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第24話 話し合いをしようじゃないか



 話がある。その一言で、場の空気が変わった。

 俺の真剣な空気を、感じ取ってくれたのだろうか。


「お話、ですか?」


「そう。実は、今から俺とガルドローブさんとで、レッドドラゴン討伐に行くことになって」


「……は?」


 なんの話かと覚悟していたらしい彼女だが、内容がないようだからだろう。

 まりの内容に、口を開けたままぽかん、と口を開けている。


 うん、まあ、そんな反応になるよな。さっきまできりっとしていた顔が、今や目を丸くしている。

 いきなり、早速レッドドラゴンを討伐に出掛ける、とか言われたらそうもなる。


 ただ、ついてこいとかは言わないので安心してほしい。


「えっと、実はですね」


 俺は、城であったことを話した。

 王子と会ったこと、思った以上に王子がバカだったこと、ガルドローブさんや生き残った兵士しまいには死んだ兵士に嫌な態度を取ったこと、勢いに任せて咄嗟に口をついて出てしまったこと、王子がとんでもなくバカだったこと。


 それを聞いて彼女は、両手で口元を覆った。


「そんな……我々の、ために……」


「俺が勝手に怒っただけだから。それと、王子のことめちゃくちゃ言ったのは内緒でね」


 他の兵士には、ガルドローブさんが同じく話をしていることだろう。本当なら、この女の子も同様に話をするつもりだった。

 この場にはアピラだけ連れてくるつもりだったが、アピラが妙に懐いてて離れなかったから、連れてくるしかなかったんだよな。


 それから、俺はアピラに向き直る。彼女は、黙って話を聞いていた。


「そういうわけだからアピラ。もう少しお留守番、できるか?」


「できる!」


「よし」


 話を聞いてはいても、きっとアピラにはレッドドラゴンの脅威はわからない。

 でも、それでいい。妙な心配をさせてしまうよりは、笑って見送ってくれた方がいい。


 それから俺は、アピラの頭に手を置く。


「ただし、もう兵士のみなさんをこき使っちゃダメだぞ」


「あい!」


 よし、いい返事だ。ちゃんと理解できたのかはともかく、賢い子だから大丈夫だろう。


 他のみなさんにも、アピラを甘やかさないように言っておかなければ。

 いくら恩人って言っても、やっていいことと悪いことがある。もちろんアピラには、恩着せがましくしてやろうという魂胆はないのだろうが。


 その間も、兵士の女の子は心配そうな表情を浮かべていた。


「じゃあ、もう少しアピラを頼みます」


「……本当に、二人だけで行かれるのですか? 私たち、まだ戦えます!」


「人数を増やしても、また怪我をするだけだよ。それに、知ってるでしょガルドローブさんの『スキル』。いざとったら、それで逃げます。死ぬことはないですよ」


「……」


 ついていきたい、と言われるのは予想の範疇だ。だが、俺は二人でレッドドラゴン討伐に行くと言った。

 ……それを抜きにしても、考えがある。


 これ以上の追及は、ガルドローブさんの『スキル』を盾に使わせてもらう。

 『スキル』"転送"により移動できるのは、ガルドローブさん含め三人。もちろん、数を分ければ多人数の移動も可能だろうが……目を離した隙に、誰かが死ぬかもしれない。


 それに、集中力を使うという話だ。途中で『スキル』を使えなくなったとしたら、どうなるか。

 その点、二人だけなら、その場からすぐに逃げることも可能だ。これは、決して死にに行く戦いではない。


「……わかり、ました。アピラさんのお世話は、任せてください」


「任せました」


 これにて、話し合いは終了。

 ガルドローブさんの方も、やはり反対意見はあったようだが、最終的にみんな折れてくれたようだ。


 というわけで、早速出発することにする。荷物として、回復薬と火傷薬を数個入れておく。

 後、他にも必要になりそうな薬を少々。これと、これと……お、あれも。


 レッドドラゴンとは、口から火を吐く生き物だ。なので、火傷薬こいつは必須アイテムとなる。

 他にも、生き物相手だからこそ使える薬もあるはずだ。


「では、いってきます」


「いってぁっしゃい!」


「ちゃんと、無事に帰ってきてくださいね!」


 アピラと、複数の兵士に見送られながら、俺はガルドローブさんの手を取る。

 "転送"か……それを持つ者にはこれまでにも会ったことはあるが、自分が"転送"してもらった経験は、あまりないな。

 一番最近だと、もう十年は前かもな。


「!」


「うん」


 一瞬、ガルドローブさんと目が合う。互いにうなずき、覚悟が出来ていることを確認。

 ……最後にみんなに力強くうなずいた直後、「行きます」とガルドローブさんの声。


 その直後……景色が変わる。

 まばたきの間に、今まで見ていた景色とはまったく違うものになっていた。


 目の先に広がっていたのは、荒野だ。緑などなく、荒れ果てた平地と言うべき場所。

 なんか、西部劇で出てきそうな荒野だ。建物なんかは見当たらないが。


 みんなの姿も、当然ない。

 ここにいるのは、俺とガルドローブさんだけだ。


「! レイ殿」


 そして、少し離れた所に……いた。

 岩影に、寝転がっているレッドドラゴンが。岩の影で、眠っているのかあれは。

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