夜空が見える暗い夜道の中、俺は歩いている。
街の街灯は薄暗く、路地には人の気配すら感じない。
そもそもこんな時間に出歩いてる方が可笑しいのだ。もし警察に職質されたら一発アウト。
一応現役高校生の為、深夜徘徊はまずい。だけど、そんなリスクを犯してでも確かめたい事がある。
「まぁだからといってあるとは限らんか」
一人言が空へと消える。
まぁもしここにお目当ての物なかったら無駄足だな、その場合、流石に諦めるか。
変に動いて警察に疑われても困る。
今世間を賑わかせている変死──怪死の犯行を見てみたい。
そんな単純な淡いな気持ちであり、他の人からすれば危険思考と思われるだろう。
「それでも見てみたい、この胸に抱いた好奇心を解き明かしたい」
と、思った時、ズボンのポケットに入れているスマホが振動する。
スマホを取り出して見ると、画面にメッセージが表示された。知らない名前からだった。
『rewrite』
「一体誰だこれ? 流石に不気味すぎて怖いけど……」
名前もメッセージ内容も一緒でrewriteと書かれていた。それ以外は何もない。
ピロロンと着信を知らせる、『rewrite』と表示されている。恐る恐る──出てみる。
数分間、無音が続く、一体誰なんだ? 何で電話掛けて来た? 頭を回し、思考を巡らしても答えなんか出る訳がない。
「あの誰ですか?」
俺が聞いても言葉は返って来ない、だが、次の瞬間、通話と背後からほぼ同時に物音が聞こえる。
今のは偶然か? だとしてもあまりにも重なり過ぎている。
だとすると、自然に考えられるのはこのrewriteが近くにいる。一つの仮説を立てるだけ立て、通話を切った。
「……恐怖より好奇心が勝つ」
半歩、下がり踏み込む、物音をした方へ足を進める。
危険、もしくは例の犯人かもしれない。
「その時はその時だな」
客観的に考え、ひたすら足を進める。約、一、二分歩いた場所の横に路地裏がある。
ふと見る、するとそこには人が倒れていた。しかも地面には大量の血が流れている。
ゾゾゾと体が悲鳴を出す、危険だ、今すぐここから立ち去れ、
「君、見ちゃったんだ、じゃあもう死ぬしかないね!」
信じられないくらいの優しい声音、でもそれとは裏腹に冷酷な一言。ポンと肩に手が置かれる。
人の手にして異常なくらいの白い肌。
……多分死ぬ。恐怖で体が支配されている、死ぬならばせめて顔だけでも見てやる。
半歩前に体を出し、振り向く。
「白い肌に赤い瞳。それにその牙?」
「見られたならば殺すしかないな、まぁどっちみち殺すんだけど」
殺意を剥き出しに男はこっちを見る、ニヤニヤと楽しんでいる。
そんなに人を殺すのが楽しいか、ゲームでも何でもないんだぞ! 自分で思っといて馬鹿らしくなってきた。
殺すならば早くしてくれ、
「大丈夫かい少年」
「えっ?」
目を瞑ったのと同時に声が聞こえた。俺は目を開けるとそこには! 白銀の髪に碧眼の目を持つ少女がいた。
そして目の前にいるはずの男は首だけ無くなっていた。
「ねぇ君、名前は?」
「……十六夜」
「それ上の名前でしょ? 下の名前は?」
「ない、俺の名前は今も昔も十六夜だ」
「……なんだ私と一緒か。私はカナエよろしくね」
カナエと名乗る少女は優しい顔付きで微笑む。
本当に一体この子は何なんだ?
「十六夜君、ここから離れようか? 多分、もうじき……ホラね」
静寂の夜の中にサイレンが鳴り響く、少女はこれを予想していた。
「ここに君も私もいると容疑者にされちゃうからね〜」
いやあんたは確実に人殺しているだろ! と、内心でツッコミを入れるが、少女が言ってることに間違いはない。
少なからず、助けて貰ったのは事実だ。
「へぇここが君の部屋か。一人暮らし? 家族はいないの?」
「グイグイ来るすね」
少女──カナエさんと俺はあの場所を離れ、移動をした、したのはいいが行く場所が特に思いつかなかった。
だから自分の部屋に取り敢えず上げた。
「ん、まぁそうだね。ただの軽い雑談さ、沈黙でもつまらないし」
まぁ言っていることに一理あるか、見知らぬ女性と二人きり、沈黙でつまらないより気まずさが勝つ。
カナエさんはなさそうだな、人の部屋をジロジロと観察しているくらいだし、
「そんなに観察しても何もないですよ」
「君って案外ドライって言われない?」
「そうすかね? あ、まず人と喋る機会ないんでわからんす」
カナエさんは「ハハッ」と乾いた笑みを溢した。
沈黙に入った、うん、完全に滑ったな、だから人と話すのは苦手だ。
なにか、話題……話題、あ!
「カナエさんはなんで俺を助けてくれたんすか?」
「何を言うかと思ったらそんな事聞く?」
カナエさんは吹き出し、笑顔だった、さっきまでの凛々しい表情と違い、年相応の笑顔。そう感じとれた。
「逆に君はたすけて欲しくなかったの?」
「俺は……分からないです、あの時死を覚悟しました」
本当は少し違う、覚悟なんかしてない、もうここで終わりかくらいにしか思ってない。
「十六夜君、質問に答えて上げるから私のも答えて」
「分かりました。一体何ですか?」
「君を襲ったあの男は一体何だと思う?」
なんの意図を持っての質問なのか分からなかった。
あれは人間……本当にそうなのか? 頭では人間と認識している。でも体が拒絶をしていた。
あれは人間ではない別の生物だと。
「その様子だと少しは理解してそうだね。あれは吸血鬼さ」