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第18話 いざ王城へ



 彼女らはかしこまり、敬礼していた。

 鍛えられているのだろう、それは見事な敬礼だった。


 ……俺は別に上官ってわけじゃないんだから、そんなにかしこまらなくてもいいんだがな。

 胸元に手を添え、敬礼までされて……悪い気はしないが、なんだかむず痒い。


「あ、あんまり俺にそういう態度は取らないでください。恥ずかしい」


「わかりました!」


 わかりましたと言いつつ、見事な敬礼だった。

 さてはわかっていないな?


 それから、アピラに向き直り、目線を合わせるようにしゃがんでから、頭を撫でる。


「じゃ、ちょっと言ってくるけど。みなさんに迷惑かけるんじゃないぞ」


「あい!」


 ……それでもやっぱり心配だが、アピラはわりと賢いし、なんとかなるだろう。

 売り物もそうだが、アピラが危険な目にあわないか……兵士の皆さんに、任せることになる。

 最悪、アピラが無事ならそれでいいのだ。


 ま、鎧を着たいかつい人たちがいる店で、悪さを働く奴はいないだろうが。


「では、行きましょうか、レイ殿」


「はい」


「いってらっしゃーい!」


「はいよー」


 店番をアピラ、他兵士さんたちに任せて。俺はガルドローブさんに案内され、城へと向かう。

 王子、というか王族が住んでいるのはもちろんお城。これはもはや世の常だ。


 ここからでも見える、石造りの巨大な建物。国の中心部に位置する城は、外から見れば驚くほど白い。

 あんな高い壁、いつも誰が掃除しているのだろう、とたまに思う。


「レイ殿、緊張などはしなくても大丈夫ですからね」


「あはは、はい」


 しかし、お城か……これまでにも、訪れた国で足を踏み入れる機会はあった。実際に、王族に会ったこともある。

 なので、別に今更緊張などすることはない。


 ガルドローブさんは、俺が腰が引けないように話しかけてくれたわけだ。


「……」


 ガルドローブさんについているおかげで、城の門番も難なく素通り。まあ少し不思議そうな顔はされたが。見知らぬ男が一緒にいたら、そうなるよな。

 それでもなにも言われないのは、王国兵士長であるガルドローブさんの側にいるおかげだろう。

 先ほどの部下たちの態度といい、人に好かれるタイプなのだろうな。


 小さな、人一人が通れる門から敷地内へと入り、さらに城内へと続く扉を潜る。


「おぉ、広い」


 城の中は、全体的にでかかった。この国の城には、入ったことがなかったか……それとも、忘れているだけか。こんなでかい場所そうは忘れないだろうから、増築でもしたのか。

 とにかく、記憶にある他国の国よりも、でかかった。


 端に置いてある銅像だって、無駄に高そうな物だ。

 あれを売り払えば、それだけでなにもしなくても一年以上遊んで暮らせそうだ。


 ……ガルドローブさんに無茶な討伐作戦を言い渡したり、あんな無駄な銅像を置いたり、多分ここの王子バカなんだろうな。

 なんか、人型の銅像だし……あれ、もしかして自分の銅像か? バカみたいな顔してるな。


「あれは、過去この王国を収めていた王族のものです。

 国の象徴として、あちこち建てられているのです」


 違った。

 偉人の皆さんごめんなさい。


「こちらです。

 ……レポス王国兵士長、ガルドローブ。ただいま、レッドドラゴン討伐の任より帰還しました!」


 これまた無駄に大きな扉の前に立ち、ガルドローブさんは三度ほど扉をノック。

 そして声を張り上げ、告げる。


 ちなみに扉の両端には門番がいるが、特には動かない。彼らは、特に連絡係でもないのだな。


「……ガルドローブか、入れ」


 しばらくすると、部屋の中から応答の声が。

 その声は、なんとも間抜けそうなというか、バカっぽいというか……ともかく、そんな感じだ。


 入室の許可が出たことで、ようやく門番が動く。

 鎧に加えて顔まで隠れる兜を被っているため、顔は見えないが、多分男だろう。それぞれが、扉の片側ずつを押す。


 扉は、ゆっくりと開いていく。大の大人二人がかりとは、相当重いのだろう。


「……」


 部屋の中には、玉座が一つ。そこへ向かって敷かれた赤い絨毯、他には高そうな銅像が並んでいるだけだ。こちらは人の姿ではない。

 他には、玉座の後ろに、大きな窓があるが……それだけだ。


 そして、玉座に座っている者が、一人。

 玉座に座っているということは、つまりあれが、この国の王子なのだろう。


「ふぅむ……」


 その人物は、玉座にどっかりと座り、鼻を鳴らせていた。

 うわぁ、いかにも『自分は偉いんだぞ』というような雰囲気だ。


 なんというか……王子というから、もう少しイケメンな感じを予想していたのだが。……普通だ。

 ブサイクではない、だがイケメンでもない。その辺で歩いていても、気づかないような威厳のない顔。


 玉座に偉そうにふんぞり返っているその表情は、こちらをじっと見ている。なにを考えているんだろうか。

 少しふっくらとした体に、あまり高くなさそうな背。……樽かな……?

 頬もふっくらしているし、なんかフォルムが全体的に丸いな。


 ともあれ……どんな無茶苦茶な王子なのか、拝見させてもらうとしよう。

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