だったが、小さいどんぶりだったため、落とさずに済んだ。


「今日は、ありがとうございました」


「い、いえっ、こ、こちらこそっ」


 その日は、約束通り晩ご飯をご馳走になり……少し話をしてから、解散した。

 眠ってしまったアピラをおんぶして、帰宅した。

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