「やっぱり、ミケちゃんって不思議な子です。また夢に出てきてくれました」
次の日、私ははやる気持ちを抑えつつあの公園へと向かった。
なんとなくだけど、今日も二人に会える気がする。そうした衝動に従うと本当に結衣お姉さんもミケちゃんもいてくれて、結衣お姉さんに至ってはまだ二回目の対面なのに、私は昔からの親友に会えたような気持ちになっていた。
「もしかして、ミケが遊んでいるような夢?」
「そ、そうです! 結衣お姉さん、もしかして?」
「うん、わたしもそれっぽいのを見たよ…にしても、今日の美咲はちょっと興奮してるね?」
「あ、す、すみません…」
結衣お姉さんの隣に座るように腰を下ろし、昨日の夢のことを簡潔に話す。すると結衣お姉さんの口から出てきたのは私が見たものと概ね同じと言えそうな内容で、その偶然にしてはできすぎている一致につい前のめりになってしまった。
そんな私の様子にも結衣お姉さんは冷静に対応してくれて、引いた様子はなかった。それどころか昨日と同じ小さいけれど優しい微笑みを浮かべてくれて、本当に妹のように扱ってくれているような気持ちになれる。
「でも、美咲の気持ちはわかるよ。わたしもあの夢を見た影響かな、今日もここに来たくなっちゃって。連絡先も交換していないから会えるかどうかわからないのに、今日も美咲とミケが来てくれた」
「あ、そういえばそうですね…せっかくお友達になれたのに」
「ウナン」
結衣お姉さんの言葉に私は初歩的なミス…連絡先の交換を忘れていたことに気づく。よくよく考えるとここに来るときはフルートは忘れないのに、携帯電話はちょくちょく家に置いてくることがあった。
…おかげでお兄様にも「持ち歩かないと携帯電話とは言わんだろう」ってたまに呆れられるけど。
「じゃあ交換しよっか?」
「はい、もちろん…あの、よろしければ、今度遊びに誘っていいですか?」
連絡先を交換するということはもっと仲良くなれるチャンスでもあるわけで、そうなったら遊びに誘えるかもしれない…私の中にそうした期待が生まれた。
結衣お姉さんは冷たい感じは一切ないけれど、それでもそのクールな態度から距離の詰め方が難しそうで、誰かと親しくなるのに時間がかかる私だと誘うのにも苦労しそうだと思う。
だから私としては連絡先が交換できただけでも上々で、いつかは誘いたいという気持ちを伝えるのですら大胆だったつもりなのに。
「ん? それじゃあ、今度どっか一緒に行く? ミケを見てたら遊びに行きたくなったんでしょ?」
「……え? あ、あの、いいんですか?」
結衣お姉さんはいとも簡単に、私が事前に想定していたハードルを乗り越えてきた。その軽やかで気負わない様子は塀を跳び越える猫みたいで、そういう意味だとあの夢のミケちゃんを見ているよう。
…もしかして、これも夢なのかな?
「うん、もちろん。わたしもミケの影響でちょっとだけ遠出したくなったから。普段歩く道もいいけど、ちょっと違う道を歩くとわくわくするからね」
「は、はいっ。何卒、よろしくお願いいたします」
「堅いなぁ…美咲、お嬢様でしょ?」
「そ、そんなことないです。私の家は芸術家ばかりなのでちょっと変わってるかもですけど、私は普通…普通?ですかね?」
「わたしに聞かれてもなぁ…でも、美咲を見てると飽きないよ。そういう意味だと変わってるかな?」
「い、いじわるですね結衣お姉さんっ!」
「あはは、ごめんね」
実際はいじわるどころかとっても暖かい人だって思っていたけど、つい勢いでむくれてしまう。
でも胸の奥は未知の『遊び』への期待でいっぱいで、ようやく私は少しだけ自由に、ちょっと違った外へと踏み出せた気がした。