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第2話「不思議な夢・出会い」

 夢を見ていた。それは夢と言うにはあまりにも現実的な風景で、なんで自分が夢を見ていると思えるのかはわからなかったけれど。

 私は公園にいた。その日、とても可愛らしい三毛猫と出会えた場所。きっと地元の方からすると何の変哲もないスポットだろうけど、私にとってはもう十分特別な場所になってくれた。

 そして、私はまた会えた。

 かわいいかわいい、猫さん。さんさんと降り注ぐ陽光に三色の毛並みを輝かせて、香箱座りで目を閉じている。

 ああ、やっぱり可愛いなぁ…そんなことを考えて、私は上機嫌に歩いて行く。

 まもなく伸ばした手が触れられる、そんなタイミングだった。


『ミャオ』

『にゃっ』


 三毛猫は突如として目を開き、横を向いて挨拶するように短く鳴く。

 その視線を追いかけると黒猫がいて、その子も同じくらい可愛らしい。

 黒猫は三毛猫の隣に移動して、同じように香箱座りになって向き合った。


『ニャーオ』

『なーん』


 それはとっても穏やかな鳴き声で、お互いにリラックスしていることがわかるような音色。猫同士の会話なんて珍しい…はずなのに、どうしてだか私はその音に聞き覚えがあると感じていた。

(ああ、この音は…)

 その答えに行き着くのには、さほど時間は必要なかった。

 私と話しているときの三毛猫の鳴き声に似ていたけど、それだけじゃなくて…私が自然の中で吹いた、フルートの音にも似ていたんだ。

 とても力が抜けていて、自然で優しい音色。私の中の芸術が形になりつつあるような、未完成だけどずっと吹き続けたくなるような旋律。


『ミャミャ』

『にゃにゃ』


 ああ、今が夢の中だというのなら…手元にフルートが出てきてくれればいいのに。

 そう思ってしまうくらい、吹きたい。あの猫たちの歌声を楽譜に見立てて、私の音を出してみたい。

 そんなことを思っていたら、三毛猫は私のほうに向き直って…お座りのようなポーズをしたかと思ったら、まるで置物のような手招きをしてくれた。

「私もそっちに行っていいんですか?」


『ウニャ』

『うみゃ』


 まるで返事をしてくれるように、二匹同時に鳴いてくれて。

 私が椅子に向かうとまるで真ん中へと誘うように二匹は距離を開けてくれて、私はそこにすっと収まる。

 すると今度は私を挟んで猫たちが会話をして、どうしてだか私はその内容がわかるような、頭の中に直接届いたような、不思議な音が鳴り響いた。

「新しい場所になじむなら、出会いが必要…ですか?」


『ナオ』

『なおなお』


 なぞなぞに正解した子供を褒めるように、二匹の猫は私の膝にぽんぽんと手を置いた。肉球から伝わる温度は春の太陽みたいに暖かくて、思わず口からほうっと息を吐く。

 猫の言うこと──そもそも本当にそう言っているのかどうか他の人なら怪しむのだろうけど──を噛み締め、私は考える。

(新しい場所になじむなら、昔からその場所にいた人と仲良くなればいい…そっか)

 それは小さな頃は当たり前のようにできていたことで、人間は大人になっていくほどそうしたことができなくなる。

 私だってまだ子供と呼べる年齢なのに、どうしてそれを忘れてしまっていたのだろう?

 …いや、私の場合…小さな頃から、周囲になじむのに時間がかかっていたかも。

 思えばもっと小さかったうちから芸術に触れて、それで自分の内面にある美しさの形を見つめようとしていたから、いつしか周りを見ることが苦手になっていたのかな?

「…二人とも、すごいですね。私に大切なことを教えてくれて」


『ニャン』

『にゃにゃ』


 もしかしたら私がそう思っているだけかもしれないし、見当外れな考え方かもしれないけれど。

 それでも私がお礼を伝えつつ二匹の頭を撫でてみると、どちらも目を細めて可愛らしく上機嫌に鳴いてくれた。

 その響きには親愛を感じられて、まるで『自分たちはもう友達だ』なんて言ってくれているみたいで。

 だから私は、ちょっとだけわがままになってしまった。

「ね、出会いが私を変えてくれるのなら…素敵な人と巡り合わせてくれませんか? あなたたちなら、とってもいい出会いを運んできてくれそうです」


『ミャー』

『にゃー』


 三毛猫が返事をするように高くきれいな声で鳴くと、コーラスするみたいに黒猫がそれを引き継いだ。

 そして三毛猫は立ち上がって背伸びをしたら、のそのそとゆっくりどこかへ歩いて行く。

 それと違って黒猫は今も椅子の上で寝転んでいた…かと思ったら、私の膝にゆっくりと登ってくる。もちろん全然いやじゃなくて、私はもふもふとして暖かい感触が膝上に生まれたことにどうしようもなく嬉しくなって。


『──ね』


 その頭を撫でたら私のほうを向きながら、猫のようでありながらも…まるで人の言葉に聞こえそうな音色を口にした。

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