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第102話 僕はヒロインの容態を心配する

 セラフィの葬式はつつがなく行われた。

 セラフィの墓の前には喪服のフェリックス、ミカエラ、ミランダが立っていた。


「どうして……」


 ミランダはセラフィの死を深く悲しんでいた。

 そっけない態度を取っていたが、内心では家族だと思っていたのだろう。


「……」


 大泣きしそうなミカエラは真顔で沈黙を貫いていた。

 フェリックスの日記で知ったが、ミカエラは”コード”という毒を用意するよう頼まれており、セラフィと心中することを聞いていたらしい。


(セラフィ……、向こうの世界で幸せになってるかな)


 フェリックスはセラフィが現代に転生していることを願う。あわよくばフェリックスの魂が入った朝比奈大翔に出会い、向こうで幸せになっていることを。


 セラフィが残した革命軍に関する情報は、そのまま軍部に提出した。

 ライサンダーから聞いたが、革命軍を弱体化させるのに大いに役立ったらしい。

 そして、セラフィの後任は以前この自宅でミランダのメイドをしていた者にした。

 マクシミリアン公爵家のメイドだと、セラフィに毒を盛ろうとした夫人の息がかかっていそうで、信じられなかったからだ。



 日々は過ぎ、チェルンスター魔法学園の学園祭が近づく。

 ミランダの腹部は大きく膨れており、クリスティーナから貰ったワンピースをよく身につけるようになった。


「フェリックスのクラスはどんな出し物をするの?」


 ふと、自宅にてミランダがフェリックスに問う。


「僕のクラスは“わたあめ“を販売するよ」

「わたあめ?」


 見知らぬ単語にミランダは首をかしげる。


「ミカエラが発明した魔法具から作る砂糖菓子でね、雲みたいにふわふわしているんだ」

「雲みたいにふわふわ?」


 フェリックスはミカエラに頼み、現代で定番の屋台菓子を再現してもらった。

 その魔法具は教師陣にも評判で、学園祭が終わったら魔法具の品評会に出してみてはどうかと提案されるほど。

 商品化されれば町の名物になること間違いなしだと沸き立っている。


「あとは見てからのお楽しみ」

「そうね、全部教えてもらったら楽しみがなくなってしまうわね」


 ミランダはフェリックスの言葉に納得する。


「クリスティーナは去年と同じフリーマーケット、ヴィクトルは執事喫茶、フローラとカトリーナは朗読会をするって」

「そう」

「学生トーナメントにはクリスティーナとヴィクトルが参加するよ」

「今年はクリスティーナが優勝かしら」


 ミランダは腹部を優しく撫で、ふうと息をつく。


「……少し歩くだけで疲れてしまうの。全部周れるかしら」

「ミランダと一緒に周る日は一日自由時間をもらってるから、ゆっくり歩いても大丈夫さ」

「……今年はイザベラさまはいないのよね」

「邪魔はしないって。この間、イザベラから聞いたから」

「イザベラさまは信用できないわ。変装してこっそり、フェリックスを奪いそうで」


 ミランダは学園祭に今年もイザベラが乱入し、フェリックスと共に周る時間が無くなってしまうのではないかと心配している。

 フェリックスはイザベラと会ったさい、学園祭の一日目はミランダと共に周る約束をしているから絶対に来ないでほしいと念を押している。


(でも、イザベラなら来そうだよなあ)


 ミランダの言う通り、意地悪なイザベラのことだ。『邪魔しない』と言っておいて、フェリックスたちが思いつかない方法で会いに来るかもしれない。

 フェリックスは空笑いでこの場をやり過ごす。


「お腹、大きくなってきたよね」

「……ええ。男の子、女の子どっちかしらね」


 ミランダは愛おしげに腹部を撫でる。

 ミランダは時折お腹の中にいる赤ちゃんに語りかけている。

 ミランダは冷徹な悪役令嬢ではなく、慈愛に満ちた一児の母親になるのだと、ゲームのミランダを知っているフェリックスは彼女の良い変化に思わず笑みが浮かぶ。


「そろそろ名前を決めないとね」

「ええ。素敵な名前を付けましょう」


 フェリックスはミランダのお腹をポンポンと優しく叩く。

 すると、ミランダのお腹にいる赤子からトントンと返事が返ってきた。


「あっ」

「元気だよって返事したのね」


 フェリックスの反応に、ミランダはくすっと笑った。


「来年は三人で学園祭を周ろうね」


 フェリックスはミランダとお腹の中の赤子に来年の約束を取り付ける。



 学園祭前日。

 フェリックスのクラスは“わたあめ生成機“の動作確認と販売シュミレーションをし、他のクラスよりも早く準備を終える。

 一部の生徒は部活動の出し物へ向かい、他の生徒は寮や自宅へ帰ってゆく。


「エリオット、君は帰らないのかい?」


 フェリックスはぽつんと一人いるエリオットに声をかける。

 エリオットはフェリックスとミカエラの尽力もあり、クリスティーナとの接触はない。

 一学年の普通な生徒として、学園生活を送っている。


(ここまでくると、モブだよな)


 エリオットに攻略キャラクターの存在感は全くなく、もはやモブキャラである。

 不意に声をかけられたエリオットはビクッと驚いていた。


「あ、その……」


 エリオットはしどろもどろな返事をフェリックスにする。彼は封をした手紙を持っていた。


「……フローラにかな?」

「ち、ち、ち、違うっす!!」


 フェリックスがニヤついた表情を浮かべ、特別支援学級にいるフローラに渡すのかとエリオットに問う。

 エリオットはフェリックスの質問に否定するも、挙動不審のためバレバレである。

 自身でも誤魔化せないと観念したのか、エリオットは深い溜息をつき「そうっす」と認めた。


「俺たちの出し物、絶対混雑するから、直接渡しにいきたくて、空いてる時間を聞こうと……」

「うんうん、いいねいいね」


 フローラが混雑する場所へいけないだろうとエリオットが気を遣っている。

 フローラが人攫いの被害にあってから、エリオットは彼女のことを人一倍気にかけている。

 直接話しかけるとフローラのトラウマを刺激してしまうため、文通をしているらしい。

 エリオットが手紙を送れば、その日に返してくれるとか。


「フェリックス先生……、気持ち悪いっす」

「早くフローラに手紙を届けておいで」

「うっす」


 エリオットは教室を出ていった。


(さて、僕はクリスティーナのクラスに――)

「フェリックス!」


 フェリックスは誰もいなくなった教室の鍵をかけ、クリスティーナのクラスの様子を見に行こうと廊下を少し歩いたところで、柔らかい感触がした。


「カトリーナ」


 柔らかい感触はカトリーナがフェリックスに抱きついたから。

 栄養のある食事を摂るようになったカトリーナは、一気に背が伸び、身長はフローラを超え、クリスティーナと同じ背丈になり、女性らしい丸みをおびた体つきの美少女に成長した。

 ボサボサだった黒髪も、ツヤツヤになっており、肩まで伸びている。


「フェリックス、みてみて!」


 カトリーナがフェリックスのクラスにやってきたのは、朗読会で身に着ける衣装を見せたかったからのようだ。

 桃色のドレスを身に着け、髪にリボンを結わえたカトリーナはとても美しかった。


(これは……、朗読会は男性人気出そうだな)


 この姿のカトリーナとフローラが並んで登場するとなれば、男子生徒は物語よりも二人の姿に釘付けになり、何度も通いたくなるだろう。

 衣装は日替わりのため、最低三度楽しめる。


「綺麗だね。お姫様みたいだ」

「明日はカトリーナ、フローラと一緒にお姫様になるの!」


 フェリックスはカトリーナから二枚チケットをもらう。

 チケットにはカトリーナの字で『特別席』と書いてあった。


「ミランダと一緒に来てね」

「うん」

「じゃあね!」


 チケットを渡したカトリーナは軽快にヒールを鳴らしながら去ってゆく。


「さて、クリスティーナのところにいこっと」


 フェリックスはクリスティーナのいる三年D組の教室へ歩みだす。

 フェリックスがクリスティーナの様子を身にゆくのは、彼女の体調が悪いからだ。

 ミカエラからも報告が上がっており、度々、授業を欠席するのだとか。

 同好会でも、実力を出し切れておらず、模擬決闘ではヴィクトルの連勝が続いている。


(明日は学生トーナメントもあるし……、様子をみておこう)


 フェリックスは三年D組の教室に入る。

 生徒たちが持ち寄った商品が陳列されている。だが、クリスティーナの商品棚は去年と違い品数が少ない。

 体調が悪く、商品を作る余裕がなかったのだろう。


(さて、クリスティーナは――)


 フェリックスはクリスティーナを探す。

 クリスティーナは自身の商品の陳列を終え、商品一覧と金額を学級委員長に提出しているところだった。


(それが終われば女子寮へ帰るだろうし、だいじょ――)


 フェリックスがクリスティーナから意識をそらしたその時――。

 バタンッ。

 何かが倒れる音がした。


「フェリックス先生! クリスティーナが!!」


 一人の生徒が近くにいたフェリックスを呼ぶ。

 フェリックスはクリスティーナがいたほうへ顔を向けた。


「えっ」


 フェリックスは絶句する。

 突然、クリスティーナが倒れたのだ。






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