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第20話 褒美はなにがよかろうか



「薬屋風情がでしゃばるでないわ!」


 この樽バカ王子は、すっかり俺にお怒りのようだ。

 自分に意見されたのが、よほど気に入らなかったのだろう。


「し、しかし王子! 彼がいなければ、我らは命がありませんでした。我らにとってはまさに恩人なのです!」


「恩人ならば、余に反抗しても良いというのか!?」


「いえ……ただ、彼をここに連れてきたのは私です! なにとぞ、私の顔に免じてお許しを! 罰ならば私に」


 お、おいおいちょっと待った。これじゃあ、ガルドローブさんに被害が行く流れじゃないか。

 俺は、そんなつもりはなかったというのに。


 今からでも謝るか……いや、しかしこいつに謝るのはな……


「罰だと? ふん、ならば今度は貴様一人で、レッドドラゴンの討伐に向かってもらおうか!」


「! それは……」


「無茶だ!」


 気づけば俺は、またも声を張り上げていた。だが、仕方がないだろう。

 レッドドラゴンに一人で立ち向かえなど、死ねと言うのも同じだ。


 まして、ガルドローブさんは部下と一緒でも、勝てなかったんだ。

 一人で戦えなど、歴戦の戦士でも無茶な話だ。


「王子、あなたは、ガルドローブさんに死ねと言うのですか?」


「黙れ薬屋! 余はこのレポス王国の王子、サルボア・レア・レポスであるぞ! 余の決定は絶対じゃ! 

 そもそも、罰を与えろと言ったのはガルドローブ本人ではないか!」


「そんなの、罰じゃなくて死刑宣告だ!」


 くそっ、俺嫌いなんだよ……権力を振りかざし、自分が偉いと思いこんでいるこういうバカが。

 無能な権力者ほど、厄介なものはない。


 レッドドラゴンの討伐……王子のイカれ具合を抜きにしても、それは必要なことだろう。

 レッドドラゴンに近くをうろうろされては、国同士の交流もままならないし、旅人だって来れない。俺だって、他人事ではなくなるかもしれない。


 だが、だからといってガルドローブさん一人に任せるのは、間違っている。


「王子なら、百人の兵くらい簡単に集められるはず。なんで、そうしない」


「やるべきことがレッドドラゴンの討伐だけではないからな。他に兵を回しておるだけのこと」


 ……他に兵を回しているから、人手が足りないのか。お国の事情なんて知ったこっちゃないが、一つの事柄に人数を割けないのはわかる。

 とはいえ、レッドドラゴン以上に優先すべき事柄なんて、そうそうないだろうに。


 それとも、実はこの王子に、それだけの人数を動かす力は、なかったりして。

 王子であって、国王ではないのだし。


「余だって、別に出来ぬことをやらせるほど愚かではないぞ。のぅガルドローブ」


「……」


 王子の、意味深な発言。それを受けたガルドローブさんは、黙り込んでしまう。

 なんだ? まるで、ガルドローブさんなら一人でも、レッドドラゴンを倒せる根拠でもあるようだ。


 まさか、それだけ強力な『スキル』を持っているのか?

 いや、だとしたら、なぜそれを使わなかった? どんな『スキル』でも、部下を見殺しにして黙っていられる人じゃない。


「ふん。余に無礼を働いたそやつに、褒美などない。

 生きて帰った? なぜその命尽きるまで戦わん。死んだ兵士も、鍛え方が足りなかっただけじゃ。まったく、命を救われたなどと騒ぎ立ておって」


「……」


 だとしても……この言い方は、ないよな。

 生きて帰ってきた兵士、それに死んだ兵士にまで、そんなことを言う権利は、王子にだってないはずだ。


 もう、こいつをレッドドラゴンの前に放り出してやりたい気分だ。

 だが、こんなのでも王子……万が一があったら、国が混乱に陥るかもしれない。


「……なら、ご提案があります、王子」


「提案ん?」


 この王子に、一泡吹かせてやりたい。そう、思った。

 だからだろう。俺はいつの間にか、口を開いていた。


「ガルドローブさん、それと俺。二人で、レッドドラゴンの討伐に向かいます」


「!」


「レイ殿!?」


「ほぉ……面白いことを言うな貴様」


 それは、自分でも不思議な言葉だった。一人が二人になっただけだ。

 レッドドラゴン相手に、たった二人で挑むなど。正気の沙汰ではない。


 だが……これは、俺の意地でもあった。


「しかし、提案と言うからには、代わりに望みでもあるのか。言うだけ言ってみるがいい」


 ……どうやら、まったくのバカでもないらしい。

 俺が『提案』だと持ち掛けたことで、見返りを求める気持ちを読み取ったようだ。


「謝罪を」


「んん?」


 こいつに好き勝手言わせたままでは、誰も浮かばれない。

 死んでしまった人はもちろん、生きて帰ってきた人も……


 俺の薬を求め、助かった人たちの言葉を……俺は忘れることは出来ない。

 ありがとうと、生きていて良かったと、涙を流しながらも笑顔を見せていた彼らを侮辱することは、俺が許さない!


「ガルドローブさんに、死んでしまった人たちに、生きて帰ってきた人たちに。謝罪を。

 ……それが、俺が望む褒美です」


 だから……先ほどの言葉を、撤回させる。そして、謝罪させる。

 死んでしまった人たちに対して、生きて帰ってきた人たちに対して……俺はこの王子に、頭を下げて謝罪させてやりたい!

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