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13番目の七不思議
小瀬木光
ホラー怪談
2024年07月27日
公開日
5,221文字
連載中
小学校に通う二人の少年は自分の学校の七不思議について調べていた。しかし、七つ目の七不思議だけは見つけられずにいた。毎日七不思議について調べていた二人はある日七不思議について書かれた文集を見つけてしまう。

第1話

「はあー、やっぱり見つからないなぁ」

 マサヒトは目の前に広げられた本とノートを見ながら一人でため息をついていた。周囲からは愛読書と思われている『第七小学校の歴史』も文字や絵で埋め尽くされたノートも第七号卒業文集も何度見返しても悩みを解決することができずにいた。

 今日こそは見つかると思ったのに、第七号卒業文集に七不思議の話が載っているとの噂を聞き内心で期待していたマサヒトの落ち込む様子は周囲から見ても明らかなほどであった。あまりの落ち込みように決して広くはない図書室で他にも利用者がいるにも関わらずマサヒトの周囲だけポッカリと穴が空いたように誰も近寄らない。

「マサヒト君、おまたせしました」

 聞き慣れ慣れた声に振り向くと待ち続けていた少年が本を抱え立っていた。少年はマサヒトの様子に笑みを浮かべると向き合うように椅子へ座った。

「何か新しい発見はありましたか?」

「全然。何も見つからなかったよ。書いてあったのは図書室と人体模型の話だけだった。ほらこのページ」

 マサヒトは机に広げられた第七号卒業文集を手に取るとページの一部を指し向かいの少年へと突き出す。少年は指し示された箇所をじっくりと確認していく。

「たしかにこの話はボクたちが既に調べたものですね」

「そうだろ。それで真司は何か収穫はあったのか?」

 真司はにんまりと笑みを浮かべると持って来た本の中から一冊を抜き取りあるページを開きマサヒトに差し出した。

「これがボクの収穫です」

 真司が指し示したページには裏・七不思議と呼ばれるものが記されていた。裏・七不思議にはマサヒト達がこれまで調べていた七不思議が一つも存在しない第七小に起きる不可思議な六つの出来事が記されていた。マサヒトは裏・七不思議の文字を見た瞬間、目を輝かせひったくるように真司から本を奪い取ると一文字も読み逃さないとばかりに真剣な表情で裏・七不思議について書かれたページを読み進めた。真司はマサヒトの行動を予想していたようで驚くことはなく本に真剣な表情を浮かべる様子を面白そうに眺めている。

 しばらくするとマサヒトは本を読み終えたのか本から視線を外すと机に広げられたノートを手に取り空白のページに一心不乱に何かを書き込んでいく。一通り何かを書き終えると今度はノートのページをめくりながら真剣に考え始めた。

 ようやく顔を上げると小さな声でぽつりと呟く。

「七不思議は2種類あったのか」

 その言葉に満足したのか真司は嬉しそうな表情を浮かべていた。

「満足してもらえるものでしたか?」

「もちろんだよ。こんなにも僕の知らない七不思議がこの学校にあるなんて真司が見つけてくれなかったら僕は人生の半分損してしまうところだったよ」

 興奮冷めやらぬ様子で今いる場所のことも忘れ声高らかに真司へ感謝の言葉を次々とぶつけていく。

 ゴホン。ゴホン。近くから咳払いが聞こえる。近くまで来ていた司書の先生の様子にようやく今いる場所がどこかを思い出したマサヒトは冷水を浴びせられたような気分になり落ち着きを取り戻すと他の利用者や司書の先生にすぐに頭を下げた。

「それでこの本はどこで見つけてきたんだよ」

 打って変わり声を潜めながら話始めたマサヒトだが、その瞳には未だ収まらない興奮を隠せずにいる。

「校長先生から借りたのですよ。ボクたちが七不思議について調べていることをお話しすると快く貸してくれました」

「真司は校長と仲良かったもんな。そんなことはおいといてこれ見てみろよ。全部の七不思議をまとめてみたんだよ」

 自慢げに真司へと見せたノートにはこれまで二人が見つけてきた六つの七不思議と新たに見つけた六つの七不思議がまとめられていた。そして最後に一つ、二つのグループとは分けられた位置に七つ目とだけ書かれた空白がポッカリと空いていた。

「真司が持ってきてくれた本によると七不思議は二つあるらしいし、この本に書かれているのは裏・七不思議って名称でまとめられたものだから僕たちがこれまで調べてきた七不思議とは別のグループみたいなんだ。それぞれの七不思議をまとめるとノートに書いたみたいになるはずなんだけど、どっちも七つ目が曖昧なんだよね」

「七つ目の七不思議もその本に書かれていますよね」

 先に本に目を通していた真司はその詳細までは読んでいなかったのか知らなかったものの、七つ目について記述されていることを理解しているようだった。

「たしかに書かれてはいるけど……」

 マサヒトらしからぬ歯切れの悪い言葉に首をかしげながら真司は確認するように本の七不思議が書かれたページを読んだ。

「七つ目は、全ての七不思議を知ると扉が開かれる、ですか」

「意味がわからないでしょ。何の扉かもわからないし、その本には結局扉は開かれなかったとしか書かれたないんだよね」

 マサヒトの言葉通り、本には七つ目の七不思議について書かれた後扉が開かれることはなかったと記されていた。この言葉が引っかかるようでマサヒトは七つ目の存在を認めて良いのか判断に迷っているようだった。

「それにこの文集の最後の言葉、私が忘れたあなたは……ってのも気になるんだよね」

 これまでの丁寧でまとめられた文章とは打って変わりページの最後に書き殴るように書かれた言葉が素直に裏・七不思議を受け入れることを拒ませていた。

「それでは一度ボクたちが見つけてきた七不思議も含めて一通り確認してみませんか。何か良い気づきに繋がるかもしれませんよ」

「うん、そうだね。せっかく新しい七不思議も見つかったことだし一度確認してみるか」

 マサヒトが戸惑いながらも納得したことを確認すると真司はノートに目を向け、自分たちが見つけた一番最初の七不思議を指さした。

「まず、一つ目ですね」

「美術室のモナリザだな」

 美術室のモナリザとは夜になると美術室に飾られたモナリザの絵がひとりでに動き出すというものであった。動いている姿を目撃したという話は聞かなかったものの、朝になるとモナリザの飾られている位置や描かれている絵が変わっているという七不思議だった。マサヒト達は確かめるために何度も美術室に通い写真を撮って前日のモナリザと比べていた。

「二つ目は、歩く二宮金次郎像か」

 校庭の片隅にひっそりと設置された二宮金次郎像。普段はほとんど人の訪れないその場所に何故か雨上がりの朝には足跡が残るという噂から調べた七不思議であった。何度も夜にこっそり校庭を訪れたもののマサヒト達は出逢うことができず、満月が雲に隠された夜の翌日に像に向かった足跡が残っていたが、像の場所から帰った足跡がなかったため動いたのではと噂になった出来事だった。

「三つ目は、理科室を掃除する人体模型だな」

 この七不思議は夜に理科室を動く影を見たという話といつも理科室だけは綺麗に掃除されているという話から調べた七不思議だった。こっそりしかけたカメラで撮影しようとしたマサヒト達だったが、翌日確認すると録画が勝手に止まっているカメラを回収することしかできなかった。

「四つ目は、真夜中に音楽室から聞こえるピアノの音か」

 この七不思議と六つ目の七不思議は二人が最もその存在を認識した七不思議であった。音楽室にこっそりしかけたボイスレコーダーから途絶えることなく何時間も聞こえてくるピアノの音にマサヒト達は明確に七不思議の存在を認識することができた出来事であった。

「五つ目は図書室の貸し出し帳簿だったな」

 夜になると勝手に貸し出し帳簿に名前が記されていくこの七不思議はマサヒト達にとって最難関の調査となった。貸し出し帳簿を使って記録されている本が図書室にほとんどなかったため、まずは本を探すところから始まった。後から考えれば図書室にいる先生に聞けば良かったのだが、当時は思いつくことができず一ヶ月以上本を探し続けたところでようやく一冊見つけることができた。しかし、そこからさらに困難を極めたのは真夜中ならいつでも書き加えられるわけではなく、満月の夜に書き加えられるという事実に気づくためにさらに一ヶ月かかり、確認するために合計で三ヶ月以上かかったためであろう。

「六つ目は夜体育館に響くボールの音だな」

 この七不思議は音楽室同様ボイスレコーダーを使うことであっさり知ることができた七不思議であった。ボールをドリブルするだけの音が何時間も録音されていたためかなりシュールであった。

「この六つが僕たちが見つけた七不思議だったね」

「次はこの本に書かれている七不思議ですね」

 当時を思い出しながらどこか感慨深くなっているマサヒトを気にすることなく真司は次の七不思議へと促した。

「次か。次は一つ目がプールに引きずり込む影か」

 夜、学校のプールを訪れると黒い手が追いかけて来て捕まるとプールの中へ引きずり込む。

「二つ目は魔の十三階段だな」

 屋上へ続く本来十二段しかない階段が時折十三段の階段へと変わりその階段を登りきると二度と抜け出せない赤い沼へ引きずり込まれる。

「三つ目は踊り場の鏡で」

 二時二十二分に踊り場にある鏡に姿が映ると鏡の中の自分がニヤリと笑いかけ、鏡の世界へ引きずり込み自分と入れ替わる。

「四つ目は無人の放送室か」

 夜の学校で誰もいない放送室から聞こえる無言の放送を聞くといつの間にか気を失い起きたときには別世界へと飛ばされ声を失う。

「五つ目は夜増える教室だな」

 夜になると現れる存在しないはずの教室があり、入れば最後存在しない教室の生徒として一生を過ごすこととなる。

「六つ目は新月に咲く桜、これだけ他と違うな」

 校庭にある咲かないはずの桜の木が新月にだけ鮮やかな紅い花を咲かせる。七不思議を調べていくうちに咲く花の数が増えたらしいが理由まではわからないようだった。

「七つ目がすべての七不思議を知るとの扉が開く、か」

 何度読み返しても一切明確な記述が見つからない七番目の七不思議に頭を悩ませる中、マサヒトの様子を気にすることなく真司は一人窓から空を眺めていた。

「月がきれいですよ」

 普段であれば聞き逃してしまうであろう小さな声が部屋に響き渡る。

 不思議に思いながらもマサヒトは真司の視線追うように窓の外を見た。外には先ほどまで昇っていた太陽が存在せず黒い空に紅い月が怪しく光り輝いていた。

「紅い、月……」

 驚きのあまりその場で固まってしまったマサヒトは既に周囲に誰もいないことに気づく余裕はなかった。

「おめでとうございます!すべての七不思議を知ることができるとは。貴方様はかれこれ二十年ほど現れることのなかった偉業を為しえた方となったわけです」

「真司、どうしたんだよ」

 真司の一変した様子にマサヒトは咄嗟に真司の肩を掴もうとした。しかし、真司はくるりと背を向けることでその手を躱す。

「伝え忘れておりましたが、私は正人様の御友人の真司君ではありません。単なる七不思議の創り出す異界への案内人です」

「案内人?」

「その通りです。実はこの七不思議は貴方様がお知りになったように表の六つと裏の六つが存在し、七番目の七不思議は表も裏も共通のものなのですよ。そして表と裏合せて十二の七不思議が揃ったとき十三番目の七不思議が現れるというわけなのです」

「でも、僕が全部知ったときすぐに現れ、」

「その通り、知っただけでは現れないのが十三番目なのです。十二の七不思議を声に出すことで扉が現れるわけです。そう、あなたの足下のように」

 マサヒトが恐る恐る足下へ視線を向けるとそこには先ほどまであった図書室の床ではなく、赤く染まった真っ赤な扉があった。扉からは久方ぶりのギギッ

「扉の向こうへ行けばもう二度と帰って来られませんが、ご心配なさらないでください。貴方様が生きた証はこちらの世界にも見える形で残りますのでご安心ください」

「待って。帰れないってどういうこと。僕は扉の向こうになんか行きたくない」

 マサヒトの叫びも縋るような目線も気にすることなく目の前の案内人は淡々と説明を続けていく。

「念のためお伝えしますが、拒否権はございませんので。ちなみに裏話なのですが、マサヒト様が不思議に思われていた裏七不思議の六つ目、あの桜の花が貴方様の生きた証になるのですよ。あの花の数だけ私たちの世界に来た方がいらっしゃるので年々綺麗になっていくはずなんですよね」

 普段であれば飛びつくような案内人の話も今のマサヒトには恐怖を煽る内容でしかなかった。どうにか扉から足を動かそうとするものの、糸で縫い付けられたかのようにその場から足を動かすことができない。

「せっかちな方ですね。心配なさらずとも今連れて行って差し上げますよ」

「嫌だ。行きたくない。僕は、僕は、」

「すぐに真司君も連れて行きますので安心していてください。もっとも真司君は貴方様のことを知らないかもしれませんがね」

「それってどういう」

 マサヒトの言葉を遮るように視界は次第に闇に覆われていく。ギィ、という古い扉が開く音が足下から聞こえる。

「ようこそ、私たちの世界へ」

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