最近、眠ることが好きだった。元々私はお昼寝が好きで、夜だってたくさん眠っていたけど、今は「またあの夢が見られないかな」なんて思えるから。
そして、この日も夢を見た。
「ミケちゃん、こんにちは…こんばんは?」
『ナウン』
場所はあの公園…じゃなくて、屋根のない囲いがたくさんあるような、元々は住居だった場所が史跡になって、いつしか観光地になった雰囲気のある風景が広がっていた。
真っ白な壁が迷路のように並び、所々にペンキやスプレーでイラストが描かれていた。そのモチーフは様々で、太陽や花、青い夜空といろいろある。
その芸術を感じさせる光景は海外のようでありながら、私にとっては妙になじむ雰囲気があった。私の専門は音楽だけど、姉様が絵を描いていることもあって、こうした分野からも刺激が得られる。
もうこれだけでいい夢だなんて思えたけど、やっぱり注目すべきはミケちゃんだ。
「あら? ミケちゃん、今日はやんちゃですね」
『ウナナー』
これまではのんびり屋のイメージがあったミケちゃんだけど、今日はとってもアクティブだ。
塀に上ったかと思ったら、薄い壁を平均台のようにしてテンポ良く歩く。それに飽きたら地面に降りて、いきなりまっすぐ走り出す。
そしてタンブルウィードのような草の塊を見つけたらそれにじゃれついて、全身を使ってせわしなく…遊んでいた。
「ミケちゃん、とっても楽しそうですね」
その様子を見ていると私まで楽しいって気持ちが膨らんできて、ちょっとだけうらやましいとも感じ始めていた。
猫は、自由だ。その生き方も性格も、全部が人間の見る世界から解放されていた。もちろん猫だって大変なことはあるけれど、私も人間として育ってきた以上、そんな生活を送る立場から見ることしかできない。
(…そっか。私、自由に憧れているんだ)
自由。それは言葉で表すにはあまりにも広々としていて、だけど人間はその広さの中に囲いを作る。そうしたルールがあるからこそ私たちは安心して生きていられるけど、芸術と自由は切って離せないように、狭い囲いの中だと芽吹きを阻害されているようにも感じた。
そして私は、きっと…囲いの中で生きることに、安心を感じている。だから新しい場所になじむのが遅くて、フルートも狭いところで吹き続けて、もっと広い場所でたくさんの人に聞いて欲しかった…のかな?
少なくともあの公園で吹いているときの私は自由で、自分の芸術が育っていくのを感じている。
『ウーニャニャ』
タンブルウィードとの戯れにも飽きたのか、ミケちゃんは私の足に頭を擦り付けて、甘えたような高い声を出す。
「もしかして、次は私と遊んでくれるんですか?」
その様子に私は上機嫌になって、しゃがみ込んで両手を使ってミケちゃんをなで回す。
たくさん遊んでこの子もご機嫌なのか、今日は頭以外に触れても怒らない。だけどまだ遊び足りないのか、時々私の手を猫じゃらしのようにぺちぺちと叩いてきて、まったく力が入っていない上に爪も出ていないから全然痛くなかった。
もう知っていたけど、ミケちゃんはとっても優しい猫だった。
私と遊んでくれて、私に大切なことを教えてくれて。
「…そうですね。もっと自由に、楽しまないと」
ミケちゃんとの戯れで理解できたことを確認するように、私は小さく口にした。