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第27話 後始末は任せた



「ここ、こんにちは!」


「いらっしゃいませ」


 ……それは、ある日のことだった。レッドドラゴンの件から、数日経った日のこと。今日も今日とて、それなりに店は賑わっていた。

 そんなある日の、昼下がり。


 店の扉を開ける人物が一人。お客さんだ。

 その女性は、一人だった。まあ別に、一人が珍しいわけではない。俺が彼女に目を引かれたのは、別の理由からだ。


 彼女は、肩まで伸びた美しい白髪を、ストレートに下ろしていた。顔立ちは少し幼いが、全体的にどこか大人っぽいい雰囲気を感じさせる女性だ。

 ふむ、どこかで見た顔な気がする……


 どこだったっけな。お店に来てくれたお客の一人?

 こんな美人さんなら、早々忘れるはずもないのだが……


「……あぁ、ひょっとしてガルドローブさんのとこの兵士さん?」


「は。はい! り、リーズレッタと申します!」


 思い出した。その女性は、ガルドローブさんの部下である兵士の一人だ。アピラが懐いていたから、よく覚えている。

 確か、"伝達"の『スキル』を持っているのだ。結局、その効果を味わうことはなかったが。


 すぐに気がつかなかった理由としては、前に見た時は、鎧姿だったから。

 それとは違い、今日は非番なのか、私服だ。……うん、なんか新鮮だな。


 明るいカーディガンを羽織り、短いスカートを履いている。とても、兵士には見えない。

 それに、髪型も違う。以前会った時は、ポニーテールにしていたのに。


 なんとまあ、髪型と服装で変わるもんだなあ。

 それに、顔も……火傷の痕は、すっかり消えている。


「その節は、お疲れ様」


「い、いえ、感謝するのは、こちらです。

 驚きました……まさか、レッド……」


「あー、その話はここでは」


 兵士の女の子、改めリーズレッタさんは、この前のことを話そうとするが……俺は、それを制した。

 ここには、他のお客さんもいるのだから。


 ……彼女ら兵士のみなさんを介抱したあの後。俺とガルドローブさんは、王子の命を受けレッドドラゴン討伐に向かった。

 まあ、二人での討伐は俺から言い出したことではあるんだが……その結果は、成功。


 レッドドラゴンは、氷像となり討伐は完了した。



『ほ、本当に……信じられない!』



 驚くガルドローブさんの表情は、面白かった。

 その後俺たちは、城に戻り、バカ王子に報告をした。


 当初信じなかったあのバカも、『スキル』"転送"により直接レッドドラゴンの姿を見に行った。

 氷像になったレッドドラゴンの姿を前に、顔を真っ青にして腰を抜かしていた。


 まさか、討伐に成功するとは思っていなかったのだ。



『こんな、ことがっ……!』



 その後は、痛快だった。

 ガルドローブさん他兵士のみなさんの前で、悔しそうな表情をしながらもバカは頭を下げ、数々の暴言を謝罪した。

 玉座に座りながらではあるが、そこは王子としての譲れないプライドやらあったのだろう。


 俺としては、床に土下座でもさせたかったが。

 ガルドローブさんや、他のみなさんもそれで満足だと言っていたので、それでよしとした。


「もも、申し訳ありません! 配慮が足りませんでした!」


「あはは」


 レッドドラゴンの話をしそうになったことに、ハッとなりペコペコと、頭を下げるリーズレッタさん。

 氷漬けになったレッドドラゴンがどうなったのかは、俺は知らない。後始末は国に任せたからだ。


 氷が溶ける前に粉々にしてしまったかもしれないし、どこかに保管しているのかもしれない。

 氷はしばらくは溶けないと言っておいたから、保管してからその後の用途は今も考えているのかもしれない。


 で、もちろん俺がレッドドラゴン討伐したことは黙ってもらっている。

 レッドドラゴン討伐を表沙汰にすれば勲章ものだし、とどめをさしたのが俺の調合した薬となればきっと薬屋の評判も上がる……とは言われたのだが。



『それは、遠慮します』



 拒否した。


 だって、レッドドラゴンを討伐したのは、俺の調合した薬なのだ。

 売り物として出していないものを、しかもレッドドラゴンを凍らせるほどのものを求められても、売れない。


 それに、そんな危険なものを作る俺の、他の薬は安全なのか、と思われかねないしな。


「ところで、今日はなんの……もしかして、以前俺がどこか怪我を見逃してましたか? 痛み出したとか」


「ちち、違います。今日はその……改めて、お礼をと、思いまして」


 さてリーズレッタさんは。

 お客さん……というよりは、お礼を言いに来ただけ、ということだろうか。そんなものは必要ないのに。


 レッドドラゴン討伐の件で、内々にでも褒章をという話になった。

 だが、俺はレッドドラゴン討伐を公にするつもりもなければ、褒章を貰うつもりもなかった。それに、謝罪だけが望みだと言ったのは、俺だしな。


 あの場で、褒美はいらないと言った以上、もうなにも受け取るつもりもない。


「改めて、ありがとうございました。私、いえ私たちは、みな救われました」


「そんな、大袈裟だよ」


「いいえ、魔術師様は、素晴らしい方で……」


「すいませーん、少し聞きたいんですけど」


「あ、はーい! ちょっとごめんね」


 やはり、真面目というか……責任感が、強いんだな。そんなに、気にする必要もないのに。

 お客さんに呼ばれたため、彼女に断り俺はその場から移動。アピラに対応を任せた。

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