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第3話 『スキル』"不老"を授かった果てに



 ラダニアと繋がった夜、彼女は涙を流しながら笑った。

 その表情が愛しくて、また俺は彼女を求めた。彼女も、俺を求めた。


 ……さて、この世界では、十五歳で成人となる。すごい話だ。

 十五歳なんて、転生前の俺、というかほとんどの人は、中学卒業を控えて高校受験……もしくはそのまま働くか。将来について考え始める時期だ。


 そんな年に、この世界では成人となる。俺も、当然のようにその道を通ることになった。


 その頃になると、ラダニアとの結婚も本格的に視野に入れて将来について考えていた。

 かわいいお嫁さんに、充実したスローライフ。それに、かわいい義妹ミリア

 これこそ、まさに理想の人生ではないか。



『……『スキル?』』



 成人となる者に、等しく授けられるものがある。その名を『スキル』という。『スキル』とは、また心躍る単語だ。

 授けられるのは、選ばれた者だけ……なんてケチなことはない。誰であろうと、みんな平等にだ。


 授けられる、とはつまり誰から、という疑問につながってくる。しかしそれが、わからない。誰から授けられるのか。

 ただ、この世界の人間ならばみんな当たり前のように受け入れているのだ。

 俺としては、あの自称女神が噛んでいるんじゃないかと思っているが。


 『スキル』とは一人に一つ。様々な種類のものがある。

 "飛行"、"発火"、"透明"、"創作上手"……といった具合に、千差万別。努力すれば得られそうなものから、現実的に不可能なものまで。


 様々な種類があるとはいえ、もちろん『スキル』が被ることもある。それに、似たような『スキル』もたくさんある。

 上位互換下位互換、と、言い方はアレだが、そんなものもある。


 たとえば"発火"など、俺の世界で読んでいたファンタジー本などに出てくるそれは『魔法』として扱われていた。ありえない現象をそう呼んでいた。

 だがこの世界に『魔法』なんてものは存在しない。全てが、『スキル』によるものだ。


 『スキル』は、十五歳になった瞬間に、自分が授かる『スキル』の名前が頭の中に浮かぶのだ。

 その原理はわからないが、とにかく浮かぶのだ。



『父さんたちも、いきなりだったから驚いたもんさ!』


『えぇ、そうよね』



 どこか楽しげに話す両親の様子に、俺の心はやはり踊った。ちなみに父さんの『スキル』は"発電"、母さんの『スキル』は"癒し"、つまり回復だ。

 俺は、転んで擦りむいた膝を何度母さんの"癒し"で治してもらったことか。


 男とも女ともわからない声で、『スキル』名を読み上げられるらしい。

 それの効果は、自然と自分でわかるようになるのだと。


 『スキル』が発現する。その後、とある場所にて手続きが必要になる。

 その場所の名前はギルド……まあ、要は役所だな。そこに行き、自分が『スキル』を授かったことを伝えると、薄い石板のような謎のカードを渡される。



『不思議なものがあるもんだな』



 これも原理はわからないが……異世界ということで無理やり納得しておく……なにも書かれていない黒っぽい石版に手をかざすと、自身の『スキル』名がそのカードに記入されるのだ。

 これを『スキルカード』という。


 『スキルカード』は、いわゆる免許証のようなものだ。自分の名前、そして『スキル』。それらが入力されたカードは、紙ではなく不思議な材質でできている。

 濡れないし、燃えない。鉄……のようだが、柔らかい鉄といった言い方が近いかもしれない。


 『スキルカード』はこの世界で生きていくために不可欠なものだ。自身の『スキル』を生かした職業を選ぶもよし、逆に『スキル』とは関係のない道に進む場合もある。

 ほとんどの人間は、『スキル』に合わせて己の道を決める。


 だが、『スキル』が仕事に……それどころか、人生に役に立たない場合もある。

 たとえば"暗殺"……そういった『スキル』を得てしまう場合もある。しかし『スキル』は自分では決められないし、変えることだってできない。



『俺のスキルか……!』



 成人間近になるにつれ、俺の胸は高鳴っていった。どんな『スキル』を手に入れられるのだろう。

 やはり、ファンタジー世界ならではの魔法のようなものか。それとも、スローライフに適した、職に困らないようなものか。


 俺も、両親も、そしてラダニアも。今か今かと心待ちにしていた。

 そして、ついに運命の日がやってきた。



『……ん?』



 日付が変わった瞬間、頭の中に浮かんだ文字は、確かにあった。それを読み上げる声も、あった。

 女神の声ではなかったような気がするし、女神がボイスチェンジャーのようなものを使っていた気もする。

 いや、そんなことはどうでもいい。


 それよりも、俺にはその『スキル』の意味がよくわからなかった。いや、意味はわかるが……うん、置いておこう。

 翌朝、俺はギルドに向かった。ギルドはシェイク村にはないため、隣町まで歩いていく必要がある。


 そこにある、小さなギルド。しかし施設はしっかりしていた。受付の女性もいい人で、笑顔で、対応してくれた。

 ……その笑顔が、『スキルカード』を見た途端、曇った。



『これ、は?』



 その言葉に、俺も『スキルカード』を見た。

 そこには、やはり頭に浮かんだものと同じ単語が書いてあった。


 『スキル』……これにより、俺の人生は狂っていくことになる。

 そこに書いてあった『スキル』名、それは……"不老"だったのだから。

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