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第21話 協力者が二人必要なんて聞いてない

 放課後のホームルーム。

 フェリックスとリドリーは二年B組の教室に入った。

 リドリーが生徒たちに明日の予定を告げる中、フェリックスはクリスティーナたちが騒動を起こした場所へ視線を向ける。

 用務員が新しいものに取り換えてくれたようで、騒動を起こした跡は残っていなかった。


「え―、本日教室内で攻撃魔法を放った生徒がいると、報告を受けています。杖はフェリックス君が預かっているので、放課後、取りに来てください」


 最後に該当する生徒へ連絡をする。

 名前を伏せても、二年B組の生徒たちはクリスティーナとマインだと特定できる。

 フェリックスは、腰のベルトに仕舞ってある二本の杖に触れる。

 決闘まで預かっておきたいが、彼女たちにも授業があるため、返却しないといけない。


「では、皆さん、ごきげんよう」


 リドリーの挨拶、号令のあと、生徒たちはそれぞれの用事を過ごすため、散り散りに教室を出ていった。


「フェリックス先生」


 マインが声をかけてきた、その後ろにドナトルとルイゾンがいる。


「杖を返してください」

「わかりました」


 フェリックスはマインの杖を彼女に返す。


「いいですか、攻撃魔法は危険です。防御魔石がないと――」

「……わかりました!」


 フェリックスの注意に苛立ったマインは、フェリックスから杖を強引に奪う。


「二人とも、いきますわよ」


 杖をとりかえしたマインは、後ろにいる二人に声をかけ、フェリックスの元を去っていった。

 三人が教室から出ていった後、隅で気配を消していたクリスティーナがフェリックスの前に姿を現す。


「クリスティーナさん、貴方もですよ」

「……反省しています」


 クリスティーナのほうは、杖を返す際、しょんぼりとした表情をしていた。


「あのっ」


 クリスティーナは深々と頭を下げる。


「この間は、叩いてしまって……、ごめんなさいっ」


 頭を下げると同時に、フェリックスの頬を叩いてしまったことを謝ってくれた。

 いい子だと気が緩むも、自分の態度を誤魔化すため、フェリックスはわざとらしい咳払いをする。


「僕も無意識にクリスティーナさんを傷つけてしまいましたから、お互い様です」

「……その」

「なんでしょう」


 杖を返し、頬を叩いたことを謝罪したクリスティーナ。

 用は終わったはずなのに、まだフェリックスの前に立っている。

 すぐに話題を出してこないことがもどかしい。


「勢いで決闘なんて言ってしまいましたが……、あと二人、どうやって集めたらいいんでしょう」


 ボソッとクリスティーナに尋ねられる。

 フェリックスは「僕が――」と口走るところだったが、直前でリドリーの言葉を思い出し、自身の気持ちを堪えた。


「今回の決闘に学年は関係ありません。ですので、魔法を教わっているミランダさんにお願いしてみてはいかがでしょうか?」

「ミランダ先輩ですか……」

「頼みづらいですか?」

「はい。先輩の言葉を無視してしまったのと……、そのことで怒っているみたいですので」


 ミランダは決闘の宣言を撤回するようクリスティーナに言った。

 実力不足だからと。

 しかし、クリスティーナはミランダの言葉を無視して、決闘を宣言した。

 そのことで、二人の間で亀裂が入っているようで、人懐っこいクリスティーナでも、ミランダに声をかけづらい状況のようだ。

 現状、クリスティーナが協力を仰げるのは、魔法の特訓に付き合ってくれるミランダだけだろう。


「誠意をもって謝れば、ミランダさんもきっと許してくれるはずです。その時にお願いしてはいかがでしょうか」

「わ、わかりました……」


 フェリックスはクリスティーナに助言をする。

 クリスティーナの生気のない返事が返ってくる。分かってはいるが、心重いといった心境なのだろう。


「あと一人ですが……」


 フェリックスと、こちらの様子を伺っていたヴィクトルと目が合う。

 ヴィクトルはフェリックスと目が合ったと分かると、さっと視線を逸らされてしまった。


(今、可能性があるとしたら……、ヴィクトルしかいない)


 現時点でクリスティーナと関わりがある攻略対象キャラはアルフォンスとヴィクトルの二人だけ。

 アルフォンスの場合、フェリックスと同様の理由で誘えないため、ヴィクトルしかいない。


(僕が声を掛けると、クリスティーナに手を貸したことになりそうで後々面倒だな)


 味方に決闘無敗のミランダが加わるのであれば、フェリックスの一声でヴィクトルも加わるだろう。

 しかし、フェリックスが主体で動いたことがマインにバレたりしたら『不正よ!』と言いがかりをつけてくるかもしれない。面倒事になるのは避けたい。


「ヴィクトル君を誘ってみては?」

「ヴィクトル君……、ですか?」


 フェリックスの提案に、クリスティーナは眉をしかめる。


「彼は中立ですし、クリスティーナさんの誘い方次第で、協力してくれるかもしれませんよ」


 フェリックスは不信がっているクリスティーナの後押しをする。


「退学がかかってるんだもん、手段なんか選んでられない!!」


 クリスティーナには後がない。

 あの人は――、この人は――とえり好みしている余裕はないのだ。

 クリスティーナもそれに気付いたようで、自身を鼓舞している。


「断られたとしても、何度も何度もヴィクトル君を誘ってみます!」

「その意気です」

「フェリックス先生! 話を聞いてくれてありがとう!!」


 元気になったクリスティーナは、フェリックスに手を振った後、ヴィクトルに声を掛けていた。

 フェリックスの助言をすぐに取り入れてくれている。


(クリスティーナ、ミランダ、ヴィクトル……、この三人が集まればマインたちに勝てる)


 決闘の経験があり、無敗の成績を誇るミランダ。

 岩魔法の才能があり、将来的に鉄壁の防御を誇るヴィクトル。

 この二人に、四属性の初級攻撃魔法を扱うクリスティーナが加われば、決闘に勝てる。

 クリスティーナの退学を阻止できる。


(頼むよクリスティーナ。二人を仲間に加えて、決闘に勝ってくれ……)


 見守ることしかできないフェリックスは、懸命にヴィクトルを説得するクリスティーナの姿を見つめ、決闘の勝利を願った。




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