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第22話 レッドドラゴン討伐にむけて



 ガルドローブさんの『スキル』は"転送"だと言う。

 それを使えば、バカ王子曰くレッドドラゴンを討伐するのは難しくはないだろうとのこと。


 しかし、ガルドローブさん本人はそれは、王子の買い被りだと言う。


「私の『スキル』で"転送"できるのは、自分自身。そしてこの両手に繋いだ人数二人だけなのです」


「二人だけ、ですか?」


「えぇ。私と直接、手を繋いでいないといけないようで」


 ガルドローブさんの『スキル』、その説明を聞いて、俺は考える。

 『スキル』が発動し、"転送"できるのはガルドローブさん本人と、彼が両手で触れていた人物のみ。

 本人含め計三人ということになる。


 つまりは……ガルドローブさんが手を繋いだ人間をAとして、Aがガルドローブさんと繋いでいるのとは逆の手で、別の人物Bと手を繋いだとしよう。

 すると、ガルドローブさんと直接手を繋いでいるAは、ガルドローブさんと共に"転送"できる。

 しかし、Aが手を繋いだB……つまり、ガルドローブさんと間接的に手を繋いだBは、"転送"されないということか。


「けど、それをどう勘違いするんです?」


 今の説明、王子に説明すれば勘違いすることはないように思う。

 いくらあんなバカでも、ちゃんと説明すれば理解する……はずだ。


「……王子は、レッドドラゴンを"転送"させ、遠くへと追い出せと言いました。

 しかし、私が"転送"できるのは、"転送"させる者の大きさにより変わってきます。レッドドラゴンほどの大きさともなれば、そう遠くへは"転送"させられません」


「ふむ」


 自らの『スキル』の欠点を語るガルドローブさん。

 "転送"には、対象の大きさにより距離の制限が出ると。人くらいなら、遠くに転送することが出来る。

 だけどあんまり大きなものだと、その距離も近くなってしまうようだ。


 やっぱり、『スキル』は便利なようでどこかしら欠陥のようなものが見えるなあ。

 というか、レッドドラゴンほどの大きさでも、"転送"自体はさせられるんだな。


「それに、自分が一度行った場所にしか"転送"させることはできません。且つ、集中力も必要となります。

 レッドドラゴンを"転送"させるにしても、どこに飛ばせばいいのか、集中力が乱れてとんでもない所に飛ばしてしまわないか……心配なのです」


 なるほど、だからさっき、ガルドローブさんは暗い表情になったわけか。

 レッドドラゴンを追い出すだけなら、手はなくはない。だがレッドドラゴンを追い出したとして、追い出した先でレッドドラゴンがまた別の脅威となるかもしれない。


 自分たちが助かっても、もしも他の場所で被害が出ることになれば?

 もし小さな村を襲おうものなら、死者はたくさん出る。村も壊滅する。それが嫌なのだろう、この人は。


 そして、その心配事を当然、王子に話しただろうが……

 あの王子なら、我が国に被害が出ないなら他がどうなろうと構わん、とか言い出しそうだ。


「レイ殿の『スキル』は、"不老"でしたか」


「えぇ。すみません、あんな大見栄切っといて、役にも立たない『スキル』で」


「! いえ、私はそんなつもりでは……」


「あ、すみません。わかってます。今のは言葉のあやというか……」


 "不老"の『スキル』は、戦闘において役には立たない。

 歳を取らないだけで不死でもないこの体は、レッドドラゴンの尻尾に叩かれただけで下手したら死ぬ。


 ……なんの力も持たない人にとって、超常の力とも言えるのが『スキル』だ。中には、雷を起こせる者、吹雪を巻き起こせる者など、攻撃的な『スキル』を持つ者もいる。

 そんな中で、死なないだけで戦闘においてはなんの役にも立たない『スキル』持ちと、人のみ遠くに移動させることのできる『スキル』持ちか……


 やれやれ、これは思った以上に骨が折れそうだ。


「ま、とりあえずアピラたちに知らせないと。

 準備はもちろんしないといけませんが、なにも言わずに討伐に出掛けて、万が一があったら事ですからね」


「そ、そうですな」


 ……正直な話、レッドドラゴンとはあんまり関わり合いになりたくない。

 それには、事情があるのだが……勢いに任せたとはいえ、一度口に出したことを引っ込めるわけにもいかないだろう。


 やっぱりやめますごめんなさい、なんて言ってみろ。

 もしそんなことをしようものなら、一生あのバカ王子に頭が上がらなくなる。そんなのはごめんだ。


 そんなことを考えながら、店に戻る。

 ぱっと見、お客の足は落ち着いているようだ。店の外にまで行列が伸びている、なんてことはなかった。


 結局、"伝達"の『スキル』を持った子は、連絡してこなかったな。まあ、連絡がないのは元気の証拠というし。

 店を空けていたのも、一時間も経っていないしな。きっとなんの問題もなかったのだろう。


 さて、ちゃんと店番は出来ているか。そう思いながら、店の扉を開けた。


「はい、このお薬はそっちの棚!」


「へい!」


「むっ、ここ埃が残ってるよ!」


「すみません! やり直します!」


「アピラさん、こちらの製品整理終わりました!」


「うん、よろしい」


 …………なんか、起こっていた。

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