目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報
第23話 教師は生徒たちの戦いを見守る

 リドリーが決闘の進行する。


「さて、これからチーム戦を行います。ほとんどの方が初めてだと思いますので、簡単にルールを説明します」


 リドリーは皆が防御魔石を胸ポケットに入れたことを確認し、話を続ける。


「先に三名の防御魔石を破壊したチームの勝利になります。防御魔石を破壊された生徒は、速やかにフィールドから離れてください」


 防御魔石が破壊されるごとに、戦う人数が減ってゆく。数的不利が発生するので、どちらかのチーム、一人が欠けたところで勝負が加速するだろう。


「安全のため、防御魔石が破壊される度に、決闘が中断されます。再開は私が合図するので、それまで攻撃魔法は放たないように」


 決闘が中断されることもチーム戦の肝になる。戦略を立て直し、反撃に繋がるからだ。


「さて――、決闘の宣誓をしましょうか」


 リドリーがフェリックスに場所を譲る。

 決闘の宣誓と審判はフェリックスが担当する。

 すうっと深く息を吸う。


「では、クリスティーナ・ベルン、他二名とマイン・ポントマイ、他二名の決闘を開始します」


 緊張を解そうと深呼吸をしたが、宣誓するフェリックスの声は震えている。

 この勝負でクリスティーナがチェルンスター魔法学園に在学か退学かが決まるのだ。

 この決闘に負けたら、クリスティーナは退学。

 ゲームではバッドエンドまっしぐら。


(……僕は何もできない。この戦いを教師として見守らないと)


 不安を感じたものの、フェリックスは気持ちを切り替え、宣誓の続きを告げる。


「クリスティーナ・ベルン、君がこの決闘に勝利したら、自身の存在をマイン・ポントマイに認めさせる……、それでいいね」

「はいっ」

「マイン・ポントマイ、君がこの決闘に勝利したら、クリスティーナ・ベルンをチェルンスター魔法学園から退学させる……、それでいいね」

「ええ」

「では……、皆、杖を構えて――」


 互いが勝利条件を認めた。

 フェリックスは六人に杖を構えるよう指示する。

 クリスティーナのチームは、前にクリスティーナとミランダ、後ろにヴィクトルという配置につく。

 マインのチームは前にドナトルとルイゾン、後ろにマインという配置になっている。

 フェリックスは決闘に巻き込まれぬよう、距離をおく。


「決闘、始め!!」


 フェリックスの宣言とともに、戦いが始まった。


☆ 


 クリスティーナたちの決闘が始まった。

 ヴィクトルが土魔法で壁を作り、マインたちの攻撃魔法を防ぐ。


「あなたは壁の強度の維持を、わたくしとクリスティーナで相手を叩きます」


 ミランダが決闘に慣れないクリスティーナのために指示をくれる。

 ヴィクトルが後方にいるのは、魔法に集中するため。

 クリスティーナは壁のすき間から、マインたちの様子をうかがう。

 ドナトルが火球をこちらに放つも、ヴィクトルが作った土の壁に弾かれる。ルイゾンの攻撃魔法も同様に弾かれている。


「あれ……?」


 クリスティーナは違和感を覚えた。

 目の前にドナトルとルイゾンはいる。

 だが、マインの姿は見えない。


「あの女はどこにいますの……?」


 隣にいるミランダも、疑問に思っていることを呟いている。

 ドナトルとルイゾンは横並びの陣形を取っており、後ろの様子はよく見えない。


「ミランダ先輩、マインの姿が見えないのは――」

「どうせ、配下にやらせてるだけですわ。わたくしも舐められたものね」


 クリスティーナはマインがいないことに不安になり、ミランダに相談する。

 ミランダはマインがドナトルとルイゾンの後ろにいて、余裕ぶってるのではないのかと告げる。

 ミランダは三学年で最強、つまりはチェルンスター魔法学園で一番の存在だ。

 そのような人物と戦っているのに、始めから全力で来ず、余力を残しているなんて。


「先輩、やっぱりおかしいです」


 クリスティーナがミランダに声をかけた時だった。


「ウォーターバブル」


 ルイゾンが水魔法を放つ。

 攻撃魔法なんて、ヴィクトルの土壁で弾かれるのが分かっているのに――。


「ファイアボール」

「っ!?」


 間髪入れず、ドナトルが火魔法を放つ。

 狙いはクリスティーナたちではなく、ルイゾンが放った水魔法。

 二つの魔法がぶつかった瞬間、ジュワッと水が蒸発し視界が遮られる。


「ウィンド」


 ミランダが風魔法で、すぐさま水蒸気を払ってくれた。

 元の視界に戻り、クリスティーナとミランダがドナトルとルイゾンに反撃をしようと二人に杖を向けた時だった。


 パリンッ。


「えっ!?」


 防御魔石が、砕けた。

 砕けたのは、向こうのチームではなく――。


「決闘中断! ミランダ・ソーンクラウン、フィールドから出てください」


 クリスティーナの隣にいた、ミランダのものだった。

 フェリックスが決闘の中断を宣言し、ミランダにこの場から離れるよう指示をする。


「えっ、どうして? どうしてミランダ先輩の防御魔石が砕けたの!?」


 クリスティーナは状況を理解できず、戸惑いを声に出した。

 隣にいたミランダも目を見開き、自身の防御魔石が砕かれたことに驚いていた。


「……やられた」


 ミランダはすぐに冷静になり、天井を見上げ、ぼそりと呟く。


「学園最強のミランダ先輩もチーム戦となると弱いものね」

「マイン」


 上からマインの甲高い耳障りな声が聞こえる。

 クリスティーナもミランダに続いて天井を見上げると、身体を風魔法で宙に浮かせ、こちらを見下ろしているマインがいた。


「先輩。早くフィールドから出て行ってくださーい」

「くっ」


 マインの発言に、ミランダの眉間にシワが寄る。

 頭にきているが、防御魔石を砕かれた者はフィールドから離れる、というルールに従うため堪えているといった様子だ。


「……クリスティーナ、あの女、次はヴィクトルを狙うわ」


 ミランダがクリスティーナだけに聞こえる小さな声でマインの次の行動を告げる。

 クリスティーナはミランダが抜ける動揺と、これからヴィクトルと二人で戦わないといけない緊張を抑えながら、ミランダの話に耳を傾ける。


「戦闘が再開されたら、走ってヴィクトルの前に立ち、あの女の風魔法を払いなさい」

「はい」

「いい? 絶対にヴィクトルの岩魔法を解除させては駄目。あいつらが一斉攻撃を仕掛けてくるから」

「わかりました」

「ミランダさん! 十秒以内にその場から動かないと――」


 リドリーがミランダを急かす。

 もっとミランダに聞かなきゃいけないことが沢山あるのに。


「慌てないで。わたくしが教えたことをこなせば、あなたはこの決闘に勝てる」

「……」

「まだ貴方に教えたい魔法がたくさんあるの。だから――、クリスティーナ、この決闘に勝ってちょうだい」


 クリスティーナを鼓舞する言葉を送ると、ミランダはリドリーの元へ歩き出した。

 ゆっくりと時間をかけて。


(私のために、少しでも時間を稼いでくれている)


 ミランダの傍にいるクリスティーナには分かる。

 いつもよりゆっくり歩いてくれていると。


(……大丈夫。私が次にやることは――)


 クリスティーナは深く息を吸う。

 次にやることは、ミランダが教えてくれた。

 後は、ミランダに教わったことを出し切るだけ。


(ミランダ先輩の言葉を信じよう)


 肺に溜まった空気を一気に吐き出し、自身の両頬をパチンと叩いて気合を入れる。


「決闘再開!!」


 リドリーの宣言で、ミランダを欠いた決闘が再開される。


(まずは――)


 クリスティーナは後方にいる、ヴィクトルの元へ駆け寄る。

 チラッと上空にいるマインへ視線を動かすと、彼女はクリスティーナのことは眼中になく、ヴィクトルに狙いを定めている。


「ウィンドカッター」


 マインはヴィクトルに向けて風魔法を放つ。


「ファイアショット」


 直前で追いついたクリスティーナは、ヴィクトルの前に立ち、素早く火魔法を唱える。

 ”ファイアボール”では間に合わないと判断したクリスティーナは、威力は劣るが、ファイアボールよりも早く放てる”ファイアショット”を選択した。

 クリスティーナとマインの魔法がぶつかる。

 威力が弱かったせいで、マインの風魔法に押されるもクリスティーナに直撃する寸前で、互いの魔法が相殺される。


「あ、ありがとうございます」

「ヴィクトル君は岩魔法に集中して!」

「ですが――」

「岩壁が無くなったら、ドナトルとルイゾンがこっちにきて一斉攻撃を受けちゃう」

「……わかりました」


 加勢しようとするヴィクトルを止める。

 ヴィクトルは反論しようとしたものの、クリスティーナが岩壁の重要性を説き、納得させる。


「あらあら、仲間割れ~?」


 クリスティーナとヴィクトルの会話を聞いていたマインは二人を煽るような発言をする。


(ここまでは、ミランダ先輩がアドバイスしてくれたことをやっただけ)


 クリスティーナはマインの挑発を受けず、黙って彼女を睨む。

 ヴィクトルを守り、マインの魔法を相殺するよう、ミランダの指示通りに動いただけ。


(もっと時間があったら、沢山のことを教えてくれたのに……)


 ここからはクリスティーナが考えて行動しないといけない。

 宙に浮いているマインにどうやって攻撃を当てたらいいのか。


「魔法を弾くだけじゃ、勝てないわよ~」


 クリスティーナはマインの攻撃魔法を弾く。

 だが、それだけではマインを倒せない。


(こういう時は……)


 クリスティーナはマインの攻撃魔法を弾いている間、彼女の動きを観察していた。

 数回繰り返している内に、クリスティーナは気づく。

 マインが攻撃魔法を唱える直後、彼女の身体が地面へ落ちていることを。

 魔法が発動したら、落下が止まり、身体が浮く。

 身体を宙に浮かせながら、攻撃魔法を放つのは難しいようだ。


(相手をじっくり観察して、勝機を作り出す)


 ミランダの教えをクリスティーナは心の中で反芻する。


(マインに勝つなら……、攻撃魔法を放つ瞬間しかない)


 今のマインは、クリスティーナを狙って攻撃している。

 背後にさえ気を付けていれば、ヴィクトルに魔法が当たることはないだろう。

 クリスティーナはマインの気をひきつつ、徐々にヴィクトルから距離を取る。

 十分に離れたところで、クリスティーナはその時を待つ。


「ウィンドカッター!」

(今だっ!)


 クリスティーナは魔法を使わず、マインの攻撃魔法を避けた。

 クリスティーナの真横に風の刃が落ち、床を抉る。


「ファイアショット!」


 クリスティーナは風の刃を恐れず、マインに向けて魔法を放った。


「なっ!?」


 マインはクリスティーナの素早い攻撃魔法に対応しきれず、ファイアショットをその身に浴びてしまう。


 パリンっ。


 マインの防御魔石が砕けた。


「決闘中断! マイン・ポントマイ、フィールドから離れてください」


 フェリックスが宣言する。


「やった」


 自分の力でマインの防御魔石を砕いた。

 これで二対二。

 戦力差を均衡に戻せた。


「クリスティーナさん、やりましたね!」


 ヴィクトルもクリスティーナを褒めてくれる。


「ありがとう。あと、もうちょっとだ」


 クリスティーナはフィールド外にいるミランダに目を向ける。

 ミランダはパチパチとクリスティーナに向けて小さな拍手をしていた。


「えっと……、次はどうします?」

「……私に考えがある」


 ヴィクトルは次の作戦を訊いてきた。

 マインがフィールドから離れるまでの短い時間。

 クリスティーナは、この時間が大事なのだとミランダから教わった。

 マインとの戦いまではミランダの作戦。

 次からはクリスティーナの作戦で決闘の勝敗が決まる。

 ―- わたくしが教えたことをこなせば、あなたはこの決闘に勝てる。


(もう一つ、私はミランダ先輩に教わった戦い方がある)


 クリスティーナはミランダの言葉を思い出す。


「あのね――」


 クリスティーナはヴィクトルに自身が考えた作戦の内容を伝える。


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?