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第101話 メイドは令嬢に転生する

(ここは――?)


 毒を飲んだセラフィは、知らぬ天井を見上げていた。

 手足を伸ばしたりするも寝返ることは出来ず、その場でもがくのみ。


(誰か、いないの?)


 この部屋の状況を知りたいセラフィは助けを求める。


「えっ、うえええん」


 言葉を上手く発することが出来ず、鳴くことしか出来なかった。


「あら、清良。起きたのね」


 大人の女性が駆け寄り、セラフィを抱き上げる。

 女性はセラフィを優しく抱きしめ、よしよしと体を揺らす。


(私の身体、小さくなってる!?)


 セラフィは女性にだっこされたことに戸惑っていた。

 女性の胸の中におさまるほどセラフィは小さくない。


(私……、セイラという赤ちゃんに生まれ変わったの?)

「あら、今日はすぐに泣き止んだのね。おっぱいはあげたばかりだし……、おむつは濡れていないわね」

「ママにだっこしてほしかったのかな」


 女性はセラフィの状態を確認する。

 にゅっと彼女の隣に男性の顔が現れた。

 男性はセラフィに顔を近づけ、頬にちゅっとキスをする。


「やっ」


 見知らぬ男性に頬に突然キスされたことに驚き、セラフィは男性の顔をぺちっと叩く。


「パパ、嫌われてるわね」


 女性が男性をからかう。

 男性は「そんなあ」と呟きつつも、笑顔だった。

 セラフィは幸せな二人を見て、羨ましいと思った。


(私もフェリックスと結婚していたらーー)


 もし、成婚パーティが上手くいっていたら、目の前の夫婦のようにフェリックスと幸せな人生を送れていただろうか。


(ううん、あの世界のフェリックスはミランダさまのもの)


 過去を振り返っても、幸せにはなれない。


(私はこの世界でフェリックスと幸せになる)


 セイラとして生まれ変わったセラフィは、この世界で朝比奈大翔に転生したフェリックスを見つけ出し、今度こそ幸せになるのだと誓う。


 赤子に生まれ変わってから数年が経過し、セラフィは色々なことが分かった。

 まず、自分の名前は城ケ崎清良。

 城ケ崎家はとても金持ちで、清良の住む自宅はとても大きい。いくつも別荘を持っているようで、長期休暇になるとさまざまな場所を旅行した。時には海外にゆくこともあり、清良は様々な体験をする。

 清良は両親に深く愛され、ピアノやバレエなど様々な習い事をした。

 妹と弟も産まれ、二人は「お姉ちゃん」と清良を慕ってくれた。

 不満などなに一つもない、裕福な暮らし。


(まるで貴族みたい)


 前世の記憶を持つ清良は、今の生活をそう思った。


 更に年月は経ち、有名音楽大学生になった清良はおしとやかな美女に成長する。

 家事は完璧で、ピアノはコンクールの賞をとるほど上達した。

 バレエは辞め、今は社交ダンスが趣味になっている。


(二〇二二年、フェリックスを見つけ出さないと)


 この頃、清良は朝比奈大翔と接触する方法を考えるようになる。

 清良が考えた方法は――、ASMR声優”セイラ”として同人音声を販売しまくり、大翔に接触すること。


(この声はミランダさまによく似ている)


 清良は背丈も体型も声もミランダとよく似ていた。

 転生する前にフェリックスから大翔が同人音声を買い漁っていたことも聞いている。

 まず、清良は両親に許可を取り、音大生の傍ら、声優育成学校に通った。

 発声方法や技法を学び、教室のスタジオでASMR音声を収録した。

 それを自身で編集し、ダウンロードサイトに投稿する。

 始めはそれほど売れなかったが、新作を出すたびに売り上げは伸び、上位に食い込むようになった。


「清良さん」


 ある日、声優学校の講師に声をかけられる。


「同人音声、順調みたいだね」

「ありがとうございます! 先生のご指導のおかげです」

「あのさ、こういうオーディションがあるんだけど……、受けてみない?」


 講師から声優オーディションの募集用紙を渡される。


「っ!?」


 受け取った清良は用紙の概要を見て、目を見開く。

 作品は【恋と魔法のコンチェルン】、募集声優はミランダ・ソーンクラウン。

 前世で仕えていたミランダの声優が募集されていたのだ。


「受けたいです!」

「清良さんならそう言うと思ったよ」


 清良は即答し、すぐにオーディションに申し込む。

 結果、清良はオーディションに合格し、ミランダの役を勝ち取った。


 【恋と魔法のコンチェルン】が発売された一年後、二〇二四年、清良は音楽大学を卒業し、声優事務所に所属する。

 ミランダ役が評判だったようで、新人ながらソーシャルゲーム、アニメ、朗読など多くの仕事を受け持つようになった。

 声優として働くようになって一年。二〇二五年。

 清良が待ち望んでいた瞬間が訪れる。

 それは自身のSNSのリツイートキャンペーンでのこと。


「あっ」


 清良はあるアカウントを見つける。

 ユーザ名は”ハルト”。

 プロフィールには公立で化学の先生をしており、軽音楽部の顧問をしている影響でギターを弾き始めたと書いてあった。

 ギターと指先だけを映し、有名曲を弾き語りしている動画がコンスタントに投稿されており、彼のファンがコメントを残している。


「見つけた」


 清良はこの人がフェリックスだと直感が働く。

 そして、清良はハルトにDMを送った。

 『私の王子様、大人になったから迎えに来て』、と。


(返事が来るかしら……)


 清良は送信した後、DMの返信を今か今かと待っていた。

 十分おきにスマホを確認し、返事が来ていないと落胆する。

 三時間後、DMの返信が帰ってきた。

 清良は返信の内容を見て、涙する。

 スマホの画面には『待っていたよ、セラフィ』とハルトからの返事が書かれていた。

 清良は二十三年の月日をかけ、前世の最愛の人、フェリックスを見つけ出した。


 その連絡の数日後、清良は都内の駅前で大翔と対面する。

 大翔は以前のフェリックスより背が低く、ヒールを履いた清良と同じくらいの背丈だった。

 流行りの髪型にジーパンとシャツにジャケット。

 清潔感のある細身の青年だった。


「フェリックス」


 前世の名を呼ぶと、大翔が微笑む。

 その笑みは前世のフェリックスの面影があると清良は思った。

 大翔は清良の前に跪き、ポケットから小さな箱を開ける。

 その中にはダイヤモンドの指輪が入っていた。

 前世よりも石のサイズは小さく、シンプルなデザインだが、あの時と同じだと清良は涙する。

 通行人も足を止め、清良と大翔をじっと見つめている。

 中にはスマホで撮影する人もいた。


「迎えに来たよ。セラフィ」

「うん」

「俺と、結婚してくれませんか?」

「……はい」


 清良は大翔のプロポーズを了承する。

 パチパチパチ。

 清良が返事をした直後、通行人たちが拍手と祝福の言葉を贈ってくれた。

 中にはピューと指笛を吹く者もいた。

 その場から立ち上がった大翔が、清良の右手の薬指に婚約指輪をはめ、ぎゅっと抱きしめる。

 そして二人は公衆の面前で口づけをかわした。


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