彼女らはかしこまり、敬礼していた。
鍛えられているのだろう、それは見事な敬礼だった。
……俺は別に上官ってわけじゃないんだから、そんなにかしこまらなくてもいいんだがな。
胸元に手を添え、敬礼までされて……悪い気はしないが、なんだかむず痒い。
「あ、あんまり俺にそういう態度は取らないでください。恥ずかしい」
「わかりました!」
わかりましたと言いつつ、見事な敬礼だった。
さてはわかっていないな?
それから、アピラに向き直り、目線を合わせるようにしゃがんでから、頭を撫でる。
「じゃ、ちょっと言ってくるけど。みなさんに迷惑かけるんじゃないぞ」
「あい!」
……それでもやっぱり心配だが、アピラはわりと賢いし、なんとかなるだろう。
売り物もそうだが、アピラが危険な目にあわないか……兵士の皆さんに、任せることになる。
最悪、アピラが無事ならそれでいいのだ。
ま、鎧を着たいかつい人たちがいる店で、悪さを働く奴はいないだろうが。
「では、行きましょうか、レイ殿」
「はい」
「いってらっしゃーい!」
「はいよー」
店番をアピラ、他兵士さんたちに任せて。俺はガルドローブさんに案内され、城へと向かう。
王子、というか王族が住んでいるのはもちろんお城。これはもはや世の常だ。
ここからでも見える、石造りの巨大な建物。国の中心部に位置する城は、外から見れば驚くほど白い。
あんな高い壁、いつも誰が掃除しているのだろう、とたまに思う。
「レイ殿、緊張などはしなくても大丈夫ですからね」
「あはは、はい」
しかし、お城か……これまでにも、訪れた国で足を踏み入れる機会はあった。実際に、王族に会ったこともある。
なので、別に今更緊張などすることはない。
ガルドローブさんは、俺が腰が引けないように話しかけてくれたわけだ。
「……」
ガルドローブさんについているおかげで、城の門番も難なく素通り。まあ少し不思議そうな顔はされたが。見知らぬ男が一緒にいたら、そうなるよな。
それでもなにも言われないのは、王国兵士長であるガルドローブさんの側にいるおかげだろう。
先ほどの部下たちの態度といい、人に好かれるタイプなのだろうな。
小さな、人一人が通れる門から敷地内へと入り、さらに城内へと続く扉を潜る。
「おぉ、広い」
城の中は、全体的にでかかった。この国の城には、入ったことがなかったか……それとも、忘れているだけか。こんなでかい場所そうは忘れないだろうから、増築でもしたのか。
とにかく、記憶にある他国の国よりも、でかかった。
端に置いてある銅像だって、無駄に高そうな物だ。
あれを売り払えば、それだけでなにもしなくても一年以上遊んで暮らせそうだ。
……ガルドローブさんに無茶な討伐作戦を言い渡したり、あんな無駄な銅像を置いたり、多分ここの王子バカなんだろうな。
なんか、人型の銅像だし……あれ、もしかして自分の銅像か? バカみたいな顔してるな。
「あれは、過去この王国を収めていた王族のものです。
国の象徴として、あちこち建てられているのです」
違った。
偉人の皆さんごめんなさい。
「こちらです。
……レポス王国兵士長、ガルドローブ。ただいま、レッドドラゴン討伐の任より帰還しました!」
これまた無駄に大きな扉の前に立ち、ガルドローブさんは三度ほど扉をノック。
そして声を張り上げ、告げる。
ちなみに扉の両端には門番がいるが、特には動かない。彼らは、特に連絡係でもないのだな。
「……ガルドローブか、入れ」
しばらくすると、部屋の中から応答の声が。
その声は、なんとも間抜けそうなというか、バカっぽいというか……ともかく、そんな感じだ。
入室の許可が出たことで、ようやく門番が動く。
鎧に加えて顔まで隠れる兜を被っているため、顔は見えないが、多分男だろう。それぞれが、扉の片側ずつを押す。
扉は、ゆっくりと開いていく。大の大人二人がかりとは、相当重いのだろう。
「……」
部屋の中には、玉座が一つ。そこへ向かって敷かれた赤い絨毯、他には高そうな銅像が並んでいるだけだ。こちらは人の姿ではない。
他には、玉座の後ろに、大きな窓があるが……それだけだ。
そして、玉座に座っている者が、一人。
玉座に座っているということは、つまりあれが、この国の王子なのだろう。
「ふぅむ……」
その人物は、玉座にどっかりと座り、鼻を鳴らせていた。
うわぁ、いかにも『自分は偉いんだぞ』というような雰囲気だ。
なんというか……王子というから、もう少しイケメンな感じを予想していたのだが。……普通だ。
ブサイクではない、だがイケメンでもない。その辺で歩いていても、気づかないような威厳のない顔。
玉座に偉そうにふんぞり返っているその表情は、こちらをじっと見ている。なにを考えているんだろうか。
少しふっくらとした体に、あまり高くなさそうな背。……樽かな……?
頬もふっくらしているし、なんかフォルムが全体的に丸いな。
ともあれ……どんな無茶苦茶な王子なのか、拝見させてもらうとしよう。