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第12話 一筋の光が見えた

 クリスティーナが”透明”と判明して、数日が経った。

 その頃にはクリスティーナのことが学園内で知れ渡り、彼女は孤立してしまった。

 仲の良いクラスメイトもクリスティーナと距離をとり、移動教室や食事はいつも一人である。

 クリスティーナも段々と笑みを無くしてゆく。


「あの、リドリー先生……」


 クリスティーナの様子を見ていられなくなったフェリックスはリドリーに相談する。


「クリスティーナさんのことなのですが」

「彼女にとって、この学園は辛いでしょうね」

「教師として、僕にできることはないのでしょうか?」


 フェリックスの相談に、リドリーは即答する。


「ありません」

「で、でも――」

「私たちがクリスティーナさんの味方をすれば、彼女の立場は更に悪くなります」


 リドリーは理由をきっぱりと告げた。

 言い返そうとしていたフェリックスの言葉が詰まる。

 リドリーの意見は正しい。


「得意属性をもつ私たちが何を言おうと、今のクリスティーナさんは劣等感を抱くだけです」

「……」

「先日、フェリックス君は体験したでしょう?」


 リドリーは先に職員室へ戻っていたが、フェリックスがクリスティーナになにを言われたか、想像がついていたらしい。

 フェリックスはクリスティーナに拒絶されたことを思い出し、項垂れる。


「私たちはクリスティーナさんが最低限の授業を受けられるよう、サポートするだけです」


 リドリーはクリスティーナを見捨てるのではなく、見守ることにしたらしい。


「そこで赤点を取るなら、そこまでの器だっただけ」


 リドリーがクリスティーナの助力をするつもりはない。

 それは、彼女が二年B組の担任だから。

 一人だけ特別視してしまってはクラスのバランスが崩れる。

 リドリーもクリスティーナの事を気にかけているが、強く出られないのだ。


「フェリックス君は、副担任としてクリスティーナさんを虐めようとする生徒に注視しなさい」

「わかりました……」

「”見ているだけ”ですからね。学生間の問題に教師が割り込んでもろくなことになりません」


 フェリックスはリドリーの意見に不満があったものの、この間のやり取りを思い出し、渋々受け入れるしかなかった。



 リドリーと共に、授業をこなし昼食の時間になる。

 いつものフェリックスは購買で弁当を頼み、職員室に配達してもらうのだが、今日は食堂にいた。


(きっと、そろそろ――)


 フェリックスはクリスティーナの様子を見るために来た。

 クリスティーナを虐めようとする生徒。

 フェリックスはその人物に心当たりがあった。


「あなたが”透明”のクリスティーナさん、かしら?」


 クリスティーナの様子を見ながら、食事を摂っていると案の定、ミランダが現れた。

 ミランダは一人で寂しく食事をしているクリスティーナに声をかける。

 しかし、それは友好的なものではない。

 ミランダは”透明”という言葉でクリスティーナを傷つけ、見下している。


(やっぱり)


 フェリックスはそろそろミランダがクリスティーナに接触するだろうと思っていた。

 ミランダは自分にも厳しいが、他人にも厳しい。

 彼女は自分が通っている魔法学校に、”透明”と判別された生徒が紛れていることが許せないのだ。

 ゲームでも、ミランダはクリスティーナに因縁をかけてくる。


(よしっ、ここかな?)


 フェリックスは席を立ち、ミランダとクリスティーナの間に割って入る。


「ミランダさん。クリスティーナさんに威圧的な言葉をかけるのは辞めなさい」


 フェリックスはミランダに注意をする。

 リドリーにああ言われたが、ここでミランダに注意をしないと、彼女はあの手この手でクリスティーナを排除しようとする。

 それはクリスティーナ視点にいたフェリックスが一番理解している。


「ふぇ……」


 ミランダは目を丸くし、フェリックスの登場に驚いていた。

 この程度の注意ではミランダが噛みついてくるだけだろうと思っていたのに。


「フェリックス先生!?」


 冷徹な表情が崩れ、心なしか頬が赤くなっている気がする。


「ふ、ふん! フェリックス先生に負けたわたくしですもの。あなたの注意はきかないといけませんわね」


 ミランダの口調がいつもより柔らかい。


(この反応……)


 フェリックスはミランダの心情を推測する。

 漫画、ゲーム、アニメと様々なカルチャーに浸かった、前世ヲタクであるフェリックスはミランダの反応に心当たりがあった。


 ツンデレ。


 ツンツンしているミランダがなぜか知らないが、今はデレの状態である。

 これはチャンスだ。


「クリスティーナさんは編入試験を合格した、チェルンスター魔法学園の生徒です」


 フェリックスはこの状況を利用することにした。


「ですが、ミランダさんの言う通り、クリスティーナさんは”透明”と判別され、困っているんです」

「”透明”は――」

「学年首席の優秀な先輩が支えてあげないといけないと思うんですよね……」

「うっ」


 フェリックスの提案に、ミランダの言葉が詰まる。


「……わかりましたわ」


 少しして、ミランダはこほんとわざとらしく咳ばらいをした。


「先輩として、クリスティーナさんを導きますっ」


 ミランダは堂々とフェリックスとクリスティーナの前で宣言をする。


(変わった)


 フェリックスが知っている乙女ゲームのストーリーと大きく変化した。


(これは……、僕がミランダとの決闘で勝ったから起こせた奇跡)


 フェリックスの目の前で、ミランダとクリスティーナが握手をしている。

 クリスティーナは現状に戸惑っており、何度も瞬きをしている。


(攻略キャラにクリスティーナを助けてもらおうと思ってたけど……、ミランダがその役割になるとは)


 予想外の展開になった。

 ミランダは悪役令嬢で、ヒロインであるクリスティーナを徹底的に追い詰めていくキャラクターなのだが、フェリックスの行動で変えてしまった。


(もしかしたら……)


 フェリックスはクリスティーナを救う他に、もう一つの可能性について考えていた。

 自分の行動次第で、悪役令嬢であるミランダ・ソーンクラウンも破滅する運命から救えるのではないかと。



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