「……ふぅ」
なんとか、兵士たち全員の治療を終えた。
まさか、こんな事態になるとは思わなかったが、なんとかやり遂げることができた。
兵士一人一人にお礼を言われ、ガルドローブさんからも改めてお礼を述べられた。
それに、この場でお礼をしたいが今は持ち合わせがないことへの謝罪も。
正直、あれだけの薬を使ったのだからそれなりに出費はあったのだが……俺だって、この状態の兵士たちに金品を要求するほど、鬼ではない。
また日を改めて、とは考えているけど。
「……もし、レイ殿がよろしければ、我らにご同行願えないでしょうか」
そこで、ガルドローブさんが切り出した。
いつの間にか名前呼びになっていた。まあ俺がそうお願いしたんだけどね。
魔術師殿、とか堅苦しく呼ばれるのは、どうにもむず痒い。
「同行? それって……」
「我らは、いや私は、今回のレッドドラゴン討伐の結果を、王子に伝える必要があります。
その際、我らの命を救ってくれた方だとレイ殿を紹介します。そうすれば、王子から直接、報奨が与えられるでしょう」
「はぁ……」
なんというか、気の抜けた返事しかできない。王子と……この国のトップと、会うだって?
そりゃ兵士たちを助けたのは事実だが、その件で王子に金を催促しに行くのはどうなのだろう。
……とはいえ、今回のレッドドラゴン討伐の命を出したのは、王子だ。王と言っていたから、国王かとも思っていたが、どうやら違うらしい。
その王子の命令で討伐に出た兵士が怪我をして、それを救ったのだから。王子に報奨を請求するのは当然とも言える。
それに……たった五十人でレッドドラゴンを討伐など、無茶な命令を出した王子に、一言物申すのもありかもしれない。
普通ならば、一国民の言葉など届かないかもしれないが、兵士の命を救った、ともなれば無下にはできないだろう。
「わかりました。なら、早速……あ、でも店が……」
「まじゅつ師さん、だいじょぶ! わたしが、任された!」
俺がここを離れれば、店が空いてしまうことになる。それならば、いっそ臨時休業とするか……
そう考えていたが、自分に任せろと、頼もしい声が聞こえた。
アピラだった。
「あ、アピラ? いやでも、さすがに……」
「だいじょぶ!」
……いや、大丈夫と言われてもなぁ。ここで働いているのは二日目、本格的にはまだ一日目だ。
そんな子に、さすがに店番を任せるというのはなぁ。
そりゃ、さっきはすばらしい動きを見せてくれた。
だが、それはあくまでも薬を取ってくる、という点でだ。
お客が、どんな薬を目当てに来るか、それがどの棚に置いてあるのか。
それが果たして、アピラが一人でわかるだろうか。
……わかりそうな気もする。
「なら、俺たちに手伝わせてください!」
「えぇ、私たちもやります!」
悩んでいたところへ、さらなる声。それは、今まで成り行きを見守っていた兵士のみなさんだ。
怪我が治り、元気になった彼らは、心同じくしてなにかお返しをしたいと、思っていたらしい。
中には、まだ怪我が治ったばかりで動けない者もいる。
なので、あくまでも動ける者たちだけ、ではあるが。
「いや、でも……」
「協力させてください! 魔術師様と、アピラちゃんは命の恩人なんです!」
「その通りです! こんなものでは足りませんが、少しでも恩返しさせてください!」
……みんなの想いが、突き刺さる。
まさかこんなにも、感謝し恩返しをしたいと、思われているとは。
こういうの、なんか、いいな。
「報告は、兵士長である私一人が行けばいい。レイ殿、よろしければ、任せてやってくれませんか」
「うーん……」
……まあ、アピラ一人だと心配だったわけだから。人がいるなら、いいのかなぁ。
でもなぁ、言い方はあれだが、素人の集まりだしなぁ。
未だ決めかねている俺を見て、兵士の集団の中から、一人の手が上がる。
「あ、あの! もしわからないことがあれば、その都度魔術師様に確認してもよろしいでしょうか!」
「……確認?」
そこにいたのは、美しい白髪を後ろで一本に纏め、ポニーテールにした女性だった。
ふぅむ、俺よりは年上みたいだ……あんな子まで、兵士なんだなぁ。
……あ、さっき、顔に火傷を負っていた子じゃないか! よかった、火傷の痕は、きれいになくなっている。
女の子だ、顔に傷が残ったら大変だもんな。
「確認って、どうやって?」
「はい! 私の『スキル』は"伝達"という、対象に言葉を届け、会話することのできるものなのです!
それがあれば、離れていても魔術師様と会話することが可能です!」
かしこまった様子で、女性は話す。おぉ、そうか『スキル』、その手があったか。
これだけ兵士がいれば、一人や二人この状況に適した『スキル』持ちがいるんだな。
しかも、その女性が申し出た『スキル』は"伝達"という、この状況においてもっともと言えるほど頼もしいものであった。
「へぇ、すごい『スキル』だな!」
「ありがとうございます! 会話できる対象は一人だけで、ありますが!」
"伝達"の『スキル』。それさえあれば、なにか不明点があったときに、その場で離れた所にいる俺に、聞けるわけか。
対象は一人だけとのことだが、それでもなかなか便利だと感じる『スキル』だ。
ちなみに会話の方法は、頭の中で行うらしい。テレパシー、と言えば近いだろうか。
他にも、便利そうな『スキル』を持っている者もいる。
うん、なんだか任せて大丈夫な気がしてきた。
「じゃあ、任せるってことで、いいですか」
「はっ、お任せください!」