---
窓辺に三毛猫が佇む、その目は夕暮れの光を映す。
静かにフルートの旋律が流れ、猫の耳は微かに揺れる。
柔らかな風は部屋を通り抜け、フルートの音は高く、遠く。
三毛猫の瞳は物語を語るよう、古い言葉を静かに歌う。
一音一音、心に触れて、三毛猫は優雅に目を閉じる。
世界はいっとき静寂に包まれ、音楽は夢へと導く。
フルートの響きに乗せ、三毛猫のしっぽがリズムを刻む。
夜が深まるにつれ、二つの魂は優しく語り合う。
この小さな部屋で、時はゆっくりと流れる。
三毛猫とフルート、永遠の調べを静かに奏でる。
---
「えっと、どうかな。美咲のフルートとミケの夢をイメージして書いてみたんだけど…」
あれから一週間、私はずっと結衣お姉さんの詩の完成を待ちわびていた。
だけど急かすことは絶対にしたくないし、携帯のメッセージで送ってもらうのも違う気がして、お互いが何も言わずとも『次にあの公園で会ったときにお披露目する』という流れになった。
そして私がお願いしたわけでもないのに、結衣お姉さんはわざわざノートに手書きで書いてくれた。パソコンや携帯に入力してあるものでも良かったのに、アナログな方式で結衣お姉さんらしい優美でなめらかな文字が躍っている。
そして何より…その詩だ。
「……結衣お姉さん」
「な、なに? やっぱり稚拙だった?」
「素晴らしいです…」
結衣お姉さんの詩は、とても美しかった。
詩集は音楽のインスピレーションにつながるし、家にはそうした本が多いから、私もちょくちょく目を通すようにしていた。
けれど…結衣お姉さんが紡いだ詩は、そのどれとも違う。
どれも違ってどれもいい、それは間違いないけれど。
でも、これは間違いなく結衣お姉さんにしか書けない。
寂しさすら感じる静寂が漂う中、フルートの音があまりにも自然に聞こえてくるかのよう。
そうして多くの物語を知る三毛猫が私を夢へと誘い、やがて結衣お姉さんと寄り添わせてくれる光景がありありと見えた。
押しつけがましくないのに心に残って、寂しいのに優しくて、ただゆっくりと流れていく時間の中で静かな音を感じ取れる。
「本当に、良すぎて…結衣お姉さんの全部が詰まっている気がして、それを見られて…本当に良かったです…」
「えっ、あの…美咲、泣いてるけど…その、悲しいわけじゃないよね?」
「もちろんです…人ってね、美しすぎるものに触れたとき、感情が溢れちゃうんですよ…」
「…そっか。ごめんね、わたしはまだそこまで立派な芸術を理解できていないけど…美咲が芸術で感情を出そうとする気持ち、ちょっとだけわかった気がするよ。本当にありがとうね」
こちらこそ、そんな言葉を伝える前に結衣お姉さんは頭をぽんぽんと撫でてくれた。
「ミャオ、ミャオ」
そして普段はのんびり屋なミケちゃんも私の涙を見て慌てたように短い鳴き声を連続で出して、ベンチに座る私の足に乗ったり降りたりを繰り返す。
結衣お姉さんの優しさに包まれていると忘れそうになるけれど、ミケちゃんだってとっても優しいのだ。そんなことを思い出すと涙はゆっくりと収まって、私は自然に笑顔を浮かべられる。
「ふふっ…私、二人に会えて本当に良かったです。だから、これからもどうかよろしくお願いしますね」
「こちらこそ。美咲のおかげで芸術の楽しさに目覚めそうだし、また新しいのを書いたら感想を聞かせてね」
「ミャア」
涙を拭って笑顔でお礼を言うと、二人はやっぱり同じように笑って返事をしてくれた。
この日、ミケちゃんは泣いてしまった私に気を遣ってくれたのか、お腹を触っても面倒そうにはしなかった。