「うぉおおお、やってしまったぁ……!」
……城から出た俺は、頭を抱えていた。
王の間で、王子に啖呵を切ったこと。あれを思い出して、まさにやってしまったと感じていたところである。
言ってしまった内容は、俺の思っていたことだ、その内容に後悔はない。
だが、言ってしまったことを後悔しないかと言えば、それはまた別の話だ。
なんで俺は、あんな大それたことを……!?
「レイ殿、まさかあのような言葉を王子に言い返されるとは……」
「すみません、ガルドローブさんまで巻き込んじゃって」
「いえ、私、感激いたしました!」
隣にいるガルドローブさんに、申し訳ない。もしかしたら、穏便に済んでいたかもしれないことを、俺がこじらせたのだ。
そう思っていたが、彼はなぜか目を輝かせて俺を見ていた。
……王子による数々の暴言。しかも、ガルドローブさん本人が連れてきた俺からの暴言だ。
王子に暴言を吐いてしまったことを責められても、おかしくないと思っていたのに。
どうしてこの人は、こうもテンションが高いのだ。
王の間を出てから、ウキウキ気分が隠しきれていなかったぞ。廊下を歩いている間も、飛び跳ねそうだったぞ。
見た目とのギャップが、半端ではない。
「こほん、失敬。
いやしかし、まさか王子に面と向かってあのように、きっぱりとお言葉を述べられるとは。怖いもの知らずといいますか……しかし、私は感服いたしました!」
感激、感服、と言ったり、徐々にいろいろと語彙力が低下している気がする。
その言葉に嘘はないのだろうが。
どうやら俺の行動、というか言動が、よほどガルドローブさんに響いたらしい。
あんな王子とはいえ、一国の王子だ。俺のように正面切って、意見を言う奴なんかいなかったのだろう。
機嫌を損ねたらなにをされるかわからないし。あんな奴なら特に。
というか、俺の言動に感服しているって……ガルドローブさんも、実はあの王子にいろいろ言いたいこと溜まってたんだろうな。
自分が言えないことを、言ってくれた。だから嬉しく感じているわけか。
「部下を悪く言われた時は、さすがにあのバカ王子をぶん殴ってやろうかと思いました!
あっはっは!」
「……俺が言うのもなんですが、あんまりそういうこと言わない方がいいのでは?」
「ははは、それもそうですな」
今、城から離れて店に戻っている道中とはいえ、どこで誰が聞いているのかわからない。しかも、鎧姿の彼はわりと目立つ。
だというのに、この人は……豪快というか、単に考えなしなだけなのか。
なんで、あの王子に仕えているんだろう。
……いや、あの王子だからじゃない。王国の兵士長ともなれば、王の位にいる者に従うのが道理だ。むしろ王子よりも、国王に仕える立場。
あのバカ王子の父、国王はなにやっているのだろう。あんな横暴を許すような人じゃないと思うんだが。
「しかし、あんなことを言ってしまって大丈夫だったのですか? 私と二人だけで、レッドドラゴンを討伐になどと」
ふと、深刻な声になってガルドローブさんが言う。
……やっぱり、ガルドローブさんもそこが気になっているよなぁ。まあ、無茶な物言いだってのは、わかっている。
とはいえ、俺だって、ただ勢い任せに言ったわけでもない。
作戦だって、ある。
「レッドドラゴンとは何度か、たたかっ……会ったこともあるので。それなりにわかることもあります。
それに討伐といっても、要はあの場所からいなくなってもらえばいいんです」
「なるほど。倒すのではなく、追い出すということですな?」
そういうことだ。あんな化け物と、正面切って戦うなんて御免被る。
問題は、人数が俺とガルドローブさんしかいないこと。いや、俺から言い出したことではあるんだけどさ。
ちなみに今更だが、訪れたばかりのガルドローブさんは足を骨折していたが、今は回復薬で治っている。
部下たち全てを治し、かつ薬も余裕があったので、治してもらったわけだ。
……なんか、時折ガルドローブさんの表情が暗いな。感情の変化が激しい。
「ところで、ガルドローブさんの『スキル』は……」
先ほどの、王子の言葉が気になる。
ガルドローブさんが、レッドドラゴンを討伐するのが不可能ではないだろうという話。
それが本当なら、俺としても助かるわけだが。
……そんな『スキル』を持っているなら、なぜ一度目の討伐時に使わなかったのか、という疑問が残る。
それを聞くと、ガルドローブさんは軽くため息を漏らした。なにか変なことでも聞いただろうか?
「ガルドローブさん?」
「あ、申し訳ない。ただ……王子は、過大評価、いや勘違いしておられるのです。私の『スキル』"転送"を」
首を振りながら、ガルドローブさんは言う。自らの『スキル』の名前を。
ふむ、"転送"か……聞くだけでも、どういう効果かはわかる。
自分か、もしくは対象を特定の場所に移動させるというものだろう。
移動と言っても高速移動ではなく、瞬間移動に近いかもしれない。
しかし、それがどうして、レッドドラゴンを討伐できるという話になるのだろうか。