チェルンスター魔法学校の伝統。
【恋と魔法のコンチェルン】のゲームシステムの一つ。
決闘。
双方の意見が合わない場合、一対一の魔法バトルを行う。
勝者の主張が正しいとされ、敗者は勝者の主張を呑むことになる。
「フェリックス先生が勝ったら私の副顧問、負けたら雑用係でいかがですか?」
「……わかりました。受けて立ちましょう」
リドリーの提案にアルフォンスが乗っかる。
(出勤初日から決闘か……)
ゲーム内で決闘は何度もやった。
クリスティーナの視点で、アルフォンスとも戦ったことがある。
アルフォンスの得意属性、戦闘スタイルは頭の中に入っている。
生徒のクリスティーナでもアルフォンスに勝てるのだ。優秀な成績でこの学校を卒業したフェリックスであれば楽勝だろう。
「校長先生、決闘場お借りしますね」
「う、うむ……」
「審判は私がやります。二人とも、行きましょう」
フェリックスはリドリーに先導され、アルフォンスと共に決闘場へ向かう。
決闘場は魔法バトルを行うということで広さがあり、他の部屋よりも天井が高く設計されている。
先生同士はともかく、生徒は二学年から使用することができ、様々なものを賭けて戦う。
「では、フェリックス・マクシミリアン対アルフォンスの決闘を行います!」
決闘場の中央に立ち、フェリックスとアルフォンスが対峙するような形で立つ。
審判のリドリーは二人の中間の位置に立っている。
「フェリックスが勝った場合、二年B組の副担任を務める。それでよろしいですね?」
「はい」
リドリーはアルフォンスに話しかける。
アルフォンスはリドリーの主張を受け入れる。
「アルフォンスが勝った場合、雑用を一年間務める。それでいいですね?」
今度はフェリックスの方を向いて話しかける。
「はいっ」
フェリックスはアルフォンスの主張を受け入れる。
「双方、防御魔石の装備を」
リドリーはポケットから小さな乳白色の石を二つ取り出した。彼女は杖を振って、その石をフェリックス、アルフォンスそれぞれの手の平に瞬時に移動させた。
この石こそが”防御魔石”。
魔法攻撃を一度防いでくれるという決闘において必須のアイテムである。
この決闘は先に防御魔石を砕かれたほうが負けになるのだ。
(おお、ゲーム通りの展開だ)
フェリックスはリドリーから受け取った防御魔石に自身の魔力を込める。
乳白色だった防御魔石がほんのり赤く染まる。
(僕の得意属性は”火”だな)
防御魔石は魔力を込めると相手の得意属性の色にほんのり染まるという特性がある。
フェリックスの場合、赤く染まったため、火属性の魔法が得意となる。
「双方、杖を構えなさい」
フェリックスは防御魔石を胸ポケットにしまい、腰ベルトに装着している杖を抜き、先端をアルフォンスに向けた。
アルフォンスも同様にフェリックスに杖を向ける。
リドリーが後方へ下がり、フェリックスたちから離れる。
「では、決闘……、始め!!」
リドリーの声と共に、決闘が始まった。
☆
「ファイアボールっ」
開始の合図すぐにフェリックスは呪文を唱え、火球をアルフォンスに向けて放った。
チェルンスター魔法学校の元優等生とあって、フェリックスの魔法はゲームの主人公クリスティーナよりも優れている。
呪文から、魔法になるまでの時間が短い。
威力もある。
「ウォーター」
だが、これではアルフォンスに勝てない。
フェリックスが放った火球を涼しい顔で打ち消す。
(簡単には勝たせてくれないか……)
フェリックスは唇を噛む。
だが、これは想定内。
アルフォンスは水魔法と土魔法を得意とする魔術師。
他の攻略キャラクターと比べ、決闘の勝利条件が難しかったキャラクター。
何も知らぬまま決闘を挑んだら、まずフェリックスは負けていただろう。
「ウォータレイン」
アルフォンスが呪文を唱える。
周りの湿度が急激に上がり、室内だというのにフェリックスの頭上に水滴がポタッと落ちる。
次第に水滴の量が多くなり、雨のように降りだした。
「ファイアボール」
フェリックスが再び魔法で火球を生み出すも、雨のような現象のせいで威力は落ち、アルフォンスに届く前に消えてしまう。
アルフォンスは周りの環境を自分の得意な属性に変化させることが得意。
火属性の魔法が得意なフェリックスにとって天敵のような存在だ。
「勝負あったな」
アルフォンスはフェリックスの魔法が弱まったことで勝利を確信している。
「いいえ、僕が勝ちますよ」
フェリックスは火の魔法に少しの風魔法を混ぜる。
「ファイアカッター」
火球から刃へ形を変え、アルフォンスに向けて放つ。
風魔法を混ぜたことで、威力を上げ、ウォーターレインの状態でもアルフォンスに攻撃が届くようになる。
「ふむ、なるほど」
アルフォンスは少し驚きを見せたものの、杖を一振りし、自身の前に石の壁を出す。
フェリックスの魔法は石の壁に弾かれてしまった。
石の壁はアルフォンスが杖をもう一振りすることで消滅する。
「ちっ」
二つ目の魔法を無効化されたことに、フェリックスは舌打ちする。
ファイアボールもファイアカッターもだめ。
「まだ、あがくんですか」
「ええ。雑用やりたくないものでねえ!!」
フェリックスは呪文の詠唱に入る。
その間、アルフォンスは攻撃せず待ってくれる。
ゲームでも、アルフォンスは相手の魔法を打ち消すことに注力している。
強キャラクターゆえの余裕なのだろう。
クリスティーナの時はそのハンデがあっても苦戦し、何度も負けた。
ロードを繰り返して編み出した、アルフォンスに勝つ方法。
チャージ。
呪文の詠唱が長くなる代償に、次の魔法の威力を上げる基礎魔法。
「ツー、スリー……」
フェリックスはそれを二重、三重にかける。
「フォー」
四重にかけたところで、フェリックスは火球をアルフォンスに放った。
「ファイアボール!!」
「っ!?」
火球の威力が先ほどのものとは違う。
そう悟ったのか、アルフォンスは石の壁を作り出そうとしていた。
しかし、火球の速度に追い付かず、石の壁ができる前に火球はアルフォンスの眼前に――。
パリンッ。
フェリックスの魔法がアルフォンスに直撃する前に、防御魔石が弾ける音がした。
「勝負あり!! 勝者、フェリックス・マクシミリアン!!」
こうして、フェリックスはアルフォンスとの決闘に勝利し、二年B組の副担任の座を勝ち取った。