学園の桜も寮の桜も、あっという間に散ってしまい、木々はどんどんと緑を深くしていった。
休むことなく進んでいく季節。
五月の連休が過ぎる頃には、セーラー服は冬服と夏服の間の合服に変わり、夏の顔が見え隠れし始めている。
私の通う私立
先生の中には男性もいるけれど、生徒は女の子しかいない。
その学園の中等部に在籍する、私、
「ゴールデンウィークがもう少し長かったらいいのに」
真鍮の手すりがついた、真っ白な螺旋状の階段を教室がある三階まで上がる途中。隣を歩く
「ねぇ、常葉もそう思わない?」
大きな赤いリボンで結われたポニーテールを揺らし、私に首を傾げる彼女は、一年生のときからのルームメイトで同級生だ。
「私はちょっとお休みにあきてしまっていたから」
「え、そうなの? 私はもっとパパとママと過ごしたかったな。常葉もお家に帰ればよかったのに。春休みも帰らなかったんでしょう?」
「うん。でも、私のお家、遠いから。短いお休みに帰るとバタバタしてしまうから」
「そっか」
夏休みや冬休みといった長期休み、ゴールデンウィークといった長い連休には、実乃ちゃんのように寮からお家に帰る生徒が多数で、私のようにお家までの距離が遠いなどの理由で寮に残って生活する生徒もごく僅かだけれど存在する。
実乃ちゃんと話をしながら辿り着いた三階。廊下の突き当りにあるのが私のクラス、三年A組だ。
「常葉さん、ごきげんよう」
「ごきげんよう」
教室の扉の前、すれ違うクラスメイトにするこの上品な挨拶も、中等部の最高学年になってようやく、照れることなくできるようになってきた。
廊下に一番近い列の、前から三番目。進級してからまだ変わっていない、出席番号順に並んでいる自分の席にスクールバッグを置いて支度をする。
今日は第二周目の月曜日。中等部、高等部を合わせた全校集会がある日だから、少し急いで準備をして、すぐに講堂へと移動しなければならない。
中等部、高等部の生徒が全て入る講堂はとても広く、まるで演劇ホールのように折り畳み式の椅子がずらりと並んでいる。
前から順番に中等部の一年生、次に二年生、そして三年生が座り、その後ろを今度は同じように高等部の先輩たちが座っていく。
一年ごとに後ろに下がっていく席が嬉しくもあるけれど、一年生の頃は大人に見えていた三年生の席に今自分が座る立場になっても、当時の先輩たちのような雰囲気になっているように私は思えなかった。
一番後ろの席に座る頃には、私も先輩たちのような大人になれているのだろうか。
高等部の教頭先生の司会進行の元、集会は順調に進んでいく。学園長先生のお話はいつもどおり少しだけ長いけれど、今日は誰もごそごそせずにいるのは、次への期待があるからだろう。
「それでは次に、生徒会長から今月のごあいさつを」
一瞬にして講堂中の視線がそちらへ向くのを感じる。
まるで有名人でも出てきたような……いえ、この学園では、彼女はとても有名な人であることには間違いないのだけれど。
「みなさん、ごきげんよう」
私語厳禁な集会で、登壇した彼女が一言そう発するだけで、どこからともなく息をハッと吸い込むような、静かな歓声が上がる。
毎週月曜日に集会はあるけれど、生徒会長のお話が聴けるのは、毎月第二月曜日に行われる合同集会だけだから、中等部の生徒は特にこの日を楽しみにしている。
「今月、私たち生徒会の活動は……」
誰かの、「うつくしい」と思わず漏れてしまった小さな声が聞こえてきた。そっと周囲を見回してみれば、誰もが少し身を乗り出し、生徒会長の話に耳を傾けている。
もしかすると、お話ではなく、彼女の姿にひき付けられてしまっているだけなのかもしれないけれど。
高等部二年の、
「かわいい」よりも「うつくしい」「かっこいい」と表現されることの多い人。
手元の紙を見ていて伏し目がちだった、切れ長できゅっと目尻の上がった瞳があげられる。目が合いそうになるわけでもないのに、私はいつも視線をそらしてしまう。
私は、みんなと違って、彼女のことが、少しだけ、苦手だから……。