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第9話 薬屋開店!



 ともあれ、いつまでもアピラの相手をしているわけにもいかない。

 今日も今日とて、俺には仕事がある。


 この国に来たばかりではあるが、すでに商売する場所と、なにを売り出すかは決めて実行中だ。

 なにを商売にするか、それは薬屋だ。これまでの長い時間の中、一番やってきたのが薬屋だ。


 そういう意味で自信はあるし、それに、ありがたいことにすでにいくつか売れている。

 話題が話題を呼んでいるようで、徐々にお客が増えている。


「よい、しょ」


「まじゅつ師さん?」


 俺は開店の準備に取り掛かる。宿屋の部屋を出て、店へ向かう。

 アピラは、途中で帰すつもりだ。


 この国に来てすぐ、店を出す申請をして、空き家を使わせてもらっている。

 自分で店を建てるのも一つの手ではあるが、数年でこの場所から移動するのだから、借りているだけの方がちょうどいい。


 店を出すには『スキルカード』が必須だ。特に俺の場合、この見た目だ。

 十五歳は成人済みとはいえ、成人済みならすんなり店を出せるわけではない。まだ子供扱いをされることもある。

 だが、俺には三千年の積み重ねがある。


 相変わらず"不老"の『スキル』保持者は他に見つかっていないものの、『スキルカード』は嘘はつかない。『スキル』名を書き換えるなど、細工はできないのだ。

 試しに、昔『スキルカード』に手を加えてもらおうとしたが、不可能だった。


 そんなわけで、俺が"不老"の『スキル』持ちなのは疑いようもない事実。

 なんせ、三千年前に発行された『スキルカード』なのだ。三千歳以上だ俺は。


「こんにちはー」


「いらっしゃいませー、おはようございます」


「いらっしぁーせー、おはーざーます!」


「…………」


 店につき、店を開ける。朝の準備を済ませた俺は、訪れてくれたお客さんに挨拶をする。

 今日第一号となるお客さんがやって来てくれていた。ここ最近、よく来てくれるお客さんだ。


 挨拶は、大事だ。いらっしゃいませ、その後に朝の挨拶。

 これがいつもの風景……のはず、なのだが。


 ……今日は、もう一つ別の声があった。


「……なぜいる」


 俺の隣に、我が物で突っ立っているアピラ。この店に従業員服などはないため、互いに私服だ。

 というか、俺一人だけなのでわざわざ服を新しく作る必要がない。

 そもそも服を作っていたとしても、アピラの服などない。


 なぜかアピラは、そこにいるのが当然、といった顔をしている。追い返そうとしても着いてきたのだ。

 俺も、お客も、唖然としていた。


「私も、おてつだいします!」


 なぜここにいるのか……その答えは、なんともあっさりしたものだった。

 まあ、ここに、それも俺の隣に立っている時点で、そんな予感はしていたけども。


 とはいえ、事前に手伝いたい、と相談を受けたわけでもない。気づけば、隣にいたのだ。

 気配を消していた、おっかなびっくりだ。


「えっと……どちら様で?」


「アピラ!」


「そっか……レイさんの、お子さん?」


「ちゃうわ!」


 俺の子供は、これまでにもそしてこれからも一人だけだ。

 彼女はもうこの世にいないが、俺の心の中にしっかりと残っている。


 断じて、こんな子が我が子ではない!


「うーん……まあいいや。レイさん、いつものある?」


「はいよ」


 このお客さんは、早い段階からウチを贔屓にしてくれている。

 というのも、どこの店を回ってもなかなか治らなかった腰痛が、ウチの薬で治ったからだ。


 ただし、完治ではない。

 傷薬など、そういったものは完治薬を作れるが、腰痛のようなじんわりとした痛みを伴うようなものは、段階的に治していった方がいい。


 腰痛の完治薬も作れないことはないが、飲んで一瞬ですぐに治る、といったものはあまりよろしくはない。体に負担をかけてしまうからだ。

 以前、すぐに完治はしたものの体の別の場所が痛くなった……という例があった。


 なので、薬を飲み続けることで、徐々に完治させていく。このお客さんは、年齢もそこそこなので、体にも優しい薬を調合した。

 若ければもう少し激しめのものにすれば治りも早くなるが、やはり体に合ったものを作らなければな。


「はい、どうぞ」


「おぉ、ありがとよ。いやぁ、レイさんの薬はよく聞くよ」


「はは、ありがたいことです」


 こうして、一人一人のお客さんに合った薬を、渡していく。

 そうすることで、信頼と実績を得ていくのだ。


 さて、今のやり取りを見ていた、アピラはというと……


「おぉー……」


 目を輝かせ、俺の手元……薬の瓶を見ていた。

 中に入っている液体はどんな味なのだろう、とでも考えていそうな目だ。


 手伝いをしたいとは言っていたが、別に手伝ってもらうこともないんだよな。こじんまりとした店だし、逆に俺だけでちょうどいい。

 無駄に広い店にすると、一人じゃ手が回らない。


 そもそもこの子は、なんで手伝いをしたいなんて言い出したんだ。ただの興味本位か?


「そういや、聞いたかいレイさん。少し前に、王国の兵団がレッドドラゴンを討伐に向かったらしい」


「レッドドラゴンが?」


「れっとーらごん?」


 薬の会計を済ましている最中、お客さんから話しかけてくる。

 こうして、会話を弾ませることで近頃なにが起きているのか、知ることができる。人との会話は大事なのだ。

 自分ではなかなか知れないようなことも、こうして話をすることで情報を得られる。


 さて、レッドドラゴンとは。文字通り赤い皮膚を持つドラゴンだ。

 獰猛な生き物とされ、人里や野生の動物を襲うこともある。


 一体でも相当の強さがあるとされ、訓練された兵士百人でやっと倒せるとされている。

 もちろん、『スキル』の使い方によっては勝率も大きく変わる。


 そのレッドドラゴンが、近くの丘に降りてきたのだという。

 討伐するまでいかなくても、せめて別の場所に行ってもらわなければ、近く被害が出かねない。


「そのレッドドラゴンを討伐するとなれば、怪我人も多く出ることになる。そしたら……」


薬屋おれの出番、か」


 怪我人が出るということは、それだけ回復薬を必要とする者が多くなるということ。

 怪我人が出ることを喜んではいけないが、商品が売れるのはいいことだ。


 近いうちに、忙しくなりそうだな。

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