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第15話 教師と生徒の恋愛はご法度です

 三年A組の属性魔法が終わり、フェリックスはリドリーに生徒指導室へ呼び出された。

 ここは本来、生徒を指導する場であるが、フェリックスのような新米教師をリドリーのような先輩教師が指導する場所にもなる。

 フェリックスはリドリーと向き合う形でソファに座った。


「さて、フェリックス君」

「はいっ」

「どうしてここに呼ばれたか、覚えはありますか?」


 リドリーはいつもと変わらない笑みで、フェリックスを問い詰める。

 表情は変わらずとも、声音でリドリーが静かに怒っているのだとわかる。

 ここで言い訳しても効果はない。


「ミランダさんの素足に触れようとした……、誘惑に負けてしまったからです」


 フェリックスは端的に、今回の反省点を述べる。


「その通りです」


 リドリーは肯定する。


「あの場合、フェリックス君は何があろうと私を呼びに行くべきでした」

「その通りです……。反省しています」


 はじめはフェリックスもそのつもりだった。

 しかし、ミランダの誘惑と、彼女の素敵な素足に触れたいという自身の欲に負けてしまった。


「私がいなかった場合でも、女生徒にお願いすることもできました」

「リドリー先輩の言う通りです」

「次からはそのように対応してください」

「……わかりました」


 リドリーの言うことは全て正しい。

 フェリックスは彼女の注意をすべて受け入れる。

 これで話は終わりだろうかと、フェリックスはリドリーの顔色をうかがう。

 しかし、リドリーがソファから立つ様子はない。

 まだ、話は続くようだ。


「さて、フェリックス君」

「はいっ!?」

「ミランダさんが足をくじいた件ですが……」


 気づかないうちに悪いことをしていたのではないかとそわそわしていると、リドリーの話題は続いてミランダのことだった。


「あれ、仮病ですよ」

「えっ!?」

「私に変わったら、普通に立って歩いてました」

「……」


 フェリックスは真実を知り、絶句する。

 自分が診ていたときのミランダは、足を怪我して一歩も歩けませんといった態度を取っていたのに。

 あれが演技だったというのか。


「あのミランダさんが、本日の授業内容で転ぶなどのミスを犯すと思いますか?」

「いえ……、不思議だとは思っていました」


 火属性の攻撃魔法を防御する授業、水属性が得意なミランダにとって優位なもの。

 実家の幼少期にやってきた内容だろう。

 始め、フェリックスが生徒たちの様子を見ていた時も、ミランダは涼しい顔で相手の魔法を払っていた。

 足を押さえ痛がる表情も、演技をしているとはわからなかった。


「その様子だと、わからなかったようですね」


 フェリックスの表情で読み取ってくれたのか、疑いは晴れた。


「実技の成績が落ちてしまうのに、どうしてミランダさんは足をくじくなんて演技をしたのでしょうか」

「はあ……」


 考えても答えが出なかったため、フェリックスはリドリーに問う。

 リドリーは深いため息をつき、首を振った。


「まあ、それは……、もういいです」


 フェリックスの訊き方が悪かったのだろう。

 リドリーが強引に話題を断ち切り、変えてきた。


「じゃあ、フェリックス君に最後の質問をします。正直に答えてくださいね」


 フェリックスはゴクリと生唾を飲み込む。

 こういう前置きをされる質問は、大体、正直に答えられないものがくる。

 フェリックスは姿勢を正し、リドリーの質問に身構えた。


「ミランダさんとは何も”ない”ですよね?」

「えっと……」

「ま、まさか!? 答えられないほど、あなたたちの関係は進んでいたんですか!?」

「一体――」


 リドリーが一人、浮足立っている。

 瞳は好奇心に輝いていて、心なしか気分が高揚しているようだ。

 しかし、フェリックスは質問の意図が読み取れず、聞き返そうとするも、リドリーの話が続く。


「いつ、手を繋いだんですか!? でも、それはもう済んでる様子だったし……、キスしちゃったんですかね!? ま、まさか!? セッ――」

「リドリー先輩、落ち着いてください!!」


 フェリックスはリドリーの興奮気味な言葉を聞いて、最初の質問の意図を理解する。

 話の途中でフェリックスが遮った。


「僕とミランダさんは”教師と生徒”の関係です。それ以上の関係は”ない”ですっ」

「……そうですか」


 事実をリドリーに伝えると、いつもの彼女に戻った。

 ほっとしたような、つまらないと感じたような様子だった。


「取り乱してしまってすみません」


 リドリーはわざとらしい咳ばらいをして、平静を保つ。


「先生と生徒の不純行為は重罪ですから。隠れ――、コホン」


 注意してくれているのに、リドリーの本音が見え隠れしていたのは気のせいだろうか。

 フェリックスが転生する前の世界でもそうだが、このチェルンスター魔法学園でも教師と生徒の不純行為はご法度である。

 発覚した場合、教員免許ははく奪され、二度と教職には戻れない。


「疑われる行為も避けたほうが身のためです」

「ご忠告ありがとうございます。肝に銘じます」


 フェリックスは頭を下げ、リドリーに感謝の言葉を送る。


「フェリックス君は赴任初日で二度決闘した先生として校内で有名になりましたからね」

「そうですね……」


 生徒たちの視線はひしひしと感じている。

 フェリックスも、自身が有名になったのだと自覚せざる負えない。


「その人気を妬む生徒や先生がいてもおかしくありません」

「……」


 心当たりが一人いる。

 決闘で負かしたアルフォンスだ。

 アルフォンスなら、フェリックスの弱みを見つけたらすぐに利用するに違いない。


「陥れられる材料はなくしたほうがいいですよ」

「そうですね! 疑われることはしないように気を付けます!!」


 やっと憧れていた教師になれたのだ。

 この立場を何者かに奪われたくはない。


「リドリー先生、いいお話が聞けて、僕、嬉しいです」

「ふふっ」


 リドリーがクスッと笑ったところで、生徒指導室での秘密の会話が終わった。



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