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第17話 わたしが、任された!



「……ふぅ」


 なんとか、兵士たち全員の治療を終えた。

 まさか、こんな事態になるとは思わなかったが、なんとかやり遂げることができた。


 兵士一人一人にお礼を言われ、ガルドローブさんからも改めてお礼を述べられた。

 それに、この場でお礼をしたいが今は持ち合わせがないことへの謝罪も。


 正直、あれだけの薬を使ったのだからそれなりに出費はあったのだが……俺だって、この状態の兵士たちに金品を要求するほど、鬼ではない。

 また日を改めて、とは考えているけど。


「……もし、レイ殿がよろしければ、我らにご同行願えないでしょうか」


 そこで、ガルドローブさんが切り出した。

 いつの間にか名前呼びになっていた。まあ俺がそうお願いしたんだけどね。


 魔術師殿、とか堅苦しく呼ばれるのは、どうにもむず痒い。


「同行? それって……」


「我らは、いや私は、今回のレッドドラゴン討伐の結果を、王子に伝える必要があります。

 その際、我らの命を救ってくれた方だとレイ殿を紹介します。そうすれば、王子から直接、報奨が与えられるでしょう」


「はぁ……」


 なんというか、気の抜けた返事しかできない。王子と……この国のトップと、会うだって?

 そりゃ兵士たちを助けたのは事実だが、その件で王子に金を催促しに行くのはどうなのだろう。


 ……とはいえ、今回のレッドドラゴン討伐の命を出したのは、王子だ。王と言っていたから、国王かとも思っていたが、どうやら違うらしい。

 その王子の命令で討伐に出た兵士が怪我をして、それを救ったのだから。王子に報奨を請求するのは当然とも言える。


 それに……たった五十人でレッドドラゴンを討伐など、無茶な命令を出した王子に、一言物申すのもありかもしれない。

 普通ならば、一国民の言葉など届かないかもしれないが、兵士の命を救った、ともなれば無下にはできないだろう。


「わかりました。なら、早速……あ、でも店が……」


「まじゅつ師さん、だいじょぶ! わたしが、任された!」


 俺がここを離れれば、店が空いてしまうことになる。それならば、いっそ臨時休業とするか……

 そう考えていたが、自分に任せろと、頼もしい声が聞こえた。


 アピラだった。


「あ、アピラ? いやでも、さすがに……」


「だいじょぶ!」


 ……いや、大丈夫と言われてもなぁ。ここで働いているのは二日目、本格的にはまだ一日目だ。

 そんな子に、さすがに店番を任せるというのはなぁ。


 そりゃ、さっきはすばらしい動きを見せてくれた。

 だが、それはあくまでも薬を取ってくる、という点でだ。


 お客が、どんな薬を目当てに来るか、それがどの棚に置いてあるのか。

 それが果たして、アピラが一人でわかるだろうか。


 ……わかりそうな気もする。


「なら、俺たちに手伝わせてください!」


「えぇ、私たちもやります!」


 悩んでいたところへ、さらなる声。それは、今まで成り行きを見守っていた兵士のみなさんだ。

 怪我が治り、元気になった彼らは、心同じくしてなにかお返しをしたいと、思っていたらしい。


 中には、まだ怪我が治ったばかりで動けない者もいる。

 なので、あくまでも動ける者たちだけ、ではあるが。


「いや、でも……」


「協力させてください! 魔術師様と、アピラちゃんは命の恩人なんです!」


「その通りです! こんなものでは足りませんが、少しでも恩返しさせてください!」


 ……みんなの想いが、突き刺さる。

 まさかこんなにも、感謝し恩返しをしたいと、思われているとは。


 こういうの、なんか、いいな。


「報告は、兵士長である私一人が行けばいい。レイ殿、よろしければ、任せてやってくれませんか」


「うーん……」


 ……まあ、アピラ一人だと心配だったわけだから。人がいるなら、いいのかなぁ。

 でもなぁ、言い方はあれだが、素人の集まりだしなぁ。


 未だ決めかねている俺を見て、兵士の集団の中から、一人の手が上がる。


「あ、あの! もしわからないことがあれば、その都度魔術師様に確認してもよろしいでしょうか!」


「……確認?」


 そこにいたのは、美しい白髪を後ろで一本に纏め、ポニーテールにした女性だった。

 ふぅむ、俺よりは年上みたいだ……あんな子まで、兵士なんだなぁ。


 ……あ、さっき、顔に火傷を負っていた子じゃないか! よかった、火傷の痕は、きれいになくなっている。

 女の子だ、顔に傷が残ったら大変だもんな。


「確認って、どうやって?」


「はい! 私の『スキル』は"伝達"という、対象に言葉を届け、会話することのできるものなのです! 

 それがあれば、離れていても魔術師様と会話することが可能です!」


 かしこまった様子で、女性は話す。おぉ、そうか『スキル』、その手があったか。

 これだけ兵士がいれば、一人や二人この状況に適した『スキル』持ちがいるんだな。


 しかも、その女性が申し出た『スキル』は"伝達"という、この状況においてもっともと言えるほど頼もしいものであった。


「へぇ、すごい『スキル』だな!」


「ありがとうございます! 会話できる対象は一人だけで、ありますが!」


 "伝達"の『スキル』。それさえあれば、なにか不明点があったときに、その場で離れた所にいる俺に、聞けるわけか。

 対象は一人だけとのことだが、それでもなかなか便利だと感じる『スキル』だ。


 ちなみに会話の方法は、頭の中で行うらしい。テレパシー、と言えば近いだろうか。

 他にも、便利そうな『スキル』を持っている者もいる。


 うん、なんだか任せて大丈夫な気がしてきた。


「じゃあ、任せるってことで、いいですか」


「はっ、お任せください!」

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