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第14話 悪役令嬢が露骨にアピールしてくる

 フェリックスがミランダの頭を撫でてから、一週間が経った。

 チェルンスター魔法学園の副担任として、新しい生活に慣れたころ。


「では、本日は防御魔法の訓練をしましょう」


 三年A組の授業。

 魔法実戦室に三年A組の生徒たちが集まり、その輪の中にリドリーがいた。

 今日の授業は防御魔法の訓練。

 向かってくる攻撃魔法にどう防御したらいいのか、という授業だ。


「まずは、火属性の払い方について――」


 リドリーはフェリックスを相手役にする。

 フェリックスは合図が来たら、リドリーへ向けて火球を放つ。

 それをリドリーは四属性、それぞれの防御方法で無効化してみせた。

 リドリーの実演に生徒たちは釘付けだった。

 フェリックスも、四属性をそれなりに扱えるリドリーの器用さに感心していた。


(四属性を難なく使いこなすなんて……、リドリー先輩はすごいなあ)


 この世界のほとんどの魔術師は、得意属性のほか、もう一つの属性を使えるようにするくらい。

 フェリックスの場合、火属性を主体に、風魔法を扱う。

 しかし、弱点属性である水属性の魔法は全く使えず、岩魔法は苦手だ。

 対照的に、リドリーは得意の岩魔法の他、火魔法・水魔法・風魔法もそつなく使いこなす。

 リドリーは属性魔法の教官として、お手本のような存在だ。


「ーーこのように防御してゆきます。ですので、今日は火属性が得意な生徒が攻撃、他は防御という形でやりましょう」


 一通り、見本を見せたところでリドリーは生徒を攻撃側・防御側にわける。


「攻撃側はファイアボールのみ。攻撃する前には合図を送ってくださいね」

「はいっ」


 今回の授業では防御魔石は配られない。

 その代わり、攻撃魔法は固定。放つ前に合図を送るなどの安全対策はある。

 火属性の得意な生徒は八人おり、五班にわかれた。


「私は三班みますので、フェリックス君は二班、お願いします」


 対策はとっているものの、万が一ということもある。

 フェリックスとリドリーは分担して生徒たちの様子を見るのだ。


(僕がみる班には――、ミランダがいる)


 フェリックスに任せられた二班の中に、ミランダがいた。

 ミランダは防御側として、相手の魔法を弾いている。

 今回は火属性の魔法を防御する授業のため、水魔法が得意なミランダにとって楽な授業内容だ。

 他の水魔法が得意な生徒たちも、卒なくこなしている。

 風と土属性が得意な生徒たちは、少し苦戦しているといった様子。

 任せられた生徒の中に、フェリックスが手助けをする必要がある者はいなさそうだ。


(でも……、あの子は欠席なんだ)


 授業に余裕があると分かると、フェリックスは属性魔法の授業を欠席し続けている女生徒の心配をする。

 彼女は元々、ミランダに殺害されるはずだった。

 人生を奪われるより、今の方が断然ましだが、このままだと留年は確実だ。

 二学年までの成績を資料でみるに、彼女の成績は中の上、風魔法の習得も上々だった。

 あの出来事が無ければ、授業に参加して、難なく卒業できるだろうに。

 彼女をトラウマから回復させる方法はないものだろうか。


「きゃっ」


 考え事をしていると、フェリックスが担当している班から、声がした。

 何かトラブルがあったみたいだ。


(しまったっ! まさか、僕が考え事をしている間に、誰かが大怪我を――!?)


 フェリックスは声がした方へ駆ける。


「え……」


 フェリックスは絶句した。

 声を発した人物が、ミランダだったからだ。

 ミランダは転んでおり、その場でうずくまっている。

 今回は彼女に有利な授業で、さっきまでは相手の魔法を卒なく無効化させていた。

 なのに、どうして――。


「ミランダさん、大丈夫ですか!?」


 フェリックスはミランダの傍に近づく。


「フェリックス先生……」


 ミランダは足首を押さえていた。

 転んだ際に捻ってしまったようだ。


「ミランダさん、立てますか?」


 フェリックスはミランダに訊ねると、彼女は首を振る。


「っ!?」

「ミランダさんを運びますので、他の人は引き続き授業を続けてください!」


 フェリックスはミランダを抱き上げ、生徒たちに授業を続けるよう指示を送る。

 ミランダは目を丸くしており、落ちぬよう、フェリックスの身体に密着していた。

 授業している場所から少し離れたところに、ミランダを運ぶ。


「ミランダさん、岩魔法で椅子を作れますか?」


 ミランダは杖を振り、岩のスツールを作る。

 フェリックスはそこへミランダを座らせた。


「足をくじいたかもしれません。診てくれませんか?」


 ミランダは靴と白いソックスを脱ぎ、素足をフェリックスに差し出す。

 ほっそりとした足首、かかとからつま先までの足の形が綺麗だった。

 ちゃんと手入れをしているのか、足の爪もツヤがあってピカピカしていた。

 ひねったといってたが、腫れはないようだから少しすれば治るだろう。

 フェリックスはミランダの素足をじっと観察し、そう判断した。


「あの、じっと見るのではなく……、触って欲しいです」


 それは彼女の前に跪いて、素足を触診しろということか。


「えっ、そ、それはリドリー先生に――」


 その状態だと、ミランダの下着が見えるアングルになってしまう。

 教師と生徒という間柄でも、それはいけない。

 そう判断したフェリックスは、ミランダの要求を断り、リドリーを呼びに行こうとするが――。


「フェリックス先生なら……、構いませんわ」


 ミランダに引き留められる。


「おねがい」


 恥じらう表情で、期待させるようなことを言う。


(いいのか? 本当にいいのか?)


 ミランダに触れたいと思ったことがない、といったら嘘になる。

 推しの声がする美少女が目の前にいて、素足に触れろと要求してくる。

 こんな夢のようなシチュエーション、逃していいのか。

 いや、逃すわけには――。

 ミランダの素足に触れる決心がついたフェリックスは、身を屈める動作に入る。

 手を伸ばし、ミランダの素足に触れる寸前――。


「こほんっ」


 背後からリドリーの咳払いが聞こえた。

 それを耳にしたフェリックスはピンッと直立になり、振り返る。


「フェリックス君」

「は、はいっ!」

「ミランダさんは私が診るので、生徒たちの授業をお願いします」

「わかりました」

「――あと」


 リドリーはニコニコ笑みを浮かべている。

 何も言われていない。

 ほっと胸をなでおろしたフェリックスだったが、リドリーは付け足す。


「授業が終わったらお話があります」


 あ、終わった。

 フェリックスはリドリーの一言で全てを悟る。



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