それは今にも降り注ぎそうなほど多くの星が輝く、あまりにきれいな夜空。キラキラと光る星たちは一緒に歩く私たちを照らして、暗闇の中でも前に進む足によどみはなかった。
ととと、今日も小刻みに歩くあなた。いつもあなたは私の前にいて、大切なことを教えてくれた。
今日は何を教えてくれるの? そんな質問をしそうになるけど、私は何も言わずにピンと立てられた尻尾を追いかける。
どこまでも広がっていそうな草原を歩き続けて、ようやくたどり着いた。そこは真っ白な花畑で、花の品種はわからないけれど、白くて大きな花びらはお辞儀をするように頭を垂れている。
空に浮かぶ星以外は何の光源もないのに、足を踏み入れた私の体を白く照らすようにぼんやりとした光彩を放っていて、きっとこの花自体が光っているのだと思った。
空に浮かぶ星も足下で輝く花も美しいのに、私の視線はただ前を見ていた。
だって、そこにあるもの…花畑の中心で両手を広げ、踊るようにくるくると回っている人のほうが、もっと美しいから。
長くて黒い髪は空から降ってきた星の光によって天の川みたいにきらきらと輝き、細くて優美な足は白い花のもやのような煌めきに包まれ、私は呼吸すら忘れてしまったかのように、わずかな動きすらできずに釘付けとなっていた。
そんな何もできない私に気づいたその人は、微笑みを浮かべてゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。そして目の前に来たらそっと私の頬に手を伸ばしてきて、フルートよりもよく通りそうな声でこう伝えてきた。
『きれいだね。こんなに美しいもの、初めて見たよ』
一瞬、夢から覚めたかのように視界が真っ白に染まる。だけどちらつきながらも定まった視線は美しいままの光景に向けられていて、私にまだ伝えないといけないことがあると全身が伝えてくる。
それは決して重要なことじゃないけれど、私の心からの言葉。
もしかしたら前から思っていたことなのかもしれないけど、伝えるなら今しかないって信じられた。
『──お姉さんも、すごく美しいです。多分、私が見てきたものの中で、一番』
そうだ、私はずっとこの人のことを。
そして自分が感じた『美しい』という感情を伝えるために、私は。
そんな確信めいたひらめきを打ち消すような鳴き声…「ニャーン」という聞き慣れた音が響いたとき、私の視界は今度こそ完全に白へと染まった。