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第30話:思ってたより話が重い

 ムルが告げた言葉、そのあまりにも悲惨な内容に、廃屋の中は押し潰されそうなほど重苦しい空気で満たされている。黙ってフード付きポンチョを着なおすムルに、シマノは何と声を掛けたらいいのかもわからなかった。

 姫様の従者ウティリス――これまで一度として地底民の言葉などに耳を傾けようとはしなかった彼でさえも、困惑の表情を浮かべている。


「姫様……この者の言葉は、まことなのですか?」

「……ええ、本当よ」

「なんと……」


 思わず言葉を失い、ウティリスは二の句を継げないまま目線を泳がせた。その様子に違和感を覚えたシマノは、ここぞとばかりに会話に切り込んだ。


「どうして姫様が、地底民の秘密を知ってるんですか?」

「これまでの調査でわかりましたの。そして、さらなる調査が必要ですわ」


 姫はそう言うと改めてムルに向き直る。


「ムル、わたくしは王家の一員として、地底でかつて何が起きたのか把握する必要がありますの。力を貸してくださらない?」


 姫はムルをじっと見つめ、真っ直ぐに右手を差し出す。

 だがその手は、ムルによって跳ねのけられた。


「王家の者に頼ることなどない」

「貴様ァッ!!」


 ウティリスが般若の形相で飛び出してきた。これはさすがにまずい。シマノは急いでウインドウを開き、ムルを庇うように前に出る。


「おやめ!!」


 姫様の一喝でウティリスの動きが止まった。とはいえ一触即発の状況であることに変わりはない。とにかく今はこれ以上ウティリスを刺激しないよう、ムルを説得するしかない。


「ムル、どうしてそこまで王家を拒むんだ? 石の正体と王家に何か関係があるのか?」


 フードを被ったムルは、俯いたまま何も語ろうとしない。だが、やがてぽつりと言葉を零した。


「我らに主を殺させたのは……王家だ」


 最悪の展開だ。シマノは姫様たちをこの場に連れてきたことを心底後悔した。

 一方、姫様もムルの言葉に息を呑んだ。どうやらこの姫様、地底民の主殺しの原因が自分たち王家であったことを知らなかったらしい。


「そんな……わたくしたちが……?」

「そうだ。お前たちが我らを支配し、主を殺めさせた」


 そう答えたムルの声は震えている。


「ちょっと待って。じゃあ、もしかして、地底民が地底に追いやられてるのも、全部王家のせいってこと……?」

「我も、詳しく知るわけではない。サピに残されていた記録を調べて、初めて知ったのだ。……ずっと疑問だった。かつて我らが犯した罪とは何なのか、何故石の声が聞こえるのか。全て、お前たち王家のせいだった」


 とんでもないことになってしまった。ムルの怒りは当然のものだ。いくら知らなかったとはいえ、原因の張本人である王家の人間が関わろうとするなんて言語道断だろう。

 重苦しい沈黙が場を支配する。暫く後、その場を姫様の言葉が崩した。


「ムル。わたくしたち王家がかつてしてしまったこと、知らなかったとはいえ、まずはわたくしから謝らせてちょうだい。本当に、ごめんなさい」


 そう言って深く頭を下げた主に、ウティリスが慌てて声をかける。


「姫様、どうか頭をお上げください! このようなこと……まだ幼い貴女が背負うべき責務ではございません!」

「お黙り! わたくしは王家の正統なる後継者として……いいえ、この世界アルカナで暮らす一人のエルフとして、謝らないわけにはまいりませんわ」


 主の怒りを買い、ウティリスは所在なさげに身を引いた。


「謝罪など要らぬ。これ以上、我らに拘るな」

「いいえムル。それでもわたくしはあなた方地底の民に謝らなくてはなりませんわ。そして、わたくしたち王家が犯した過ちを正さなくてはなりません」

「……お前の都合など知らぬ。去れ」

「……わかりましたわ」


 拒絶の意思を告げ背を向けたムルに、姫様もこの場での説得は断念したようだ。


「わたくし、諦めませんわよ」


 姫様はウティリスを伴い、廃屋から出ていった。


「……しばらく独りにしてくれ」


 ムルの言葉に素直に従い、シマノも廃屋を出ることにした。


 廃屋を出たシマノの前に、何故か姫様とウティリスが並んで立つ。


「シマノ。わたくしはあちらの建物にいますわ。用事が済んだなら声をかけなさい」


 いかにもゲームらしい台詞だ。別の廃屋にいる姫様に話しかけることでフラグが立ち、次のイベントが始まるのだろう。


「じゃあ、そのまえに……」


 シマノは姫様たちを見送ると、そのまま二人のいる地点を避けるよう注意しつつ、廃村の瓦礫跡を片っ端から探索し始めた。


「ここでしか取れない隠しアイテムとか無いかな~?」


 ――数分後。シマノの手元にはその辺の魔物から採れる端材や、どの町でも簡単に手に入る消費アイテムが二、三個だけ握られている。


「しょ、しょぼい」


 ガックリと肩を落とし、シマノは仕方なく姫様のいる別の廃屋へと向かうことにした。


「うわっ……埃っぽいな……」


 姫様のいる廃屋は、先程の建物とは異なり石造りの頑丈そうなものだった。入ってすぐの部屋は広く、隅に粗末なベッドと文机が一つ。あとは壁一面にびっしりと本が並んでいる。それだけでなく、床の上にも積みあがった本があちこちに点在していた。

 どうやら姫様とウティリスはさらに奥の部屋にいるようだ。そして二人の代わりに、バタバタと足音を立ててはしゃぎ回っている子どもが一人。


「おっ! シマノ! 一緒に遊ぶか!?」


 たんこぶの痛みはどこかへ飛んでいったのか、キャンが元気に部屋の中を駆けずり回っていた。


「いや、遠慮しておくよ」


 あいにく今のシマノは子どもの遊びに付き合ってやれるほどの体力も気力も持ち合わせていない。粗末なベッドに横になり、穴の開いた天井をぼーっと見つめる。


「…………」


 キャンの立てる騒音を流し聞きながら、シマノは独り考え事に耽った。

 この世界ゲーム、思ってたより話重い。何かもっとこう……軽いノリの王道RPGかと思ってた……。この雰囲気だと味方の離脱イベントとかあってもおかしくない。「すべてのおわり」が何なのかはわからないけど、相当ヤバい事象を覚悟しておかないといけなさそうだ。

 そこまで考えると、シマノはベッドに寝転がったままウインドウを開く。色々ありすぎてすっかり忘れていたが、まだ全員分のスキルツリーを確認できていないのだ。

 シマノはスキルツリーの画面を開き、キャンのツリーを表示する。もしかすると、この先どこかで彼の適正に合ったスキルが手に入るかもしれない。

 狙い通り、キャンのツリーは凡人のシマノとは大きく異なる形で、要所要所にスキルの枝分かれルートが用意されていた。


「おぉー。いいねぇ……ん?」


 シマノの視線がある一点に留まった。それは、スキルとスキルの間、枝分かれしているその線の部分のすぐ上に、小さな字で何か書いてあるのだ。


「えーっと、『好感度3以上で解禁』?」


 好感度。この三文字にシマノの期待値は跳ね上がった。なんとこの世界ゲームには、好感度システムが存在している。好感度があるということは、それに付随するイベントも用意されているはず。この先、仲間たちと絆を深めるための、あんなイベントやこんなイベントが待っているかもしれないのだ。

 さらに、これまでの自身のスキル傾向を鑑みると、間違いなく好感度を見たり操作したりできるスキルが手に入るはずだ。


「……始まったな」


 シマノは独り呟き、ベッドの上で小さくガッツポーズをした。


 ***


「着いたみたいね」


 指輪のワープ機能を使い、ユイとニニィはどうやら無事目的地に辿り着いたようだ。到着を告げるニニィの声に、ユイはそっと目を開ける。

 だがそこは暗く、周囲の様子もよく確認できない。何かしらの建物の中ではあるようだが、いったいファブリカのどこに飛んでしまったというのか。


「ここは……?」

「とにかくまずこの部屋から出ましょ。一応お忍びだし、ライトは点けないで」


 ニニィの言葉に従い、ユイは二人でファブリカの職人の元を目指すことにした。


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