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ビースト・オンライン
八ッ坂千鶴
ゲームVRゲーム
2024年07月27日
公開日
2,202文字
連載中
 普通の高校生の少年は高熱と酷い風邪に悩まされていた。くしゃみが止まらず学校にも行けないまま1週間。そんな彼を心配して、母親はとあるゲームを差し出す。

 そして、そのゲームはやがて彼を大きな事件に巻き込んでいく……!

第1話 暇人

「ぶぇっくしゅん……。ううぅ……」

 朝からくしゃみが止まらない……。もう学校行けなくなって1週間だよ……。どうして、インフルエンザにかかるんだ……。

 ――コンコン

『翔斗? 朝ごはんよ』

「と言ってもまたお粥だろ? へっくしゅん……。うっ……鼻水が……。ティッシュティッシュ……。ってないじゃん……!」

『ティッシュないの? 新しいの持って来るよ?』

「ごめん母さん……。助かる」

 2055年1月16日朝7時32分。俺はとある夢を見てから目が覚めた。どんな夢なのかと言うと、インフルエンザ等がない動物たちの楽園。

 こんな世界あったらいいのに……。そう思ったのものやはり夢だったようで、現実に引き戻された一発目が大きなくしゃみだった。

 今頃同級生のみんなは本命の受験先を考えてる頃だろうなぁ……。俺も説明会に行きたかったけど、この酷いくしゃみでは行けそうにもないや。

 1週間経っても治らないのは不自然だ。これは神様からの天罰か? そういうことは考えたくない。

 俺の部屋にはたくさんのゲームがある。だけど、この1週間全部のゲームを遊び尽くしていた。

 どれも一度遊んだことがあるゲームだったのも理由の一つ。一巡するだけでもつまらないのに、何周もしてたら飽きてしまう。

「こんな時に学校行けたらなぁ……。ぶぇっくしょん……ゴホッ!」

 やはり咳も止まらない。喉もものすごく痛い。ヒリヒリする。この状態というのもあって、今の俺は非常に暇だ。

 もはやゲームする気も予習する気も起きない。ずっと寝た状態でできるやつないかな? 俺は部屋を見回す。

 すると、部屋と廊下を繋ぐ扉の隙間から投げ込まれたらしい、ゲームソフトを発見した。俺はよろよろとベッドから降りてソフトを拾いあげる。

「これ、初めて見るゲームだ……。ビースト・オンライン? 裏面は……」

"ビースト・オンライン。

 30種類の動物から1種類を選択し、その能力を活かして戦うオープンワールドロールプレイングゲームです。

 ゲームをプレイするには、ディスクをパソコンに挿入し、事前にアバターを選択してください。ダイブギアとパソコンを連携させることで遊べます。大自然に恵まれたフィールドで、冒険を楽しみましょう!"

『あれ? 翔斗拾ってくれたのね……』

「これ母さんが俺に? へっくしゅん……」

『そうよ。そろそろ部屋にあるゲームに飽きて来てるんじゃないかなって。面白そうなのを探してきたの』

「ありがとう。母さん……」

『だけど無理しないでね。まだくしゃみが止まってないんだから』

「わかってるよ」

 そうして俺はパソコンの方へと向かった。閉じた画面を開き、電源を入れる。しばらくすると画面が点灯し、パスワード画面にたどり着く。

"*****h"

「確定っと。ディスクトレイを開いて……。ダイブギアをブルートゥースで繋げて……」

 そして、ゲームソフトのディスクをディスクトレイにセットして閉じると、画面いっぱいに森の絵が描かれたウェブサイトが表示される。

 そこからログインページに移動し、アカウントを作成する。プレイヤー名もここで決めるみたいだ。俺は、翔斗から翔だけを取って"カケル"と名付けた。

 次にアバター選択。熊や猫、狼にライオン。チーターに何故か分からないけどネズミまである。一番弱そうな亀まで。

 本当にこのゲームは動物だらけなんだ。そう思ってスクロールしていくと、ランダムって書いてあるところを見つけた。自分で選ぶのが苦手な人用だろう。

 するとここで悲劇が起こる。

「へっくしゅん!」

"【ランダム】が選択されました。自動でアバターを選択します。この操作はキャンセルできません"

「え!?」

 最悪だ……。俺はやらかしてしまった。これで微妙な動物が選ばれたらどうしよう。それが亀だったらさらに最悪だ。素早く動けそうな気がしない……。はたまた亀仙人アバターか?

 まずいじいちゃんになっちまう。それだけは嫌だ……。

"選択されたアバターはログイン時に確認できます。ログイン後はチュートリアルに従って完了させてください。それでは大自然での冒険の中での活躍ができるよう、運営一同楽しみにしています"

 俺は落ち込んだ。高熱で学校に行けなくなった時くらいに落ち込んだ……。そうだ、これは俺への挑戦状と思えばいい。

 とにかくダイブしよう。話はそれからだ。そこから強くなっていけばいい。武器があれば装備して。アバターの個性を引き出せば結果オーライだ。

 俺はダイブギアを持ってベッドに向かう。装着したらログインワードを唱えた。

「ゲームアクティベート!」

 すると、仮想空間に俺を誘った。電子コードの海を渡って、長い長い洞窟を駆け抜けて行く。そしてやがてそのロード画面は終わりを告げ、最初の街にやってきた。

 ここが開始地点。右上にマップが表示されていて、そこにはソルダムと書かれていた。ソルダムというのはプラムの名前だ。

 この世界の街の名前は全て果物の名前でできているのかもしれない。だけど、それ以上に気になったのは俺のアバターだ。

 絶対変なのになってるって!!

 両手を見ると、真っ白のふっかふか。足は細く、身軽で高く跳べそうなイメージだ。近くに噴水があったので覗いてみると、頭のてっぺんに長く細長い耳。顔も丸顔で愛嬌のある印象だ。

「これって……。兎?」

 気付くのが遅いよ俺。ってか、兎って項目見てなかったんだけど。でも、どことなく強そうな気がする。

 まあ、それは置いておいて、チュートリアルを進めることにした。

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